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目を覚ますと、手を握っていたはずのホスト風の男はいなかった。
お巡りさんにお礼を言ってとっとと帰ろうと思い、声をかけた。
「ああ、たかし、車取りに行っとるけえ、待ってたって」
壮年のお巡りさんはにこにこしながらお茶を出してくれた。
たかしというのか、あの男は。
「まあ、昔からやんちゃばっかしよっけど、悪い男やないけえ、大丈夫やよ」
それから、私の話になった。あまり個人的なことを話すのは得意ではないが、お世話になった以上、仕方がない。
つらつらと県外から来た大学生であることなどを話していると低いエンジン音が聞こえた。
「来よったかいの。ほなまた何かあったら来いや」
手短にお礼を述べて交番の外に出ると、そこにはヤンキー車が待っていた。
ある程度は予想していたが、車高が低い。これ、段差とかで底に傷がついたりしないのだろうか。車に詳しくないので分からないが、それはそれは見事なヤンキー車であった。
「ごめんごめん、起きるまでに戻ってこよ思ったんに」
彼は車から出てくると助手席の扉を開けた。
「乗って」
乗るのか、これに。異文化への戸惑いを感じつつも、もう乗る機会もないだろうしこれも経験である。
助手席に座ると彼は静かに扉を閉めた。
運転席に戻った彼にお礼を述べつつ下宿先を説明する。
「ああ、あのアパートね。昔行ったことあるから知ってる」
ちなみに、女子寮である。彼のただれた人間関係が予測できる。
低いエンジン音を轟かせながら車は発進した。