窓から見える景色
「すっかり草木も枯れてきて、また、外が寒くなってきましたね。」
「ああ。」
「寒くはないですか?」
「大丈夫だ。ここの布団は温かいから。」
「私達が最初にデートをした時も、こんな寒い季節でしたね。」
「そうだったな。あの頃は金もなく、ただ公園を散歩するだけだったな。」
「懐かしいわね。あなた、ずーっと震えてて、可笑しかった。」
「うるさいな。寒かったのだから、仕方ないだろう。」
「ウソ。緊張していたのでしょう?だって、手は温かかったもの。」
「……お前にウソはつけないな。」
「あなたが下手なのよ。誕生日のサプライズだって、いっつもバレバレなんだから。」
「悔しかったなぁ。お前はいつも上手に騙すのにな。」
「あら、騙すだなんて、人聞きの悪い。」
「騙すのが上手過ぎて、一度、大喧嘩になったこともあったよな。」
「そんなこともあったわね。あんなにカンカンに怒ったあなたの顔も、サプライズだと分かってあんなに気まずそうにするあなたの顔も、あの時以外見たことないわ。」
「あの時は、本当に申し訳なかった。」
「いいえ、済んだことですよ。仕事で忙しくしていたあなたが、ちょっとしたことでイライラしてしまう気持ちは私が一番わかっているもの。」
「出張続きで何日も会えないことが多くて、たくさん苦労かけたな。」
「待つことも、嫌いじゃないのよ。次にあなたに会えた時、今度は何をしようかと考えることができるからね。」
「長い出張が終わって久々に会った時には、お前はいつもシチューを作ってくれたな。」
「美味しかったでしょう?」
「ああ、美味しかった。あの味は、忘れられないよ。」
「忘れられないといえば、アレ。私たちに子どもが出来たって言ったとき、あなたその日のうちに赤ちゃんの名前辞典とか買ってきちゃって。可笑しかったぁ。まだお腹も大きくなっていなかったのに。」
「それだけ嬉しかったのさ。母子ともに健康で本当に良かった。」
「そうね。子どもも、もう立派な大人だわ。」
「ああ。でも、いつまでも親は心配なものさ。いつまでたっても子どもは子どもだからね。」
「大丈夫よ。安心して。私がいるじゃない。」
「そうだな。たくさんの辛いことを一緒に乗り越えてきたものな。」
「そうよ。何があっても、きっと大丈夫よ。今まで、本当にいろいろなことがあったんだから。」
「辛いこと、苦しいこと、嫌なこと、たくさんあったな。でも、やっぱりお前といたおかげで、全部、今は良い思い出だよ。」
「私もよ。」
「さて、どうやらそろそろ時間らしい。この病室の窓からの景色にも、ちょうど飽きていたところだ。」
「そうですか。」
「長い間、本当にありがとう。」
「いいえ、こちらこそ。」
「じゃあ、またな。先に待っているよ。お前はもう少し、ゆっくりおいで。」
「ええ、そのときは、またシチューでも。」