<恐怖の悪魔伝説>
デュークがヨルダの秘書官に正式に決まり、庵に住み込むようになってから1ヶ月が経った。
秘書官と言っても、普段はヨルダの茶飲み友達といった風情である。
ただ、ヨルダは最近、溜まりに溜まっていた古い文献などの整理を始めており、デュークもその手伝いに追われていた。
「ヨルダ爺、これってどこに分類すれば良いんだ?」
デュークがいかにも古そうな書簡を持ち上げて、ヨルダに見せた。
「ほう、これはいつ頃の書簡じゃろうか」
ヨルダは書簡に目を通しながら考え込む。
「もう、なんでこんなに溜め込んだんだよ。いつまで経っても片付かないじゃないか」
「ふぉっふぉっふぉ。これでも片付けていたんじゃがな。なにせ長い年月の間に溜まってしまったからのう」
「まあ、それは確かにそうだけどさ。多すぎて何が何やら、さっぱり分からないぜ」
デュークがブツブツ言いながら、山積みの資料を次々と取り出しては並べていく。
そこへ、玄関のベルが鳴った。
「お、来客みたいだな。おいら行ってくるぜ」
デュークが玄関へ走っていく。
「すまんのう!」
ヨルダはデュークが並べた資料を確認しながら、背中に声をかけた。
間もなく、デュークが客を伴って奥の部屋に戻ってきた。
来訪者は、ネイチャーハンターのジンであった。
「おうジンか。そろそろ探索に出るのではなかったか?」
「はい。そう思っていたのですが、準備中に面白い物が出てきましてね」
「ほう、何じゃろ」
「これなんですが……」
そう言って、ジンは古い霊界新聞の切り抜きを差し出した。
「なになに……『恐怖の悪魔伝説』?」
デュークも横から一緒に覗き込む。
「老師は覚えておられませんか? 約1000年前に、一時巷で話題になった話です」
「ふーむ……残念じゃが、覚えておらんのう」
「私もこの手の話には興味がなかったので、資料の山に埋もれていたようです」
内容を読み進めていたデュークが、突如として叫び声を上げた。
「なんだよこれ! 滅茶苦茶ヤバイことが書いてあるじゃないか!」
「どうしたんじゃ?」
「だって、『悪魔が人類を支配して、人類は滅亡する』って書いてあるぞ!」
「なるほど。確かに、そのようなことが書かれておるな……」
ヨルダも眼鏡の奥の目を細める。
「まあ、これは信憑性の薄い都市伝説のようなものなので、あまり気にしなくても良いかもしれませんが」
ジンの言葉に、デュークは少し安心したようだった。
この「悪魔伝説」は、1000年前に突如として囁かれ出した話で、出典は『女神さまの預言書』だと言われている。当時はデュークのように不安になる者も多かった。
しかし、『預言書』を閲覧できるのは内容に関係する一部の天界人だけであるため、「この内容が漏れ出すはずがない」と否定され、悪質な悪戯として消えていった経緯がある。
「ただ先日、嘉助から『日本で上級悪魔が現れた』と聞きましてね。それで改めて読み返してみると、少々気になりまして」
そう言って、ジンが紙面の一箇所を指し示した。
そこに記されていた伝説の内容は、以下の通りであった。
* * *
「人類が封印されし能力に目覚めし時、悪魔の大王も動き出す。
やがて大王は悪魔の軍団を率い、人類に襲いかかるであろう。
そして世界は悪魔の業火に焼き尽くされ、
人類は悪魔の支配を受け、滅亡の道を進むことになるであろう」
* * *
「この『人類が封印されし能力に目覚めた時』という部分なのですが……」
「なるほどの。まるで、今の状況を示しているようじゃな」
ヨルダも表情を険しくし、全文を読み直した。
「これって、ここ最近ヨルダ爺たちが気にしていた内容そのものじゃないのか?」
「そうじゃ。そう考えると、少々不気味な内容に見えてくるのう」
「私も老師とシステム管理センターへ行ったばかりでしたので、これを見てゾクッとしてしまいましてね」
ジンの言葉に、デュークの顔が真っ青になる。
「なんだよ! やっぱり滅茶苦茶怖いじゃないか!!」
庵の中に、デュークの絶叫が虚しく響き渡るのだった。




