<悪魔の本拠地>
薄暗い部屋の中で、男女が大きなソファで寛いでいた。
そのソファはよく見ると、いかにも高級そうな作りだが、同時にかなりの年代物であることも窺わせる。
周囲を石壁に囲まれたその部屋には窓がなく、壁の表面には不規則な凸凹が見られた。おそらく自然の洞窟内なのだろう。
空間はかなり広いようで、ソファの前のテーブルには年代物の燭台が灯され、壁に掛けられたいくつかのランプが、室内をうっすらと照らし出していた。
ここは洞窟の最深部に位置する広間らしい。
広間からはいくつかの通路が伸びており、そちらの方からは、時折薄気味悪い叫び声が響いてくるようであった。
広間から少し離れた通路の奥に、青白く淡い光を放つゲートが設置されていた。
そのゲートの光が、急に強く輝き出す。
「おや? もう帰ってきたのですかね」
ソファの男が気配を感じたのか、広間の入り口へと視線を移して呟いた。
向かいで寝そべっていた女性も顔を上げ、同様に入り口の方を向く。
「ん? 誰かが戻ってきたのか?」
ソファの男はデミトリ。痩せぎすの長身で、眼鏡をかけた神経質そうな顔立ちだ。彼は元神父であり、今もなお神父服を着用している。
女の方はカテリナ。女性にしては大柄で体格も良く、露出の多い派手な服装に身を包んでいる。戦闘を好む残忍な性格の持ち主だ。
間もなく、広間に三人の男女が入ってきた。ダーズリー卿たちである。
彼らの服は焼け焦げ、ボロボロになっていた。ガードナーは姿を見せるなり、服の埃を払うような仕草をしてぼやいた。
「まったく、ひどい目に遭ったぜ。あの腕力火炎女に出会うとはな」
「本当ね。あんな化け物には二度と会いたくないわ」
ティモラもうんざりした様子で、所々が焼け焦げた自分の服を気にしている。
「あら! 随分とお早いお戻りだこと」
カテリナが嫌味っぽく声をかけた。
「ふん。想定外のことが起こったんだよ」
ガードナーは不機嫌そうに吐き捨てる。
「腕力火炎女というと、以前お話ししていた霊界の女戦士ですか?」
デミトリが神経質そうに、人差し指で眼鏡を押し上げながら問いかけた。
「ああ、一番会いたくない『赤い魔女』だよ」
そんなやり取りの間、ダーズリー卿は不機嫌そうに黙ったままソファに腰を下ろした。
「あんたたち、前回も日本で姿を見られていたわね。霊界に情報が漏れているんじゃないの?」
カテリナの言葉に、ティモラが鋭く反応する。
「あたしたちの中に裏切り者がいるって言うの?」
「それは無いな。わしらが日本へ行くことは、ここにいる者しか知らんからな」
ダーズリー卿は、いかにも不愉快だと言わんばかりの口調で遮った。
「そうですよ。まあ、天界人とやらは信頼できませんけどね」
「ふん。あいつらはあたしたちを利用している気でいるみたいだからね。いけ好かない連中だよ」
カテリナが不貞腐れたように言う。
「それはお互い様でもあるがな。最後に笑うのがわしらであれば、それで良いだけよ」
ダーズリー卿は不敵な笑みを浮かべた。
「まあ、ダーズリー卿様も暫くは自重していただきますよ。あたしたちが待ち望む『時』までは、あと少しのようですからね」
ティモラの言葉に、ダーズリー卿も静かに頷いた。
その後、彼らはそれぞれ着替えを済ませ、酒を飲みながら寛ぎだした。
そんな喧騒の中、ダーズリー卿は独り静かに呟いた。
「間もなく始まるな。……悪魔の宴の時がな」




