<杏子、怒りの鉄拳>
杏子はダーズリー卿が何かしようとした気配を察知し、即座に「次元結界」を張った。
この結界は、特定の範囲内にいる指定した相手だけを、異次元空間へと隔離する能力である。
(よし! これで閉じ込めたぞ)
心の中でほくそ笑みながら、杏子はいきなりダーズリー卿たちへと襲いかかった。
一気に距離を詰め、ダーズリー卿に渾身の一撃を叩き込む。
だが、その拳はガードナーによって間一髪で阻止された。
「相変わらず乱暴なお嬢さんだな」
ダーズリー卿は、にやけ顔で杏子に言い放った。
「久しぶりだが、やっぱキツイ一撃だ。腕が痺れるぜ」
ガードナーはそう言いながらも、好戦的にニヤリと笑う。
「ふん。そう言っていられるのも今のうちだよ!」
杏子は止められた拳を素早く引くと、今度は拳に炎を纏わせ、至近距離から火炎の衝撃波を放った。
「あら、私もいるのよ」
今度はティモラが氷の障壁を展開し、杏子の猛攻を防ぐ。
「お前も邪魔なんだよ!」
杏子は叫ぶと同時に、今度は足に火炎を集中させた。強烈な回し蹴りが放たれ、氷の障壁ごとティモラを蹴り飛ばした。
「あはは! 流石は化け物だな」
戦闘そのものを楽しんでいるのか、ガードナーが足に鋭い風の刃を纏わせ、杏子に蹴りを見舞う。
しかし杏子はそれを軽く手で払いのけると、さっきとは逆の足でガードナーを蹴り返した。
二人は激しい攻防を繰り広げるが、杏子の圧倒的なパワーが勝り、ガードナーもついに吹き飛ばされた。
「ほう。相変わらず無茶苦茶なお嬢さんじゃな」
仲間二人が飛ばされたというのに、ダーズリー卿にはまだ余裕があるようだ。
「うるさい! 今度こそ消し飛ばしてやる!」
杏子は拳から極大・極熱の火炎を、至近距離でダーズリー卿に浴びせた。
爆炎が吹き荒れる。これは確実にダーズリー卿を捉え、全てを焼き尽くしたかに見えた。
流石のガードナーとティモラも顔色を変え、「ダーズリー卿様!」と叫んだ。
しかし、猛烈な炎の中から、ダーズリー卿の落ち着き払った声が響いた。
「二人とも、時間稼ぎは十分だ。そろそろ帰るぞ」
炎が消えると、そこには無傷のダーズリー卿が立っていた。ガードナーとティモラも素早くその傍らへと寄る。
杏子はすかさず追撃の構えを取り、三人が固まった瞬間に炎の矢を雨のように降らせた。
だが、それらも何らかの不可視の障壁に阻まれ、三人には届かない。
「それでは、またいずれお会いしましょう、お嬢さん」
ダーズリー卿が告げると同時に、その場に現れた黒い渦が三人包み込み、そのまま掻き消えるように消滅した。
「くそっ! あたしの結界でもダメか……」
残された杏子は悔しそうに、三人が消えた空間を鋭く睨みつけた。
どうやらダーズリー卿は、仲間に時間稼ぎをさせている間に脱出の準備を進めていたようだ。彼自身もまた時空間系の高レベル能力者であり、その力があるからこそ、これまでも霊界の追跡を逃れ続けてきたのである。
杏子が結界を解くと、一瞬にして周囲に行き交う人々の喧騒が戻った。
(とりあえず、嘉助に報告するか……)
彼女は忌々しげに呟くと、足早にその場を去っていった。
* * *
一方、一人取り残されたリピウスは、ポカンと口を開けて佇んでいた。
赤髪の女性が三人組に接近したと思った次の瞬間、突如として四人の姿が消えてしまったのだ。
霊力探知も全く反応しない。何が起こったのか、リピウスには理解が追いつかなかった。
唖然としていると、今度は赤髪の女性だけが再び姿を現した。
彼女は何か悔しそうに呟くと、そのままどこかへ向かって去っていった。




