<偶然の出会い>
杏子が昨年末に「ダーズリー卿が渋谷に出現した」と報告してから、既に3ヶ月が経過している。
クリスマスモードだった世間も、今ではすっかりお花見モードに変わっていた。
それなのに、この3ヶ月間、霊界にはまるで動きがない。
報告から1ヶ月経っても音沙汰がないことに痺れを切らし、杏子は嘉助を問い詰めた。
「嘉助! なぜ天界は討伐指令を出さないのだ!」
「それは無理なんだよね〜」
相変わらず、嘉助はとぼけた表情で答える。
「なぜ無理なんだ! 200年前も400年前も、今までは即座に討伐令を発して、聖騎士団やデーモンハンターを動員していただろう!」
「それはね……あの時は既に200年周期で悪魔が多発していたからだよ。今回は、まだ新しく悪魔が発生しているわけじゃないからね」
「そんなことを言っている場合か! ダーズリー卿だぞ。奴が現れるということは、今後悪魔の発生が頻発するっていう予兆だろうが!」
「まあ、そうなんだけどね……。まだ発生していないからね。お役所ってのは、何かが起こらないと動かないものなんだよ。杏子だって知っているでしょ?」
嘉助は妙に悪戯っぽい目で杏子を見つめた。
杏子はますます怒りが込み上げた様子で、拳を握りしめた。
「もういい! 天界も嘉助も動かないなら、あたし一人だけでも奴を仕留めてみせる!」
吐き捨てるように言うと、杏子は部屋を飛び出していった。
それ以来、杏子は毎日のように出現場所である渋谷を巡回し、他の繁華街を回ってダーズリー卿を探し続けた。しかし、何の手がかりもないまま闇雲に動き回ったところで、発見できるはずもなかった。
そうして、季節はお花見シーズンに突入した。
杏子も流石に以前ほど付きっきりで巡回はできていなかったが、それでも時間が取れる時には、思いつくままに見回りを続けていた。
そんな折、偶然が重なった。
たまたま杏子が池袋のサンシャインシティのショッピング街を見回っていた時、同じくリピウスもサンシャインを訪れていたのだ。
リピウスは春物のファッションチェックに来ていたのである。
もともと池袋はリピウスにとっても馴染み深い街だった。特にサンシャインは水族館があるため、年に一回は見に来ている。かつてナンジャタウン内で「石垣島ラー油」を発見した時には、毎月買いに通い詰めたこともあった。
リピウスがブラブラと歩いていると、突然、巨大な霊気反応を感知した。
(!!!)
例によって半径300mの範囲で展開していた霊力探知に、今まで検知できていなかった強大な霊気が突如として現れたのだ。
(1万……! なんだ、これは?)
それは杏子だった。
ブラブラと歩きながら周囲に気を配っていた彼女だったが、ふと天界の無策を思い出し、思わず(クソー!!!)と心の中で強く叫んでしまったのだ。その瞬間、怒りに呼応して霊気が噴き上がった。
その霊気は周囲の一般人にも微かに感じられたようで、杏子の周りでは「ひっ」と声を漏らしたり、落ち着かなげに辺りを見回したりする人が続出した。
杏子も(しまった……)と気づき、即座に霊気を抑え込んだ。
しかし、リピウスは見逃さなかった。
すかさずドローンを発進させ、今検知した強大な霊気の持ち主へと飛ばす。その時には既に霊気は「10」程度まで抑えられていたが、リピウスは瞬時にマーキングを完了させていたため、追跡は容易だった。
ドローンが捉えた映像に、リピウスは目を凝らす。
(こいつか……。多分、霊界人だな)
映し出されたのは、赤髪で大柄な女性だった。外見的には日本人には見えないが、黒い瞳など和風な雰囲気も持ち合わせている。リピウスは直感的に、彼女を霊界人だと断定した。
そのまま一定の距離を保ちつつ追跡を続行する。なぜ追うのか、自分でも明確な理由はわからなかった。ただ、何となく放っておけない直感に従っただけだ。
そうして10分以上が経過した時、リピウスに戦慄が走った。
(この反応は……!)
リピウスの心に、あの日の恐怖が蘇る。
渋谷で感じた、あの異常な「気」を検知したのだ。
今回も3つ。そしてあの時と同じように、探知がチラチラと点滅している。
間違いなく、あの時の3人だ。
リピウスは震える手で2つ目のドローンを射出し、怪しい気配の元へと飛ばした。




