<妄想が現実なの?>
お待たせいたしました、第6話の更新です。
夜の10時過ぎ、回転寿司を囲んで盛り上がる、人間一人と霊体二人。
リピウスが滔々と語る「霊界の設定」は、驚くほど現実の霊界の核心を突いていました。
「これ、本当にただの妄想なのか……?」
疑念を抱くヨルダ爺の前で、リピウスはさらりと「光の玉」を作り出します。
それは、本来なら何年も修行しなければ到達できないはずの高密度な霊力でした。
30年間のイメージトレーニングが、今、とんでもない現実を引き寄せようとしています。
リピウスは、これまで妄想に妄想を重ねて練り上げてきた「霊界の世界観」を延々と話し続けた。
時間はすでに夜の10時を過ぎていた。
途中、「腹が減った」と言って近所の回転寿司から寿司盛りをテイクアウトし、三人で食べながらも話は止まらない。
デュークは「やっぱマグロは最高だな! 寿司なんて何十年ぶりか覚えていねぇぜ」と涙ぐみ、ヨルダ爺は「ふぉっふぉっふぉ、わしもじゃ。ふむ、この『エンガワ』という部位の食感は、心が痺れるような味わいじゃな」と、もっともらしい顔で味わっている。
そんな二人を尻目に、リピウスは自身の妄想話に没頭していた。
そして、ようやく一段落すると。
「ふぅ〜……。ってな感じですよ。いや〜、妄想を誰かに聞いてもらえる日が来るなんて思ってもいなかったので、ついつい夢中になってしまいました」
リピウスは実に満足そうな、喜びの表情で一息ついた。
ヨルダ爺とデュークも、驚きながらリピウスの話に引き込まれていたようだ。
「そうそう! 天界の奴らって威張りくさってよ〜。お前、分かってるじゃん」
「ふむ……。確かに、そういう時代もあったのう」
と思わず相槌を打ちながら聞いていた。
「なるほどのう……」
リピウスの話が終わると、ヨルダ爺は食べ終えた寿司の折詰を眺めながら、何かを納得したように深く、深く頷いた。
「だけどよ、今の話って本当にお前ひとりで妄想した内容なんだよな?」
デュークが信じられないといった表情で聞いてきた。
「ああ、そうだよ。何度も推敲し続けたけどな」
「信じられねぇなぁ……。なあ、霊界人に会ったのはおいらたちが初めてなんだよな?」
「そうだよ。今日、屋根の上でデュークと会ったのが最初だよ」
「ふうむ……。これは単なる妄想の範疇を超えているようじゃの。よくもそこまで正確に踏み込んだものじゃて」
リピウスの話は、人間が死んで「幽界」に辿り着くところから始まり、「霊界学園」での霊力の使い方、霊界での生活知識まで、事細かに描かれていた。
特に、肉体を持たない霊界人がどのように霊力を活用して生活しているのか……といった点は、ヨルダ爺の知る限り、驚くほど正確だったのだ。
また面白いのが、人間界を創った理由である。
リピウスはそれを、一言でこう言い放った。
「結局、人手不足解消のために、霊界人のお偉いさんが楽をしたかったんじゃないか?」
これにはヨルダ爺も驚きを隠せなかった。
ある意味、その通りであったことを知っていたからである。
「ん? もしかして、俺の妄想した霊界って現実の霊界に近いのか?」
否定しない二人を見て、リピウスがかえって不思議そうに尋ねた。
ヨルダ爺は少し慌てた様子だったが、すぐに話を変えようとした。
「あ、うむ……。まあ今の話を聞くと、リピウスが霊力に関しても、わしらの言葉をすぐに理解できたというのも頷ける。……で、リピウスよ。おぬしは今も霊力を使えそうかの?」
ヨルダ爺は、じっとリピウスを見つめて問いかけた。
リピウスは、左の手のひらを上にして前に突き出した。
しばし見つめていると、そこに光の玉が現れた。
ヨルダは、その左手を凝視した。
(……まさか、とは思うが)
次の瞬間、ヨルダの背筋に冷たいものが走った。
リピウスの掌の上で、大気中の霊子が異常な密度でうねり始めたのだ。
それは単なる「発光」ではない。
本来、霊力を使うには、原理を学び、実技を通した修行を重ねるのが不可欠だ。
しかし、この男はどうだ。
まるで長年使い込んだ道具を手に取るように、あまりに無造作に、あまりに簡単に、純度の高い光の玉を形作っていく。
(なんという練度じゃ……。妄想、と本人は言っておるが、この男は三十年もの間、頭の中で霊力を『実際に運用』し続けておったのか。イメージという名の仮想空間で、気が遠くなるほどの反復練習を積んできたというのか……!)
野球ボールほどの大きさに膨れ上がった光は、微塵も揺らいでいない。
(初めてでこれほど制御できる者は、わしも見たことがない。これはとんでもない逸材に出会ってしまったのかもしれんのう……)
ヨルダは、リピウスが作りだす光の玉を見つめながら、かつて感じたことのない興奮に包まれている自分に驚いていた。
光が野球ボールほどの大きさになったところで、リピウスは大きく息を吐き出した。
その瞬間に光の玉も消える。
「ふぅ〜……。やっぱ、まだダメだね。この程度でも少し疲れる。でも、霊力自体は使えるようになったみたいだ。封印も解けたのかな?」
リピウスの妄想世界では、「人間に宿った霊魂は霊力を封印されており、人間でいる間は霊力を使えない」という設定になっていた。
「そのようじゃな。まあ、わしらが見えている時点で封印は解けておると思ったがの」
ヨルダ爺は少し圧倒された様子で、ぽつりと呟いた。
その後も霊力に関連する話を交わし、いつの間にか時間は深夜0時を過ぎていた。
「あ! もうこんな時間か。まずいな、そろそろ寝ないと。明日、町内会のゴミ当番なんだよね」
言ってから、リピウスはふと我に返って苦笑した。
宇宙の成り立ちや霊界の構造を語り合った直後に、町内会の義務を思い出した自分がおかしくなったのだ。
「おう、すまんな。わしらは睡眠はあまり重要ではないから、つい忘れておった。ひとまず今日はこの辺にしておくかの」
「のうリピウスよ、明日も昼過ぎあたりから時間はとれるかの?」
「いいよ。今は毎日が休日だからな。昼過ぎなら都合もいいよ」
「デュークは明日は仕事じゃな?」
「うん。でも上司に連絡すれば大丈夫だぜ。ヨルダ爺の用事だと言えば、上司も二つ返事だからな」
デュークはなぜか誇らしげに答えた。
「では、すまんが明日続きということで良いか?」
「「了解!」」
こうして、俺の怒涛のような一日は終わった。
第6話までお付き合いいただき、本当にありがとうございます!
回転寿司の「エンガワ」を愛でるヨルダ爺と、町内会のゴミ当番を気にするリピウス。
宇宙の真理を語った直後のあまりに日常的な光景ですが、これこそが「生きて、肉体を持っている」ということなのかもしれません。
さて、ヨルダ爺を驚愕させたリピウスの「異常な霊力」。
明日の昼過ぎ、再び集まった三人の前で、物語はさらなる広がりを見せます。
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それでは、また明日の更新でお会いしましょう!




