<なんかおかしい?>
お待たせいたしました、本日2話目の更新です。
無事に自分の体へと戻ることができた主人公。
協力してくれたヨルダ爺たちにお礼を伝えますが、どうにも体の様子が普通ではないことに気づきます。
肉体があるはずなのに、霊体の二人の姿がはっきりと見え、心の中の声まで聞こえてくる。
さらには、死後の世界について彼が語り出した「三十年来の妄想」に、不思議な力を持つ二人も驚きを隠せません。
ついに明かされる、主人公の名前「リピウス」。
不思議な老人たちとの、世にも奇妙なティータイムが始まります。
俺は頭をさすりながら、ゆっくりと起き上がる。
倒れていた椅子を元に戻すと、見守ってくれていたヨルダ爺とデュークに向かって、深々とお辞儀をした。
「本当にありがとうございました。なんとか生き返れました」
『いや〜、よかったな〜! 一時はどうなるかと思ったけど、本当に本当によかったよ!』
デュークは俺以上に嬉しそうに喜んでくれた。
「うん。デュークとヨルダ爺に会えなかったら、俺は今頃死んでいたよ」
そう言って、俺は何度も頭を下げてお礼を言った。
だが、なぜかヨルダ爺だけは怪訝な顔をして俺を見つめている。
「ん? ヨルダ爺、どうしたんだ?」
『お、おぬし……わしらが見えているのか?』
ヨルダ爺は、ひどく驚いた顔で言い出した。
「よしてくれよ。見えているに決まってるじゃん。だって、最初から見えていたでしょ?」
『そうだよ、ヨルダ爺。なに変なこと言ってるんだよ』
デュークも横から口を挟む。
『い、いや……。肉体に戻ったのであれば、わしらが見えるはずはないのじゃがの』
「「え?」」
俺とデュークの声が重なった。
ヨルダ爺が不思議そうにしていたのは、「人間が肉体に戻れば、霊体のデュークたちは見えなくなるはず」という理屈からだった。
先ほどまでは俺自身も霊体だったので、霊視という能力でお互いを確認できていた。だが肉体に戻れば、人は肉体の目を通じて物を見る。霊体は見えなくなるのが普通なのだという。
会話にしても、先ほどまでは「念話」という魂同士の通信だった。
なのに今でも、俺には二人が見えるし、念話も直接頭に届いている。
「え? もしかして、俺の声って聞こえてない?」
『いや、我々は人間の音声も聞こえるから問題はない。じゃが、実際におぬしは音声と同時に、念話でも話しておるぞ』
「ん? そうなのか? 意識はしていないんだけどな」
『うん。確かに両方聞こえてくるな。ほぼ同時だからあまり違和感はないけどさ』
デュークが頷く。
「へぇ〜……。俺の口は動いていて、同時に心で思ったこともそのまま二人の頭に届いているわけか。なんだか不思議なステレオ放送みたいだな」
『それより、なぜ我々が見えるのじゃろうな?』
「うーん……。それって、一度見えたから、そのまま霊視できるようになったとか?」
『そうかもしれんが……』
ヨルダ爺は、まだ納得がいかない様子だった。
しばらく考え込んでいたが、ようやく自分を納得させる理由に思い至ったように、ヨルダ爺が顔を上げた。
『ふむ。やはり、完全に「霊体離脱」したことが原因じゃろうな』
『お! ヨルダ爺、原因が分かったのか?』
『分かったとは言い難いがの。恐らく彼は完全に肉体から切り離され、数時間とは言え霊体として全てを見聞きしておったわけじゃからな。その影響で、肉体に戻っても霊体側の感覚を使い続けておると考えるのが妥当じゃろう』
「ふーん、そんなものなのかね。まあ、俺的には不便もないから構わないけど」
『もしかしたら、霊魂が肉体に定着して安定すれば、肉体側の目や耳のみを使うようになるかもしれんな。こればかりはしばらく様子を見るしかないのう』
ヨルダ爺はそう締めくくったが、すぐにまた俺を見つめて尋ねてきた。
『ところで、もう一つ気になったことがあるんじゃがの』
「なんだい?」
『うむ。さっきまではわしも夢中で気にしなかったのじゃが……。おぬしはわしの指示を聞いて、すぐに理解して対応しておったじゃろ?』
「ああ、ヨルダ爺が色々教えてくれたからね。随分助かったよ」
『そこじゃよ。まるでおぬしは「霊力」について、元から知っているかのようではなかったか?』
『おお! 確かに言われてみれば、お前って俺以上にヨルダ爺の言ってることを理解してるみたいだったな』
デュークも思い出したように声を上げる。
『そのおかげで、思った以上にスンナリ魂を戻すことができたわけじゃが……。思い返すと、少々不思議でな』
「あ〜、それですか」
俺は頭をかきながら説明した。
「俺は過去に何度か、ふと気づいたら自分で自分を客観的に見ているような感覚になることがあったんですよ」
『ふむ。それは幽体離脱しかけておったのかもしれんな』
「たぶんね。ただ、そんな経験から『もしかして肉体と魂って別々に存在してるんじゃないか?』って思い始めたんだ。そこから、人間が死んだら魂はどうなるのか、とか色々考え始めてね」
『まあ、そのようなことを考える人間も多いかもしれんのう』
「だよね。でも俺の場合は、結構強烈な妄想癖があってさ。もう三十年来、死後の世界として『霊界』とか『幽界』とか『天界』とかを妄想し続けてきたんだ。その過程で、霊界人の生態や霊力システムなんかも、自分なりに世界観として構築しちゃってたんですよ」
『ほぉ〜……』
『へぇ〜……』
二人は同時に驚きの声を上げた。
「そうだ! 立ち話もなんだから、コーヒーでも淹れるよ。ちょっと座って話さないか? ほら、『義体』とかってのもあるんでしょ?」
俺の言葉に二人はやや怪訝そうな顔で見つめ合うが、すぐにそれぞれ手をかざした。
空間が歪み、小さな穴が開く。二人はその穴の中から、等身大の人形を引っ張り出し、テーブルの前に並べた。
「お! 凄いな。霊体の時と同じ格好をしてるんだね。めちゃくちゃ精巧じゃん」
興味津々で見つめる俺の前で、二人はそれぞれ人形の中へと姿を消した。
するとすぐに、人形が目を開けて動き出した。
俺は思わず近くまで寄り、顔や体に触れ始めた。
「わぁー! 本当に精巧だな。肌触りなんて人間の肌と変わらないじゃないか。服は本物の服を着せているのか?」
無遠慮にはしゃいでいると、流石にデュークがゴホンゴホンと咳払いをしてきた。
そこでようやく俺も、無礼な行いに気づいてサッと手を引いた。
「ごめんなさい! つい夢中になっちゃって。本当に失礼しました」
『ほっほっほ。まあ良いよ、良いよ。初めて義体を見たのじゃから、驚くのも無理はない。のう、デュークも許してやらんか』
ヨルダ爺の言葉に、デュークも苦笑いしながら頷いている。
俺がテーブルへ誘うと、二人は人間と同じように歩いて椅子に腰を下ろした。
コーヒーとお茶菓子を出すと、デュークが嬉しそうに手を伸ばそうとした。
『これ、デューク! お行儀が悪いぞ』
ヨルダ爺にたしなめられ、デュークは照れ臭そうに首をすくめる。
『いや〜、人間界のお菓子は美味いですからね。本当に久しぶりなんっすよ』
『ま、まあそうじゃな。どれ、わしも一ついただこうかの』
ヨルダ爺も、俺が勧めるのをじっと待っていたようだ。
コーヒーで人心地ついたところで、ヨルダ爺が口を開いた。
『ところで、おぬしのことはなんと呼べばよいかな? 良ければ名前を教えてほしいのじゃが』
そう言われて、俺はまだ名乗っていなかったことに気が付いた。
「あ! すみません。えーと……。俺のことは『リピウス』って呼んでもらえますか?」
『え? お前って日本人じゃなかったのか?』
デュークが驚いたように聞いてくる。
「日本人だよ。人間の名前はちゃんとあるけどさ。二人とは霊的な付き合いになるだろうから、俺が妄想の中で使っていた『ソウルネーム』を名乗りたいんだ」
『なるほど、ソウルネームとは面白いことを言う。まあ、霊界人っぽくて良いかもしれんな』
ヨルダ爺は結構気に入ってくれたようだ。
実は、霊界の住人になる際、人間時代の名前を捨てて新しい名前に変更するケースは多い。人間時代の記憶が消えていることもあるが、新しい世界への旅立ちとして、新たな自分を名乗る方が適していると感じる者が多いからだ。
ゆえに「リピウス」という響きは、ヨルダにとって妙に親しみの持てるものだった。
『さて、リピウスよ。良ければおぬしが妄想したという「霊界」の話を聞かせてもらえんかな? 少し興味があってな』
「お! ヨルダ爺、聞いてくれるのか? いいぞ、少し長くなるけど、じっくり聞いてくれ!」
俺は嬉々として、自分が作り上げた妄想世界の話を始めた。
第5話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついに「リピウス」としての第一歩を踏み出しました。
30年間温めてきた自分の「妄想」を、本物の霊界人に聞いてもらう……。
作家やクリエイターなら一度は夢見るシチュエーションかもしれませんね。
次回、**第6話「<妄想が現実なの?>」**は明日(あるいは本日夜)更新予定です。
寿司をつまみながら語られる、リピウスの「妄想」の驚くべき的中率。
そして、彼が何気なく放った「光の玉」が、ヨルダ爺を震え上がらせます。
お楽しみに!




