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<怪盗Zero参上>

秋も深まった頃、全世界の警察組織に激震が走った。


ここはミャンマー南部の海辺に近い都市の外れ。見るからに古びた三階建ての建物を囲むように、静かに大勢の警察官が集まっていた。


「班長、本当にここが詐欺グループのアジトなのですか?」

まだ若そうな刑事が、中年のいかにもベテランといった風情の刑事に小声で話しかけた。


「ああ。国家警察本部から直接連絡があったようだから、多分間違いはないのだろうよ」

「え! 国家警察本部から直接話があったのですか?」


「そうだ。なんでも我が国の各地に点在している、詐欺グループの拠点と指示役等の所在に関する情報が警察本部にあったらしい。拠点の数も多く、広範囲に渡っているため、所轄の警察署ではなく、広域対応可能な警察本部に情報提供がされたそうだ」


「それじゃ、うちだけでなく、他の署も動いているということですか?」

「多分な。恐らく同時進行で複数の警察署が一斉に動いているのだろうよ」


「これは失敗できませんね」

若い刑事は腕をさすりながら、古い建物を見つめていた。


そこに、先行して建物内の様子を伺っていた刑事が戻って来た。

「どうだ? 中の様子は分かりそうか?」


班長が問うと、戻って来た刑事が答えた。

「はい。中は静かですが、微かに物音や呻き声のようなものが時折聞こえてきます。確かに複数の人間が中にいるようです。ただ、妙に静かすぎて少々不気味ではありますが」


その答えに小さく頷くと、班長は何やら決断したようだった。

手に持つ無線機をオンにすると、静かに命じた。

「全員突入!」


捜査員たちが一斉に建物内へと突入していった。

一階に突入した者たちは、すぐに広い部屋へと入っていった。そこにはパソコンと電話機が置かれたデスクがびっしりと並んでいた。

そして中央の少し広い部分に、約40名程度の手足を縛られ、猿轡を噛まされた者たちが転がされていた。大部分は眠っているようだが、何人かは目覚めてゴソゴソ動いたり呻いたりしていた。


「これはいったい!」

班長は思わず呻いてしまった。


縛られた者たちを良く見ると、何やら札のような物が手首に巻きつけられている。

札は緑、黄、赤、黒と色分けされているようだった。


「これって災害時などに使われる、救命用の札ですよね?」

若い刑事が札に触れながら、班長の方に問いかけた。


「ああ、トリアージだな。だが救命の優先順位というわけではなさそうだ」

そう言いながら班長が奥に置かれていたホワイトボードに目をやると、そこには色分けの意味が書かれていた。


班長が目でホワイトボードを指すと、若い刑事も気づいたようで、すぐに書かれた内容を読み上げた。


緑の札:拉致等で連れて来られた被害者。情状酌量を願う

黄の札:高額のバイト情報に釣られて応募し、個人情報を把握されて抜けられなくなった世間知らず達。相当な罰を与えて社会勉強をさせるべし

赤の札:仕事内容を知りつつ、金儲けの為に参加した小悪党たち。徹底的に罪を償わせるべき

黒の札:詐欺グループの幹部。将来の指示役。絶対に社会に放ってはいけない者達


By<怪盗Zero>


ホワイトボードの前にはテーブルが置かれており、そこには資料が山積みされていた。

見ると、電話を掛けるための顧客リストや様々な情報が書き込まれた資料の他、何かの映像等が録画されているようなメモリーカードまで揃えられている。

後に警察内で精査されるが、これらはそのまま詐欺の証拠として使える物ばかりであった。


「怪盗Zeroか……。なるほどな。随分ご丁寧なことだ。既に裁きを下しているかのような内容だぜ」

班長はフンと鼻を鳴らしながら、不満げな表情で呟いた。


建物内には、一階の他にも二階にも少し小さな部屋に20名ほどが拘束されていた。どうやら詐欺の種類が違う担当者のようだ。

三階は簡易の宿泊施設のような作りになっていた。大部分の者たちは、ここに監禁状態で働かされていたようだ。


こうして警察は、何の苦労もなく詐欺グループの拠点捜査を完了し、今までにないほどの大きな成果を得ることができたのであったが、捜査官たちは複雑な心境であったことも確かであろう。


この日に捜索されたのは、南部地域を対象とした10の拠点であり、一斉に捜査対象になっていた。他にも幹部たちが利用していたであろうマンション等が8ヶ所あったという。


各警察署と警察本部が総出で出動し、逮捕した人数も500人を超えていた。


また同時に、何人かの警察官や詐欺グループに関与していた犯罪組織のフロント企業、地方議員等も逮捕された。こちらも20人以上いたと言われている。


さらに、黒幕と思われる中国系マフィアや、マフィアとの繋がりが強い警察幹部、政財界の要人たちも同時に摘発された。

ただし、彼らは詐欺罪としてではなく、別件での逮捕であった。それは詐欺グループとの関連を立証できるだけの証拠が乏しかったため、確実に立件できる内容での逮捕に踏み切ったためであった。今後捜査の過程で詐欺グループとの関与も暴かれていくだろう。


彼らに関しては、同時にマスメディアにも情報が提供されており、そこには犯罪だけでなく、不倫や不正献金等も含めたあらゆる醜聞が網羅されていた。

そのため、彼らは仮に法的には軽い刑であったとしても、社会的には地位も名誉も全てを失うことになってしまった。


そして、これはミャンマーだけで発生したことではなかった。

この二週間の間に、同様の情報提供が世界各地でも行われていた。

その捜査に動いたのは、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア等の欧米各国の警察組織と、東欧・バルカン諸国関連、フィリピン、タイ、ベトナム等の東南アジア各国もである。


その規模も半端ないものであった。警察へ伝えられた拠点情報は百近くであった。実際にはもっと多数の拠点が関与してはいたが、詐欺組織内でも最重要と思われる拠点のみを対象にしていたようであった。

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