<アルティア様の加護持ち>
デュークは仕事帰りにヨルダ爺の庵を訪問した。
「よお! ヨルダ爺、居るかい!」
いつものように声をかけながら、ズンズンと庵の奥へと入っていく。
以前は庵の奥にある自室で寛いでいることが多かったので、デュークはいつの間にか許しも得ずに勝手に入り込むようになっていた。
だが、最近はヨルダ爺が留守にしていることも多かった。
奥の間を覗いてみると、ヨルダ爺がいつもの椅子に座って休んでいる姿が認められた。
デュークは少し嬉しくなって声をかけようと思ったが、ヨルダ爺がどこか疲れたように見えたため、一瞬ためらった。
するとヨルダ爺がデュークの気配に気づいたようで、中へ入るように手招きした。
デュークの顔を見ると、ヨルダ爺の表情もふわりと綻んだ。
そして、いつものようにお茶を淹れてくれた。
「しばらく会えんかったが、その後、変わりはないかのう」
「ん? リピウスのことか?」
「うむ。少し前にリピウスがまた何か企んでいるのではと言っておったので、少し気になっておったんじゃよ」
「う~ん……あの後も、行くたびに格闘技の研究みたいなことばかりしているようだったな。でも昨日は少し飽きてきたみたいでよ。結構、他愛のない話ばっかりだったぜ」
「ほうほう、そうか。なら良いんじゃがな。最近はわしが行けておらんからのう。久しぶりに、来週あたりはデュークと一緒に顔を出してみるかの?」
「そりゃリピウスも喜ぶぞ!」
そんな話をしているだけで、ヨルダ爺の表情も明るくなっていくようであった。
話が一息ついたところで、デュークは昨日から気になっていたことを思い切って聞いてみた。
それは、リピウスと過ごす中で禁則事項を犯しているはずなのに、自分たちが特段の影響を受けていない理由についてだった。
「なるほどのう……」
「今まではヨルダ爺が一緒だからだと思ったりもしていたんだけどよ。なんか、それだけじゃない気もしてきたんだよな」
「ふむ。まあ、わしと共有した行為じゃからな、その影響もあるかもしれんがの」
「やっぱそうなのか?」
「うむ。おそらくはな」
「ふ~ん……。やっぱヨルダ爺は特別な存在なんだな」
「特別と言えば特別かもしれんな。わしら『最初の霊界人』は、全員【アルティア様の加護】をいただいておるからな」
「え? アルティア様の加護?」
それからヨルダ爺は、「加護」についてデュークに説明した。
現在、加護はいくつか存在していることが確認されている。
その中でも最上なのは、当然ながら創造神であるアルティア様の加護である。最初はアルティア様の加護のみが存在していた。
その後、すでにこの世にはいない「霊界の偉人たち」の加護が追加された。それらの偉人は、すべてアルティア様がその功績を認めた者たちであった。
加護持ちは極めて稀な存在だが、授かった者は様々な効果を得られる。
例えば【技巧系】の加護を得れば優れた職人に、【戦闘系】なら特殊な戦闘技術を得られるのだという。
そして【アルティア様の加護】であれば、普通は禁じられている行為であっても、ある程度は許されるのだという。いわば「神の免罪符」のような効果だ。
ただし、余りにも目に余るようで有れば、その時点で加護が取り消され、天罰が与えられることもあるそうだ。
「これはな、わしらも最初は何もできない未熟者じゃったからの。何でもかんでもアルティア様の決め事に従うのは厳しかったのじゃよ。アルティア様も『少し多めに見てやろう』と加護を下さったのじゃ。それに、神の意向ばかりを気にせず、自由な意見交換ができるようにとの配慮もあったようじゃな」
「じゃあ、おいらもその影響で許されているってことかい?」
「おそらく、そうじゃろうな」
「それでヨルダ爺は『リピウスなら良いじゃろう』と言って、あんなにやらかしていたってことか……」
「ほっほっほ。やらかしていた訳ではないぞ。ちゃんとわしなりに線引きはしておったわい」
その後、ヨルダ爺は少し考え込むように、小さく呟いた。
「じゃが……もしかしたら、あやつも『加護』があるかもしれんな」
「え? ヨルダ爺、今なんて言った?」
「いやな、リピウスも何らかの加護を持っているのかもしれんと思っての。まさかとは思うが、アルティア様の加護持ちということも有り得る。……いや、もしかしたらデューク、お主も同様に加護持ちかもしれんぞ」
「ええ~~っ!!!」
デュークは流石に卒倒しそうになった。
「お、おいらが加護持ちのはずねえだろうが! 有り得ねえよ!」
「ほっほっほ。いやいや、あのリピウスとこれだけ付き合えておるんじゃぞ? 十分に有り得ることじゃろうて」
デュークは先日、リピウスと話していた時のことを思い出していた。
リピウスとデュークとヨルダ爺には、何か共通点がある……。
そう考えると、「もしかしたら」と思いたい自分もいた。
しかし、すぐに頭を振って打ち消した。
(おいらも何バカなこと考えてるんだ。あるわけねえだろう!)




