<霊界の監視員>
ここは都内の某所にある、小さな雑貨屋である。看板には「よろずや商会」と書いてある。
店内には雑多な物が所狭しと並んでおり、一体何を売っているのかさえ分からないような店だ。
この店の二階は事務所になっているようで、奥のデスクには半纏を纏った男が座っていた。この男こそ、社長の三条嘉助である。
嘉助は渋い顔をしながら新聞を見ていた。それはアメリカの新聞であったが、記事には謎の人体発火による火災事故が大きく取り上げられていた。
そこへ、大柄な赤髪の女性が現れた。
「よう、何渋い顔してるんだよ」
「杏子か。僕は今、忙しいんだけどな~」
「はっ! いつも通り新聞読んでるフリしてるだけじゃないのか?」
すると嘉助は読んでいる新聞をバサッとデスクの上に広げた。
「また霊力の暴発事故が発生したみたいなんだよね」
杏子は新聞の見出しを見て、すぐに状況を察したようだ。
「う~ん……今月に入って三件目かな? 最近増えているよな」
「そうなんだよね~。他にもEU圏で数人の新たな能力者が発生しているみたいだしね」
「そろそろ応援を依頼した方がいいんじゃないのか?」
「そうしたいんだけどさ、なかなかね……。上の連中は動いてくれないんだよね~」
「やっぱ、これって例の『200年周期問題』なのか?」
「そうなんだろうけど、今回は妙に規模が大きいようにも感じるんだよねぇ・・・」
嘉助は渋い顔をしている。
「まだ始まったばかりだよな?」
「そうだね。それでこの状況じゃ、来年あたりには手に負えなくなるね~」
「これで悪魔達まで生まれ始めたら、本当に手が付けられない事態になるぞ」
杏子が不吉なことを言いだした。
「あ~……それは聞きたくないね……。でも、この調子だとピーク時はどれだけ発生するか、考えただけでも怖くなってくるよね……」
「「ふぅ~……」」
二人は大きなため息を同時についた。
「よろずや商会」は一応、小規模な貿易商で、世界各地から趣味の雑貨や家具などの輸入販売を行っている。しかしその実態は、第1人間界を内部から監視する、霊界からの出先機関であった。
三条嘉助は霊界から派遣されている「第1人間界監視長」である。そして杏子と呼ばれたのは紅杏子。副監視長として長年、嘉助を補佐してきた。この冴えない雑貨屋は、監視員たちの本部だったのである。
「それに最近、また天界で例のアホ議員たちが騒いでいるみたいだしね~」
天を仰ぎながら、いかにも面倒そうな顔をして嘉助が呟いた。
「あ~、あの『四仙会』とかいう連中か?」
「そう。根拠も無いのに人間界が崩壊するって騒いでいるからね」
「でも霊界では人気が有るんだろう?」
「まあね。先の評議会議員選挙で、一人から四人に増えたからね~」
嘉助はうんざりした表情で言った。
「それで会派も名乗ったんだったな。まあ、確かに人間界で異変が起きているのも事実だからな。案外、無根拠って訳でも無いのかもしれないな」
杏子も嫌な物を思い出したような顔をしている。
「どうだかね。でも、根源が人間界の人口増にあるって説は少し説得力は有るけどねぇ~」
「だけど、それが幽界や霊界学園の怠慢だと決めつけているのは、どう見ても筋違いだろう」
杏子が少し憤慨している。
「普通に考えれば天界の問題だよね~……。閻魔様と学園長はいい迷惑だろうね」
「そのとばっちりが、こっちまで来ているから嫌になるよな」
「そういうことだね。因果関係を調査して報告しろって言うんだから。そのくせ人手は増やせないと言うしさ」
「ま、天界のやる事っていうのは、いつも現場無視だからな」
「嫌だね~。だから僕は天界には戻りたくないんだよ。天界よりは人間界の方が面白いからね」
「私もだね。天界に戻って、変に政治に巻き込まれるのは、もう御免だからな」
「まあ学園長の為に、少しは頑張るけどさ。そろそろERIにも動いてもらわないといけないだろうね」
そう言うと、嘉助は空間から別の新聞を取り出して読み始めてしまった。
これが「しばらく一人にしてくれ」という合図だと杏子は分かっているので、軽く両手を広げて事務所から出て行った。
ここで初めて<霊界の監視員>と言う霊界の出先機関が出てきました。彼らが悩む「200年周期問題」とは?そしてERIとは何なのでしょうか?
いよいよ、この物語の本筋がリピウスにも関係してくるかもしれません。




