<中華飯店でお食事会>
店に入ると、三人は二階の席へと案内された。
個室ではないが、意外とゆったりとした配置で、落ち着いた雰囲気のある席だった。
「一応、コース料理を頼んであるんだ。飲み物は別だから、好きなものを頼んでくれな」
デュークはどこかそわそわと落ち着かない様子だった。
「なあ、ここって結構高い店なんじゃないのか? 大丈夫なのかよ」
「大丈夫だぞ。割とリーズナブルな店だって評判らしいからな。それに外食なんて滅多にしないから、たまには少し贅沢してもいいだろうよ」
「今日はリピウスに任せて、わしらもご馳走になるとしようじゃないか」
ヨルダ爺の言葉にデュークも安心したのか、急に元気になったようだ。
「ヨルダ爺がそう言うなら、おいらは願ったり叶ったりだけどな。そんじゃあ今日は、美味い料理を堪能させてもらうとするか!」
飲み物はそれぞれウーロン茶などを頼み、運ばれてくるコース料理に舌鼓を打った。
「これってフカヒレじゃん! おいら初めて食ったぞ」
「これは北京ダックじゃな。昔、中国で食べたような気もするわい」
「俺は小籠包が好きでね。もう何個でも食べたいくらいだよ」
料理が運ばれてくるたびに、三人は喜びの声を上げながら、美味しそうに食べ進めた。
ひとしきり食べ終え、最後の杏仁豆腐を口にしながら、リピウスがヨルダ爺に向かって切り出した。
「なあ、ヨルダ爺。デュークの話だと、最近忙しいってことだけど、何かあったのか?」
「そうじゃな……あまり詳しいことは言えんのじゃが、少々人間界の関係で、閻魔と学園長から色々と相談されておってな。その関係で、わしもちょっと動いておるんじゃよ」
「ふ~ん……幽界と学園関係か。まさか、俺のことが関係してるとかじゃないよな?」
「ほっほっほ。それはないぞ。なにせリピウスのことを知っておるのは、今でもわしとデュークだけなんじゃからな」
「そうだぞ。おいら達はリピウスのことは誰にも話していないからな」
「うん。それは信じているんだけどさ……」
リピウスは何か考え込んでいるようだった。
「何か気になることでもあるのかのう?」
ヨルダ爺が心配そうに聞いてくる。
「いや、最近色々な能力を修得したんだけど、そうなると、かえって霊界に俺の存在を気づかれやしないかと少し心配になってきたんだよ」
「なるほどのう。まあ、以前も言った通り、安易に能力を使うと監視員に検知されることもある。じゃが、今のリピウスの能力は、凄いものばかりじゃが、普通に使っている分には目立つ性質のものではない。まずは大丈夫だと思うがな」
「それならいいのだけどね。……ところでヨルダ爺、今後も修得した方がいい能力とかはあるのかな?」
「リピウス自身はどう考えておるんじゃ?」
「そうだね……当初思っていた能力はほぼ修得できたと思うんだよね。あとは『戦闘系』の能力と『ネイチャー系』の能力くらいかな?」
「戦闘系ってのは分かるけどよ、『ネイチャー系』ってのはなんだ? おいらは聞いたことないぞ」
デュークが首をかしげる。
「あ~、霊界では何て言うのかな。多分『物理操作系』の能力かな?」
「リピウスが言っているのは、自然物などを操作する能力のことではないかの」
ヨルダ爺の助け舟に、リピウスは頷いた。
「うん、多分そうだと思う。例えば川面に霧が出ていたらその霧を制御して利用したり、地面の土に霊気を流して操作したりするようなイメージだね」
「なるほどな。それで物理操作系って言うのか。おいら達はほとんど使うこともない系統だな」
「まあ、普通に暮らしている分には使わないだろうな。でも庭の雑草取りとかには便利そうなんだけどな」
「あはは! 確かに土いじりをする時には使えるかもな」
リピウスは少し笑ってから続けた。
「戦闘系にしろネイチャー系にしろ、一人で家の中で訓練できる内容じゃないからね。だから、これからはあまり驚かせるような能力は出てこないかもしれないよ」
「おいらはその方がありがたいぜ。なんせ今日だけで、もう腹いっぱいだからな!」
「あはは。でも美味しいもので、本当にお腹いっぱいになったんだから許してくれよな」
「ほっほっほ。リピウスも上手いことを言うもんじゃな」
三人は思わず愉快になって笑い合った。
「じゃが、派手な事件などは起こさぬようにな。あまり能力を乱発しておると、慣れから来る油断も有り得るからの」
「分かった。これからも気をつけるよ」
「リピウスなら大丈夫だと思うけどな。でも、けっこう抜けている所もあるからな。おいらも気を配っていくぜ」
「うん。デュークも頼りにしているからな」
そう言うと、リピウスは再度、少し改まった表情で二人に向き合った。
「今日は俺の誕生日に付き合ってくれて、本当にありがとう。こんなに楽しい誕生日を過ごしたのは、もう何十年ぶりかもしれない。これからもよろしくお願いします」
「おいおい! そんなに改まって言われたら、おいらも恥ずかしくなるじゃないか」
「そうじゃよ。むしろわしらの方こそ、リピウスの誕生日なのにご馳走になってばかりで、かえって申し訳ないくらいじゃわい」
「いやいや、そこはね、人間界では俺がもてなすべきだと思っているからさ。ヨルダ爺には高価な義体も提供してもらっているし。俺にはこんな程度しか恩返しもできないからね」
照れくさそうに頭を掻くリピウスを、二人は温かい目で見守っていた。
だが、ヨルダ爺は内心、少し気になることが出てきていた。
それはリピウスに直接関係することではないのだが、人間界に少しずつ異変が起き始めており、それに関連して天界でも、あらぬ噂話や風評が出始めていた。
その影響で、幽界と霊界学園の存在自体も揺らぎかねない状況になりつつあり、創始者の一人でもあるヨルダ爺が動かざるを得なくなっていたのだ。
その人間界の異変によっては、リピウスも巻き込まれかねない――。
そう思ってはいたが、流石に今の時点でその内容を二人に話すわけにはいかなかった。
(まあ、時期を見て二人にも話した方が良いかもしれんがな……)




