<今日は特別な日>
ある日、デュークは久しぶりにヨルダ爺を伴って、リピウスの家に転移してきた。
「よぉー! 約束通り、ヨルダ爺も連れてきたぞ」
事前にリピウスから「今回はヨルダ爺を連れてきてほしい」とリクエストがあったため、デュークはまずその報告を口にした。
「よぉー! 待ってたぞ。今日は約束通り、夜まで時間を空けてくれたんだよな?」
リピウスはいつものテーブルの前に立っていたが、その装いはいつもとは少し違うようだった。
その姿にデュークとヨルダ爺は目を止めると、二人して「ほぉー!」と感嘆の声を上げた。
目の前に立っている青年は、見るからに爽やかな表情をしており、着ている物もセンスの良さを感じさせる、清潔感溢れる服装であった。
「今日はまた、随分とおめかししているんじゃないのか?」
デュークらしくストレートに聞いてきた。
「まあね。今日はいつものウニクロではなく、ちゃんと若者向けのブランド品で揃えたからね。一応、渋谷あたりを散策しながら見繕ってきたんだよ。結構いい値段はしたけどね」
「ほうほう。今日は何やら特別なことでもあるのじゃろうか?」
ヨルダ爺も今日のリピウスの姿は気に入ったようで、いつも以上に楽しそうにしている。
「今日はね、色々あるんだよ。ひとつはね、ある程度デュークは知っているかもしれないけど、最近修得した能力が結構あって。それらをお披露目しておこうと思ったんだ」
「お! ついに見せてくれるのか?」
「それは楽しみじゃのう」
二人は期待に胸を膨らませ、身を乗り出している。
「それとね……」
と言って、リピウスは少し恥ずかしそうにモジモジしだした。
「あのね……今日は俺の誕生日なんだよ」
ちょっと頬を赤らめながら言うリピウスの仕草は、とても前期高齢者のそれとは思えなかった。
「ほー! それはめでたいの」
「うんうん。誕生日か……ってお前、幾つになったんだ?」
「う~! そこで実年齢を聞くか? この姿で実年齢を言わせるのか?」
リピウスはムッとして頬を膨らませている。
「ほっほっほ。確かに実年齢はあまり聞かん方がよいかもしれんのう」
「そ、そうだったな。悪かったよ。なんかお前の姿を見ていると、訳が分からなくなってしまうんだよな」
デュークは本当に困惑した様子で首を振っていた。
「まあいいけどな。実年齢は【67歳】だよ。で、二人には色々とお世話にもなっているし、今日は俺の誕生日祝いを一緒に過ごしてほしいと思ってさ」
「ほぉー! それはまた楽しみじゃのう」
「そいつはありがたいけどよ。おいら達と一緒でいいのか? もっと……」
デュークはまた失言しそうになったが、リピウスの天涯孤独な境遇を思い出して言い留まった。横でヨルダ爺も「それでよい」と目で合図を送っている。
リピウスはそんな二人を意に介す様子もなく、いつものテーブル席へと誘い、コーヒーとお茶菓子を出してもてなした。それから、作業用小机から移動させたノートパソコンを開く。
「まあまあ、まずはこれを見てくれよ」
マウスを動かすと、テーブルの端に置かれた液晶ディスプレイに映像が表示された。
「ほう、これは見たことがある風景じゃが、はて、どこじゃったろうか」
「おいらは分かるぞ。これって横浜の【中華街】じゃないか」
「そうそう。中華街の中を映し出しているんだよ」
「え? これってお前が撮影した映像なのか?」
「いや、今ドローンから送られてくる、リアルタイムな映像だよ」
「ドローン?」
ヨルダ爺が声を上げ、隣のデュークの顔を見た。デュークは以前からリピウスの練習を見ていたので、少し自慢げに頷く。
「おいらはだいぶ前から、リピウスがテストしているのを知っていたぞ」
リピウスはヨルダ爺には詳しく説明すべきだと感じ、空間から小型のドローンを取り出した。
ゲーミングPCから伸びているコードをコントローラーに接続し、ディスプレイの画面を切り替える。ドローンを少し浮かせて操作を始めると、画面には驚きの表情をしている二人の顔が映し出された。
「これは市販の普及品だけどな。見たことはないかな?」
「ふむ。わしは初めて見るものじゃな」
「おいらは一応知っているぞ。詳しくはねえけどな」
「詳しい話は別途するとして、俺が修得した能力っていうのは、このドローンを【霊力で複製して操作する】ことなんだ」
リピウスは自在にドローンを飛び回らせ、その性能を見せつけた。
そしてドローンを着地させて停止させると、再び画面を中華街のライブ映像に戻した。
「今見たように、ドローンは自在に飛び回って映像を送信してくれる。霊力で作ったドローンも、今こうして中華街を飛びながら映像を送ってくれているんだよ」
「ほうほう、便利なものじゃのう」
「だろ……って、お前【念話通信】以外で操作できるようになったのか?」
「ほう、念話通信で操作しているのではないと?」
ヨルダ爺は、リピウスが自分の知らない新しい方式を編み出したことに気づき、興味を掻き立てられたようだ。
「そうだよヨルダ爺。だって横浜中華街って、ここからだと50kmか60kmも離れているんだぜ。通常の念話通信じゃ届かないだろう?」
デュークは知っている場所だけに、その距離感に驚愕している。
「ほう。。。」
と言いながらもヨルダはピンときていないようだった。
だがリピウスはデュークの言葉を受けて、意を得たりと勢いこんだ。
「それなんだよ、デューク君! 俺が言いたいのはそこなんだよ」
まさにドヤ顔をしながら、リピウスは【広域通信網を利用した霊気循環】の説明を始めた。
一通り説明を終えると、リピウスは如何にも「褒めてくれ」と言いたげな目で二人を見た。
「ってわけなんだよね。いや~、だいぶ前から利用できる気はしていたんだけど、実際にやるとなると知識不足もあってさ。これでも苦労したんだぜ」
「なるほどのう。詳しいことはわしには分からんが、便利なことは確かじゃのう」
ヨルダ爺はしきりに感心したように頷いている。
「おいらも説明を聞いてもよく分からねえけどな。でも、霊界でも念話通信網を使えば、同じことができるかもしれないってことだよな」
「できると思うぞ。俺もデュークから霊界のネットワークの話を聞いてピンと来たからな」
「ほっほっほ、やはりリピウスは面白いのう。人間だからこその霊力の使い方じゃろう。これは閻魔や学園長にも見せてやりたいくらいだわい。奴らもきっと驚いて腰を抜かすじゃろうて」
それを聞いてリピウスは慌てて制止した。
「だ、ダメだからな! 二人以外には絶対に秘密なんだからな!」
「分かっておる。分かっておるよ」
ヨルダ爺は、教え子の成長を喜ぶ師のように、実に楽しそうに笑うのであった。




