<そうだ、水族館に行こう!>
今日はデュークが来ない日なので、久しぶりにどこかへ出かけてみようかと、リピウスは朝からネットで行き先を決めるために情報収集していた。
「やっぱ行くなら水族館をメインに行きたいな。もう随分久しく行っていないものな……」
リピウスは子供の頃からずっと家で魚を飼育している。父親は庭に池を掘り、錦鯉を泳がせるのが好きだったし、小学生の頃から父に連れられて魚取りによく行っていた。庭の池には錦鯉の他に、フナやクチボソなどの小魚もいつも泳いでいた。
今は庭に池はないが、三十歳頃から熱帯魚の飼育を始めて、今でもリビングには海水魚水槽と淡水魚水槽の二つが置いてある。
さらに四十歳前頃からスキューバダイビングを始めており、多い時は年間タンク百本以上も潜りに行っていた。その頃から五十代前半が、最も給与も多くゆとりのある時期だったと言える。
そんな関係で魚にはかなり詳しく、水族館を散策するのも大好きであった。
リピウスが好んで行っていたのは、池袋のサンシャイン水族館と葛西臨海水族園であった。あとは少し遠かったので二回ほどしか行っていないが、八景島シーパラダイスも好きな場所であった。
「やっぱり久しぶりに行くなら葛西臨海水族園だな……」
そう言いながら、パソコンに葛西臨海公園近辺のWi-Fiアクセスポイントマップを表示する。
それを見ながらインターネット回線網に意識を集中し始め、近くに置いてあるWi-Fiルーターに向けて霊気を飛ばし始めた。
霊気は電波化してルーターに送り込み、そこから光回線の装置を経由して、葛西臨海公園辺りにあるWi-Fiスポットをイメージして霊気を送り続ける。
すぐにアクセスポイントが見つかったので、そのまま霊気を送って「霊力ドローン」を生成した。
Wi-Fi経由で付近の映像を送らせると、瞬時にパソコン画面で映像ソフトが立ち上がり、現地の風景を映し出す。
「これでよしと」
ドローン操作用のプロポを手に取ると、手慣れた手つきで操作を開始した。
アクセスポイントは駅前近くにあった。そこから水族園に向けて広い道が伸びている。まずはドローンを道沿いに飛ばし、両側に広がっている林や繁みを観察していく。
「あまり遠いと歩くのが面倒だな。かと言って近すぎる場所は、立ち入り禁止エリアもあるし、面倒かもしれないな……」
リピウスは人目につかない場所を探した。そこに「ワープゲート」を開いて移動しようと考えているのだ。ドローン経由でワープゲートのターゲットマークを設置して、そこにワープすれば一気に現地に行ける。常時ドローンで周囲を監視していれば、誰にも気づかれずにゲートを開けるはずだ。
ようやく水族園近くの小道沿いに、林と繁みに囲まれた人目につかない場所を見つけた。とりあえずそこにドローンを待機させ、急いで外出準備をした。
今日は一気にワープするので、若い姿のままで外出する。ただし、顔つきなどは霊力でパーツを貼り付けて変装している。知り合いに会うことはまずないと思うが、若い姿の時はできるだけ素顔を出さないようにしていた。
ササッと準備をすると、再度ドローンで周囲を確認し、ターゲットマークを設置。そのままワープゲートを開いて移動した。
ゲートをくぐる際もドローン経由で最終チェックを行い、誰にも見られていないことを確認してゲートを出て、すぐにゲートを閉じた。
リピウスは辺りを見回して満足げに頷く。
「ふむ。ここは結構人目も気にならないから、便利なターゲットポイントになるかもしれないな。このまま永続使用可能な状態にしておくかな」
ターゲットポイントもWi-Fi接続させ、霊力で永続的に維持できるよう設定を済ませた。そのまま入り口に続く小路に出て、水族園の入口へと向かう。
ちなみに、ワープできるなら園内に直接入れば入場料を払わずに済むのだが、それはリピウスの矜持が許さなかった。まずは水族園が存続してくれることが大事である。そのための入園料をケチるようなことはしないのであった。(ここまでの交通費をケチっていることは見なかったことにしよう……)
入場チケットを買って、入り口の長いエスカレーターを降りていく。頭上には霊力ドローンもついてきている。もちろんリピウスは常時「霊力探知レーダー」を三百メートル範囲で展開している。さらに霊力バリアと物理バリアも、薄くではあるが常時展開して身を守っていた。
エスカレーターを降りると、目の前は馴染みのあるハンマーヘッドシャークの水槽だ。一緒にツマグロザメも泳いでいる。
ハンマーヘッドシャークには八丈島の「ナズマド」沖で出会ったことがある。見た感じは三メートルはあったと思うが、水中ではかなり大きく見えてしまうので、実際のところは分からない。
ハンマーを見るために伊豆下田沖の「神子元島」にも潜ったことがあるが、その時にはメジロザメっぽい感じのものしか見えなかった。
そのまま進んで「サンゴ礁の海」がテーマの水槽に出る。ここもリピウスの好きな水槽だ。
以前は砂地部分にチンアナゴとニシキアナゴがゆらゆらと揺れている姿が見られたのだが、今は姿を消していた。
リピウスは小魚類も好きなので、水槽内を隅々まで眺めて、全種類の生物を特定するのが好きであった。特にサンゴや岩の間に隠れることが多い、ネズッポ類やギンポ類を探すのが楽しい。そのため、この水槽ではいつも三十分以上は魚探しに興じている。
その間もリピウスは霊力探知で周囲をチェックしている。何か気になる場所があると、すぐにドローンを飛ばして様子を確認したりもする。
もしデュークが一緒にいたら、「お前、誰かに狙われているのか?」と聞いてくるだろう。そのくらい、今のリピウスは用心深いのである。
その後もマグロが泳ぐ大水槽で、雄大な海の光景を思い起こしながら眺めたり、小水槽の展示コーナーを丹念に見て回ったりして過ごした。
小水槽にはウィーディ・シードラゴンという大型のタツノオトシゴの仲間もいた。以前はリピウスが最も好きだったリーフィー・シードラゴンもいたのだが、絶滅危惧種のためか今は展示されていないようだった。リーフィーがいた頃は、水槽に顔を貼り付けるようにして眺めたものだ。あの姿はまさに「神の芸術品」という風情を感じるからだ。
途中レストランで食事もし、午前十時から午後三時頃まで、園内を何度も巡りながら堪能した。若返って筋肉増強もしたので、これだけ歩き回っても疲れは感じなかった。
その後、再びワープポイントに戻ってきた。やはりこの地点は周囲からブラインドになっているようで、人目を気にせずにワープできそうだった。帰りもその地点から自宅に向かってワープゲートを開き、帰宅した。
「あー、やっぱり水族館は良いな。次は八景島へ行こうかな?」
リピウスは満足そうに伸びをしながら、次の散策に思いを馳せていた。
その後、コーヒーを淹れて飲みながら今日のテスト結果を振り返る。
「それにしても、ドローンの遠隔組立からのターゲットポイント設置、そしてワープテストも思った以上に上手くいった。これなら事前に調査さえしておけば、ヨルダ爺とデュークをもてなしながら、色々なお披露目会もできるな」
リピウスは鑑定能力の件でヨルダ爺を失望させてしまったかもしれないと、ずっと気に掛けていた。
そこで、ドローンやワープなど、最近マスターした能力をお披露目しようと企んでいたのである。




