<ネットワークの活用方法>
「う~ん……。なんか違う感じだな……」
そう言いながらリピウスは、プロポと呼ばれる操縦装置を操作しながら、パソコンの画面とにらめっこをしている。
そんな時、リピウスの横の空間が歪んでワープゲートが開いた。中からはデュークがいつものように現れ、リピウスの方へ近づいてくる。
「よう! 今日もドローンのテストかい?」
リピウスはすでに「詳細鑑定は諦めた」と宣言し、密かに鑑定偽装の研究を終えていたが、それを知られたくないので、デュークが来る日は霊力ドローンの研究をしているように見せかけ続けてきた。
しかし、今は鑑定偽装も修得してしまったので、本格的に霊力ドローンの研究に打ち込んでいた。
「ああ。なんかね、今日は全然上手くいかないんだよね」
リピウスの言葉にデュークはパソコン画面を覗き込むが、そこには何も映っていない。
「あれ? 先週来た時は映っていたじゃないか」
不思議そうな顔をしてデュークが聞いてくる。
「ああ。先週までは念話通信で操縦していたからね。今は別の方法で操作できないかとテストしているんだよ」
「別の方法?」
リピウスはそこで一旦作業を中断させ、テーブルへと移動することにした。
空間から温かいコーヒーと山盛りの菓子皿が取り出され、テーブルに並べられた。
「ほい。今日はデュークの好きなレーズンサンドもあるよ」
リピウスは早速レーズンサンドを手に取った。リピウス自身の大好物でもあり、時々買ってきては食べているのだ。
デュークが嬉しそうにレーズンサンドを頬張るのを見ながら、リピウスは新たな研究テーマについて説明しだした。
「実はね、念話通信を使っていると、操作範囲が500mとかに限定されるだろ?」
「ふむふむ。まあ念話通信の制限だからな」
モグモグと口を動かしながら、器用にデュークが相槌を打つ。
「でね、霊界だったら念話通信網があるみたいだから、比較的簡単に操作範囲を拡大させられるかもしれないけど、人間界じゃそれは無理だからね。何か別の方法を考えようとしているんだよ」
「いや、多分霊界だって、念話通信網を使ってドローンの操作範囲を広げるなんてできないぞ」
デュークは次は何を食べようかと菓子皿を物色しながら答えた。
「ん? どうしてだよ。何か中継器みたいなものを間に入れて、通信網の延長を実現しているんじゃないのか?」
「う~ん……。おいらには詳しいことは分からないけど、念話通信網っていうのは会話データの遠距離化と、画像イメージデータの転送を実現した通信網になっているんだ」
「まあ、そうだよな……。あれ? 霊力操作の命令を遠隔地に伝えるなんてことはできないのか?」
リピウスにはどうも理解できないようで、改めて疑問を呈した。
「なんだそれ? おいらの認識では、声と画像をやり取りする装置としてしか分からないぞ」
デュークには、リピウスが言っている意味が分からないようだった。
リピウスもこれ以上問うても無駄だと感じ、この話題は切り上げることにした。その後、霊界や人間界のアニメ動向などの話に花を咲かせ、一時間ほどでデュークは帰っていった。
リピウスにはデュークの言いたいことが分かっていた。
人間界で言うならば「電話回線でドローンは操作できない」「テレビ放送でドローンは操作できない」という感覚なのだ。
だが、リピウスにとっては、電話だろうがテレビだろうが「通信は通信」であり、人間界の概念で言えば全ては「電波」なのである。規格とデータ仕様さえ分かれば、ドローン操作にも転用できるという解釈だ。
今リピウスがチャレンジしているのは、念話ではなく、人間界にすでに設置されている通信網を利用できないかということだった。
仮にWi-Fiを含めたインターネット網を利用できるのであれば、それは世界中の大部分を操作範囲に収めることができるという意味になる。
少なくとも、スマホの無線通信網を使うだけでも日本全国が操作範囲になる。これは革命的なアイデアだとリピウスは自画自賛していた。
が、現実はまだ進展していない。
今は様々な通信規格や仕様を勉強しながら、霊力を使い「霊気」を様々なデータ形式に変換して試している最中であった。
その後、実物のWi-Fi接続ドローンを買って試したり、軍事用ドローンの資料を探し出して遠距離操作の仕様を確認したりと、テストを続けた。
実際の軍事ドローンは、以下のようなネットワークを利用して、数千キロ離れた位置からの制御とリアルタイム映像伝送を実現していた。
・衛星通信(SATCOM)
・長距離無線通信(地上デジタルリンク)
・スマホ通信網(5G / 4G LTE)
その研究の甲斐あって、まずは汎用的なWi-Fi通信形式での操作が可能になった。
市販のWi-Fiドローンは固有のSSIDを設定して個別接続を行うため、本来は100m程度と範囲が狭い。
しかし、リピウスの方式は【ドローン自体が周囲のアクセスポイントを自動検知し、セキュリティを無視して強制的に繋がってしまう】というものだ。
近くにアクセスポイントさえあれば、どんなに離れていても手元のプロポと接続できる。プロポ側も、霊力で通信仕様やデータ仕様を制御し、ドローン側との整合性を取っている。
さらに、プロポはパソコンとも接続され、ドローンからの映像をPC用データ形式に変換してリアルタイムで受け渡せるよう設計した。
ここまでできれば、距離の制限を受けずに念話通信以上の操作が実現できることになる。
そしてリピウスは、さらなる拡張に成功した。
【インターネットのパケットデータとして、霊気を通信網に流し込む】という手法だ。
必要な量を必要な場所に集め、そこで再度データを組み立て直すことで、遠隔地のアクセスポイントにドローン(あるいは霊気そのもの)を出現させることすら実現してしまった。
最初に霊力制御の訓練として全身の血管に霊気を流したのと同じように、今度はインターネット通信網内に霊気を循環させるという、壮大な「情報の血管網」を作り上げたのだ。
これが、後にリピウスが神にも近づくようなスーパーチート技を次々と実現していく、全ての原点となるのであった。




