<深層鑑定&鑑定偽装>
リピウスはその後も、ヨルダ爺から提供された文献を読み漁っていた。
一番の関心事は「霊核の詳細な構造把握」である。そして霊核へのアクセス方法と、内包される各種情報の引き出し方だ。
これらを理解すれば、その延長線上に深層鑑定の修得と、さらには鑑定偽装の道が開けていると感じたのだ。
ここからはデュークを実験台にするわけにもいかないため、自分の霊核に向かってあれこれと操作を試みることになる。だが、禁書2類に書かれていた内容によれば、今リピウスが行っている行為はかなり危険なものらしかった。
特に深層部へ侵入して情報にアクセスするのは、相当な危険行為だと記されている。
実際、詳細鑑定で触れていた中層までのアクセスとは、比較にならないほどの衝撃を受けていた。
まず、猛烈に気持ちが悪い。ひどい吐き気に襲われ、何度もトイレに駆け込むことになった。
アクセスする部位によっては、船酔いのような眩暈に襲われて椅子に座っていることすら困難になり、必死に床へ降りてしばらく身動きできなくなったこともある。
そのような過程を経て、だいぶ慣れてくると情報を引き出せるようにもなってきた。
だが、根本的に霊核内の情報にアクセスするということは、記憶領域や思考領域にも触れるということだ。もしこれらに傷でもつけようものなら、人格崩壊や記憶障害を引き起こしかねない。
リピウスは細心の注意を払いながら、徐々にアクセス範囲を広げていった。
自分の霊核にアクセスする際、リピウスは鳩尾のあたりを両手で包むようにし、そこを見つめながら「はっ!」とか「ふっ!」とか、気合とも掛け声ともつかない声を出しながら行っている。
その方が、伸ばした「霊糸」の操作がしやすいのだ。
しかし、その都度両肩が上下したり、首が左右に振り子のように動き続けたりと、妙な部位が連動して動いてしまう。
時には、「よっ! ここか? ここなのか? うぐ……ここは違ーう!!」と呻き声を出し、床を転げ回ることもあった。
この作業は霊力も相当に消耗するらしく、三十分ほど続けると確実に体が発熱状態になり、変な汗が全身から噴き出してくる。
文献によれば、これは魂の異常を感じ取った肉体が発している危険信号だという。そのような現象が出た場合は、即座に中止して魂を休めなくてはならない。
リピウスもその点は十分に配慮していた。焦って「霊力ダイエット事件」の時のように、身動きできずにデュークに介抱される事態になっては厄介だからだ。
デュークが来た時には、できるだけ平静を装い、別の研究を行ってごまかしている。
よく見せていたのは「霊力ドローン」のテスト飛行だった。ドローンを飛ばして近所の光景をノートパソコンの画面に表示させると、デュークは興味津々で覗き込み、「すごいすごい!」と大喜びしてくれるのだ。
そうこうしているうちに、ようやく深層レベルでの鑑定も行えるようになった。
まだ若干不安定なところはあるが、自分の霊核内に記録されている特殊情報までも引き出すことに成功したのである。
深層鑑定で新たに判明した衝撃の事実は、リピウスには「アリエル様の加護」という偉人の加護が付いていたことだ。
アリエル様といえば、自然界の主たる創造者。人間界もアリエル様がいなければ誕生しなかったとも言える。女神アルティア様に最も愛されたという、偉大なる原初の霊界人。それがアリエル様だ。
「これは……すごい加護を貰っていたものだな」
リピウスは原初の七人の中でも、最も憧れていたアリエル様の加護があることを知り、この上ない喜びを感じていた。
いつかヨルダ爺にこのことを聞いてみたい。ヨルダ爺もアリエル様とは親友だと言っていたから、きっと喜んでくれるはずだ。
リピウスはすぐにでも報告したくなったが、今はその時ではないと気持ちを引き締めた。
ちなみにリピウスは、この加護の効果を「自然への深い愛情」と「真実の探求」ではないかと考えていた。自分自身を振り返っても、大いに当てはまる気がしたからだ。
次に、タレント(才能)として「本質を見抜く目」があった。
物事の本質を見抜き、核心を突くことができる才能だ。SE時代を思い起こすと、妙に顧客の求める要求が手に取るように把握でき、納得できる解決策を提示できていたのはこれのおかげかもしれない。
そしてもう一つ、「本能の閃き」。
おそらく直感が鋭いといった類の才能だろう。学生時代、リピウスは「一夜漬けの天才」と呼ばれていた。試験前日に教科書をパラパラめくり、ふと指が止まった箇所を覚えると、高い確率でテストに出てくるのだ。最高で十問しか覚えられなかったのに、そのうちの九問が的中し、高得点を叩き出したこともあった。
他には性格面の個性が記述されていたが、「臆病」「気分屋」「落ち着きがない」といった、あまり嬉しくない内容ばかり。
これを見てリピウスは小学校時代を思い出した。通知表によく書かれていたのは「もう少し落ち着きがあると良いですね」という言葉だった。
まあ、そのあたりはどうでもいい。重要なのは「鑑定偽装」への着手だ。
鑑定偽装で厄介だったのは、霊核が持つ個人情報部分を完全に隠蔽することだった。
だが幸い、ヨルダ爺の文献に詳しく書かれていたため、深層鑑定で情報構造を把握できたリピウスには対処可能だった。
慎重に基本情報部分に「ガードブロック」を被せ、本人以外のアクセスを完全に遮断する。その代わり、アクセスしてきた者を別エリアに誘導し、構築した「偽装情報」を掴ませれば完成だ。
「よし、ついに完成だ。で、どのくらいに設定すれば自然に見えるかな?」
リピウスは偽装情報をあれこれ検討し、最終的に「凄いけれど、なんとなく普通っぽい」以下の内容に決定した。
【リピウス:詳細鑑定結果(偽装版)】
名前: リピウス
霊力値(実行/基本): 198,000/ 223,490
霊力制御レベル: 6
魂の純度: 92%
【属性適応レベル】
火:5 / 水:6 / 風:8 / 土:5 / 光:5 / 闇:5
【複合属性適応レベル】
雷鳴:5 / 氷雪:6 / 溶岩:5 / 樹木:5 / 沸騰:5 / 重力:5
【能力系統適応レベル】
強化:5 / 操作:9 / 変質:7 / 精神操作:7 / 時空操作:8 / 物理操作:5
「これで何とかデュークにもお披露目ができるな……。いや、待てよ? ここまで来たら、別にお披露目しなくてもいいんじゃないか? デュークを試す必要もなくなったし」
そう、リピウスは「詳細鑑定は無理だった」ということにして、バックレることに決めたのだ。そのほうがどう考えても平和である。
後日、詳細鑑定の修得は失敗したとデュークとヨルダ爺に報告した。
デュークは何故かホッとしたような顔をしていたが、ヨルダ爺は違った。
「まだ始めたばかりなんじゃから、もう少し挑戦してみたらどうじゃ? せめて自分の素養をはっきりさせた方が、今後の修行にも役立つじゃろうからな。そうじゃ、わしが詳細鑑定装置で測定できるように取り計らってやろう。それとも鑑定士でも連れてきた方が良いかな?」
などと言い出してしまい、リピウスは慌てて断り、「また機会があったらチャレンジしてみる」ということで、その場をなんとか収束させたのであった。




