<禁書2類って何?>
ヨルダ爺から衝撃のパワーワードを聞き出してから一週間後。再びデュークがやって来た。
リピウスが詳細鑑定で苦戦していると何度も聞かされていたため、さすがに一時のコソコソ入りはなくなり、以前のように飄々と現れては指定席に着いた。
「よう! この間、ヨルダ爺に頼んでいた資料を持ってきたぞ」
あれほど禁則事項がどうのと騒いでいたのに、もうそんなことは忘れたかのように、霊界では絶対に持ち出し不可であろう文献類を届けてくれた。
その声を聞いて、リピウスもドタドタとテーブルの席に座り、おねだりポーズを作って催促する。
「そりゃありがたい! 早く見せてくれよ」
「ちょっと待ってな」
デュークは空間から電子デバイスを取り出した。リピウスも以前から目にしているが、要は人間界のタブレットと同じような物だ。ノート大の液晶画面に大容量の記憶媒体が格納されている。
最大の違いは、念話通信で接続され、霊界特有のデータ形式に基づいている点だ。人間界のデータとの互換性は一切ない。
デュークが手早く操作して見せてくれたインデックスには、なんと10種類もの文献が並んでいた。
・霊魂の仕組み・基礎編
・霊核の構造と役割・基礎
・霊核に内包される情報と精神構造の関係
・霊核操作と禁忌事項(禁書2類)
・鑑定士入門
・鑑定の種類と霊核構造の関係
・鑑定能力の詳細解説
・鑑定偽装の仕組みと実戦(禁書3類)
・鑑定理論(鑑定マイスター解説)
・鑑定士の責任と役割(鑑定協会推奨)
「おいおい……こんなにいっぱい集めてくれたのか?」
さすがのリピウスも驚き、マジマジとデュークを見つめた。
デュークは気まずそうな顔で白状した。
「なんかよ、ヨルダ爺が妙に張り切っちまってな。あの後すぐに学園へ行って、強引に学園長に面会すると、そのまま研究書庫に入り込んで片っ端から学術研究員を捕まえては資料集めを手伝わせたそうだぜ。おいらも後で聞いて言葉が出なかったよ」
釘を刺したにも関わらず、ヨルダ爺は全力で突っ走ってしまったらしい。
「ヨルダ爺にまでリピウスが乗り移ったんじゃないかって感じだぜ。あんなに熱くなってるヨルダ爺を見たのは、おいらも初めてだ」
リピウスは頭を抱えるような仕草をした。
「あまり目立たないようにって言ったのにな。これじゃ学園長たちからも不審がられてるんじゃないか?」
「おいらも同じことを言ったんだけどさ、いつもの調子で『大丈夫じゃよ』と上機嫌なんだ。絶対に大丈夫じゃないよな、禁書まで含まれてるんだからさ」
デュークの指摘通り、改めてインデックスを見ると『禁書2類』や『3類』という不穏な文字が混じっている。
「なあ、この『禁書2類』っていうのはなんなんだ?」
「ああ、それか。禁書の分類だよ。1類が『絶対に使用禁止』。2類は1類に準ずるもので『限定的な条件下でのみ許可される能力』だ。3類は『使用禁止ではないが、望ましくないとされる能力』。……まあ、マナー違反みたいなもんだな」
「ふーん……。鑑定偽装は『望ましくない能力』ってことか」
インデックスを眺めながら、リピウスは独り言のように呟いた。
「おいおい! お前、やっぱり鑑定偽装を修得しようとしてないか?」
デュークの警報が鳴り、警戒心を露わにした目で見つめてくる。
リピウスは慌てて否定した。
「違う違う! 興味はあるけど、まずは詳細鑑定をマスターするのが先だって。詳細鑑定もできないのに、偽装なんてできるわけないじゃん」
平静を装ってはいるが、内心をズバリ指摘されたことで、珍しくリピウスには明らかな動揺が見えた。だが幸いなことに、デュークは今回も素直に受け取ってくれた。
「ははは。そりゃそうだよな。おいらもついつい先走りすぎたぜ」
「だろ? まあ、コーヒーと美味しいプリンを買ってきてあるからさ。まずはゆっくり味わおうぜ」
空中からコーヒーとプリンを取り出して、デュークをもてなす。プリンを見た途端、デュークは先ほどまでの警戒など忘れたかのようにスプーンを動かし始めた。
デュークが見せてくれたタブレットは、ヨルダ爺がリピウスへの貸し出し用として特別に用意した物だった。デュークはしばらく預けておくと言って、簡単な操作を説明して帰っていった。
そこからリピウスの猛勉強が始まった。さすがに読み応えがあり、早々簡単に理解できる内容ではなかったが……。
一週間後。リピウスは全資料を読み切っただけでなく、全体的な構想プランまで描き上げていた。
さらに、本来は人間界に持ち出せないはずの情報を、彼は自分の霊力を使って解決していた。霊力による「データ変換ロジック」を構築し、PDF形式に変換して自分のPCへダウンロードしてしまったのだ。
翌週、再び現れたデュークに、リピウスは殊勝な顔でタブレットを返した。
「ざっと読んだけど、やっぱり難しいなこれ。これ以上は頭が爆発しそうだから一旦返すよ。また頭が整理できて必要になったら借りるからさ、ヨルダ爺によろしく伝えておいてくれ」
あまりに素直すぎる反応に、デュークは少し怪しんだ。だが「リピウスでも苦手な分野があるのかもな」と納得し、何の疑いも持たずにタブレットを受け取って帰っていった。
後日デュークから聞いた話では、リピウスが早々に諦めたことを聞いて、ヨルダ爺はガッカリしていたという。
「わしがまた行って、喝を入れてやらんといかんな!」と息巻いていたそうだが、幸いヨルダ爺が多忙だったため、その件はそれ以上追求されずに済んだようだった。




