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<鑑定偽装>

いきなり核心的な「鑑定偽装」というキーワードがヨルダ爺から飛び出し、思わず変な声が出てしまったリピウスだったが、すぐに我に返り、明らかにわざとらしく「ゲホン・ゲホン!」と咳き込む真似をした。


「ご、ごめん。なんか変なところに入ってしまったみたいで……。ゲホン、ゲホン」

と言いながら、必死にごまかしている。


「リピウスは相変わらず慌て者だよな」

デュークはリピウスの演技を真に受けて窘めると、手に持ったクッキーを頬張った。


「ごめんよ。でもヨルダ爺が鑑定偽装なんて怪しげなことを言うからさ」

と言いながら、(もう一息だな)と内心ほくそ笑んで続けた。

「だって霊界と言えば、基本『清く正しく美しく』の世界じゃないか。そんなところに鑑定偽装なんて発想は無いと思っていたんだけどね」


「うむ。この能力を編み出したのは人間じゃよ」


「え? リピウスみたいに能力が使える人間がいて編み出したのか?」

デュークも意外な話の展開に興味が湧いたようだ。リピウスは内心(よし! デュークも食いついたぞ)と喜んでいる。


「人間と言っても、現代の人間ではないぞ。太古の、まだ霊力封印がされていなかった頃の人間の話じゃよ」


「え? 封印される前の太古の人間?」


「そうじゃ。リピウスも妄想で言っておったが、今の人間界になるまでには、何回かトライ&エラーを繰り返しておったのじゃ。初期の頃の人間は霊力の封印もしておらなんだ。じゃが前にも言ったかもしれんが、霊力を解放したままでは、霊力を使った争いが絶えず、人間界は滅亡してしまうんじゃよ」


ヨルダは創世記の頃を思い出したのか、少し悲痛な表情を浮かべながら話している。


「そんな世界じゃからな、相手の能力を先に知るということは、戦闘上は非常に有利になるんじゃ。なので自らの能力を偽装することを考えた者も出てきた、というわけじゃ」


「それって、要は自分はたいした能力者ではないと見せかける能力、ということか?」

リピウスはますます興味津々で問いかけた。


「うむ。確かわしの記憶では、霊核内の真の情報は強力なブロック機能で隠蔽してしまい、それに代わる偽装情報を構築する。鑑定された場合は常に偽装情報が相手に伝わるよう、霊核内の情報統制を行うものらしいの」


それを聞いて、デュークには難しすぎたようで、頭を抱えながら小さく叫んだ。

「うっわー……。なんかメッチャ面倒くさそうなことやってんだな」


しかし、リピウスには実感できる「仕様」の話なので、納得顔でうんうんと頷いている。


「デュークが言うように、これは実に面倒なことを実際にやっておるんじゃよ。だから相当なマインド系の能力者で、『深層鑑定』レベルの鑑定スキルが無いと修得できないとも言われておるんじゃ」


「深層鑑定!!!」

またリピウスが突拍子もない声を発した。


「おい、どうしたんだよ。また変な声を上げて」

デュークが心配そうな顔をしてリピウスを見ている。

それに気づいて、リピウスもまた少し苦しそうな表情をしながら、喉の調子が悪そうな仕草をしてごまかそうとした。


「ほっほっほ。リピウスは相変わらず喜怒哀楽がハッキリしていて面白いのう」

ヨルダ爺は愉快そうに笑いながら、再び菓子皿からクッキーを摘み上げた。


「ごめん。いや、詳細鑑定でも苦戦しているのに、深層鑑定レベルの難易度って聞いてさ。どんだけ自分の能力を隠したかったんだと驚いたんだよ」


「たしかにそうじゃな。じゃが発案者にとっては死活問題だったのかもしれんぞ。そういう時の人間は、時に不可能を可能に変える働きもするもんじゃて」

ヨルダ爺はそこまで言うと、話は終わりとでも言いたげに、飲みかけのコーヒーを飲み干した。そして軽くカップを掲げ、リピウスにお代わりを要求した。


リピウスは空間からコーヒーポットを取り出すと、ヨルダ爺のカップに注ぎ、ついでにデュークと自分のコーヒーも満たした。


「なあヨルダ爺。今の話に関する文献とかは無いのか?」


新しく注いでもらったコーヒーに口をつけた後、少し怪訝な表情でヨルダ爺は答えた。

「ん? リピウスも鑑定偽装を修得したいのか?」


その言葉にリピウスは少し慌ててしまった。(いかん。ストレートに聞きすぎた)

そんな気持ちを抑えながら、否定の風情を装う。


「いやいや、俺は詳細鑑定もできていないんだぞ。深層鑑定並みの技量が必要な能力なんて修得できるわけないじゃん。ただ、それって霊核の構造を知るうえで参考になるかな?って思ったんだよ。今苦戦しているのは、霊核自体の扱いが上手くイメージできないからだと思うからね」

(よし、これで上手い方向に逸らせたんじゃないか?)と思いながら、ヨルダ爺をじっと見つめた。


「ほう。なるほどのう。それは確かにそうじゃな……。確か学園の研究書庫に関連する文献も有ったはずじゃ。今度、学園長に頼んで取り寄せよう」


「お! ヨルダ爺、そんな文献あってもリピウスには渡せないだろう? 大禁則事項なはずだぞ」

デュークは、またヨルダ爺が安易に禁を犯そうとしているので、慌てて制止した。


リピウスの気持ちは複雑だった。

(デュークはまた余計なことを。せっかく核心の情報が得られそうなのに……。でも学園長が絡んでくると、かえって厄介になるかもしれないな。その点は俺からも釘を刺しておいた方がいいかもしれない)


「ヨルダ爺の気持ちはありがたいけどさ、霊界学園の学園長が絡んでくると、俺としても不安なんだよね。いくらヨルダ爺の親友でも、俺の存在はヨルダ爺とデューク以外にはまだ知られたくないからさ」

実に神妙な顔をして告げた。


「ほい。そうじゃったな。じゃが安心するがよいぞ。単なる隠居爺の暇つぶし程度の話として依頼するからの。学園長にもリピウスのことは絶対に悟られないようにするから大丈夫じゃよ」


優しく微笑みながらリピウスを気遣うヨルダ爺に、リピウスは心の中で手を合わせていた。

(ごめんよヨルダ爺。これも大義のためなんだ……)

――どこが大義なのかは不明だが、とにかく心の中でヨルダ爺を拝み倒すリピウスであった。

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