<簡易鑑定結果は正しいようだ>
デュークはまだリピウスの真意が掴めず、警戒態勢のままだ。そんな様子を楽しみながらも、リピウスはちゃんと説明してやった方が良さそうだと感じて口を開いた。
「あのね、ヨルダ爺に鑑定を頼むということは、俺の存在を霊界に知られてしまうってことじゃないか。俺が求めているのは、最初にヨルダ爺がゴーグルで行った簡易鑑定じゃなく、『詳細鑑定』レベルなんだよ。そんな装置、結構大型だってヨルダ爺も言ってただろう?」
リピウスの説明を聞いて、ようやくデュークも合点がいったようだ。急に表情が和らいだ。
「そういうことか……。確かにそうだったな。どうもおいら、最近被害妄想気味になっちまったのかな」
「ひどいな。そんなにデュークに酷いことをしたつもりはないんだけどな」
リピウスは心外だと言わんばかりに食いついた。
「まあ、実際に酷い目にあったのはリピウス自身だったけどよ。でもおいらだって随分心配したし、色々頑張ってきたんだぜ」
「確かにそうだな……。その点は俺も感謝してるよ。デュークがいなかったらと思うと、寒気がしてくるくらいだからな」
そう言いながら、リピウスは空中に手を翳してもう一個ケーキを取り出し、そっとデュークの前へ差し出した。新しいケーキを見て、再びデュークの表情がパッと明るくなる。
「で、鑑定はできるようになったのかい?」
「うん。原理は分かってるからね。簡易鑑定は、買い物ついでに周囲の人たちに向けて試してみたよ。ただね……」
そこまで言って、リピウスは言葉を濁した。
「ん? どうしたんだよ」
「いや、霊力を封印されている人間って、鑑定できないんだよね」
「えっ!?」
「あれ? デュークは知らなかったのか?」
かえってリピウスの方が驚いたような声を上げた。
「し、知らねぇよ。だっておわらは鑑定なんてできないし、第一、人間を鑑定しようなんて思ったこともないからな」
「まあそうか。俺の妄想世界では鑑定できる前提だったんだけど、実際には『鑑定不能』って出てしまうんだ。それ以前に、霊核に触れることすら拒否されてしまってね」
「それって、やっぱり封印の影響か?」
「多分そうなんだろうな。まあ、名前だけは出てくるから、ある意味便利ではあるんだけどね」
「名前は分かるのか?」
「うん。俺って実は人の顔と名前を覚えるのが苦手でね。多分『先天性相貌失認』って奴だと思うんだけど。だから名前だけでも分かると、知人を特定するヒントになるから助かるんだよ」
「へぇ……。お前、そんな症状を持ってたんだな。全く気づかなかったよ」
デュークはリピウスの秘密に触れてしまい、少し照れくさいような気分になった。
「まあ、それほど重い症状じゃないからね。決まった環境なら問題ないんだけど、突然別の場所で知人に会うと、知らん顔をしてしまうことがある程度だよ。だから普段の生活にはそれほど影響はないと思うよ」
リピウスの説明に、デュークはどう返すべきか分からず、ただリピウスを見つめていた。もっとも、手元のケーキはがっちりホールドして、今にも食べ始めそうだったが。
「――というわけなんだよね」
突然、リピウスが満面の笑みを浮かべ、悪戯っぽい目でデュークを見つめてきた。
しんみりした話で緩んでいたデュークの警戒心が、一瞬で最大警報を鳴らした。
「ちょ、ちょっと待て。どういう『わけ』だよ。嫌だぞ、おいらは断固として拒否するからな!」
「なんだよ。まだ何も言ってないじゃないか」
「言わなくても、お前の表情を見ていれば分かるよ。絶対にろくでもない頼み事だろう!」
そんな姿に、リピウスは少しムッとした。
「ろくでもないって……単にデュークに鑑定の練習台になってほしいと思ってるだけだよ。まずは簡易鑑定だから、特段影響が出るわけじゃないしな」
「やっぱりな。……でも練習台って、本当に大丈夫なのか? 鑑定はマインド系の能力で、霊核に直接干渉するから危険だって聞いてるぞ」
デュークも少し騒ぎすぎたと思ったのか、トーンを落として聞き返した。
「それなら大丈夫だ。俺はすでに自分自身の霊核で試しているからな(成功したのは今朝が初めてだけど)。簡易鑑定なら霊核の表層に触れる程度だから、影響はまずないと思うよ」
「う〜ん……。まあ、そういうことなら……」
嫌そうな顔をしつつも、簡易レベルならいいかとデュークは思い始めた。
「よし! それじゃあ、早速始めよう。いいか、開始と言ってから霊核に触れに行くからな。万が一違和感を感じたら即座に言ってくれ。すぐ止めるから」
「ちょ、ちょっと待って! まだ心構えが――」
デュークが不安を募らせ、制止しようと両手を前に突き出した。
だが、そんなことは関係なく、リピウスは宣言した。
「じゃあ、開始!」
「うっ……!」
思わず声を出すデュークだったが、別段何も感じることはなかった。(あれ? 止めてくれたのかな?)と思っていると、いきなりリピウスの声が響いた。
「終わったよん」
「お、おい。今鑑定したのか?」
デュークが恐る恐る聞くと、リピウスは何やら頭の中に浮かんでいる情報を満足そうに眺めていた。
「おう。成功したぞ。お! デュークって想像以上に純粋なんだな。魂の純度が88%と出ているぞ。霊界でもかなり良い数値なんじゃないか? 今から鑑定結果を念話のイメージ送信で送るから、自分でも確認してみてくれ」
言い終わる間もなく、デュークの脳裏に鑑定結果の画像が浮かび上がった。
【簡易鑑定結果】
名前: デューク・アルバート
基本霊力値: 14,200
霊力制御レベル: 5
魂の純度: 88%
主たる属性: 風
主たる系統: 操作
「どうだい? 合ってるよな?」
「う、うむ……。合っていると思うぞ」
デュークは送られた情報を何度も反芻しているようで、目が泳いでいる。
「よし! やったな。ふぅ〜、苦節一ヶ月。ようやくここまで辿り着いたってわけだ」
(あれ……? やっぱり鑑定、正しく機能してるみたいだな。……だとしたら、俺の結果は一体……)
リピウスはデュークに悟られないよう、内心で激しく困惑していた。
「え? お前、まさか今のが初めてじゃないよな?」
「いやいや、さっき言ったじゃん。自分で既に試してるって。今朝成功したから、デュークに頼んだんじゃないか(結果が信じられないから、キャリブレーションしたかっただけなんだけどね……)」
ケロッとした顔で、リピウスは恐ろしいことを言い放った。
「え、今朝初めて……? 今のが二回目……?」
デュークは血の気が引いた顔で、アワアワと呟いている。
「大丈夫だっただろ? まあ詳細鑑定の方は、まだまだこれからだけどさ。そっちは自分の霊核で十分にテストしてから頼むから。その時はまたよろしくな。特別美味しいケーキ、用意しておくからさ」
リピウスは満面の笑みを浮かべ、上機嫌で捲し立てた。
デュークは、なぜ今日に限って高級なケーキが二個も用意されていたのか、その理由を痛いほど理解した。リピウスは午前中に確信を得て、午後から来る自分を「生け贄」として待ち構えていたのだ。
(詳細鑑定の時も、おいらは実験台にされるのか……。しばらく来るのを控えようかな?)
そんなことを思いながらも、結局目の前の二個目のケーキを食べ始めてしまうデュークであった。




