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<鑑定能力修得への道>

霊力に目覚めてから、すでに四ヶ月が経過していた。例の事件が起きたのは秋の十月だったが、今は真冬の寒さに震える二月である。若返り騒動も一段落したことで、リピウスはまた新しい能力の修得に取り組み始めていた。


これまで修得した能力は、以下の通りだ。


霊力制御の精密化と常態化: 自然発生する霊気を極限まで抑える。


ディメンション・ボックス(時間経過無し): 空間収納。


霊力探知: 周囲の状況把握。


バリア: 自己防衛の要。


これらはすべて、リピウスの「目立ちたくない、平穏を失いたくない」という願いから選ばれた、護身のための必須技能だった。妄想世界ともリンクしていたため、イメージが定着しやすく、意外なほど簡単にマスターすることができた。


次にリピウスが挑戦し始めたのは、「鑑定能力」である。理由は、自己鑑定によって自分自身の「適性」を見極めたかったからだ。


「鑑定」といえばファンタジー物語の定番だが、実際には物語のような、便利な図鑑的チート能力ではない。現実の鑑定とは「霊核」に働きかけ、魂が保持する情報を読み取る行為だ。ゆえに、魂を持たない物体を鑑定しても、名前や特性が見えるわけではない。


一説によれば、全宇宙の記憶「アカシックレコード」にアクセスできれば、万物の鑑定も可能だと言われている。現時点でその存在は確認されていないが、リピウスにはぼんやりとその確信があった。

(事実、後年リピウスは唯一アカシックレコードへのアクセスを実現するのだが……それはまた別の話である)


自分の適性を知るだけならヨルダ爺に頼む手もあったが、それでは監視対象として自由を失いかねない。リピウスはあくまで自力での解決を試みていた。


そして、ある日の朝。ようやく簡易鑑定レベルの能力を修得できたのだが……。

「あれ? おかしいな。以前、ヨルダ爺が鑑定した結果と違うぞ」


以前、ヨルダ爺が簡易測定器で出したリピウスの霊力値は「二十二万」。しかし、今自分で試した結果は、それとは全く異なるものだった。

「ふむ……困ったな。あとでデュークが来たら試してみるか」


その日の午後。

リビングの空間が歪み、ポッカリと開いたワープゲートから、いつも通りデュークがヌッと現れた。リピウスは小机の前で、ノートPCの画面を真剣に見つめている。


「よう! 今日は何をやってるんだ?」

デュークが気安く近づき、画面を覗き込んだ。


「おう。ちょっと待っててくれ。この論文をざっと読んでしまうから。終わったらコーヒーにしよう」

リピウスは目を離さず、難解な論文を読み進めている。


最近のリピウスは、買い物で外出する日はポッチャリ体形のハリボテ老人姿で居る。

買い物は通常午前中に行うので、終日家に居る日と午後の時間帯はホッソリした若いリピウスの格好で過ごしている。

要はいちいち着替えるのが面倒なのだ。


ただちょっとだけ玄関を出たりする場合は、ヨルダ爺に借りた義体に老人姿で洋服を着せておき、そっちに幽体離脱で入り込んで対応したりもしていた。


今日のリピウスは若者姿のリピウスである。

そんなリピウスの姿を見つめながら、デュークは何時ものメインテーブルに移動した。


「随分熱心だけど、何の論文なんだ?」


「これ? 心理学の第一人者、ジークムント・フロイトの精神構造論関係の論文だよ。結構面白いぜ」


「ふ〜ん……。なんだか難しそうなのを読んでるんだな」

デュークには「何のこっちゃ」という話で、形式的に答えるのが精一杯だった。


リピウスはすぐに画面を閉じると、テーブルへ移動し、空中からコーヒーと美味しそうなケーキを取り出した。


「お! 今日は奮発してくれたみたいだな」

デュークの目が生き生きと輝く。リピウスは(本当に分かりやすい奴だな)と苦笑しつつ、自分も席に着いた。


「うむ、これは旨い。……ところで、なんで精神なんたらの論文なんて読み始めたんだ?」

ケーキを頬張りながら、デュークが不審そうに聞いた。リピウスがこういう行動をする時は、大抵ろくでもないことが始まるのだ。


「ああ……。デュークにも手伝ってもらうことになるかもしれないから、一応話しておこうか」

リピウスがニヤリと笑ってデュークの顔を覗き込む。


「お、お前……また変なこと考えてるな。ヤバいヤバい、おいらを巻き込まないでくれよ」

デュークは警戒態勢に入り、椅子を引いて身構えた。


「あはは、そんなに警戒するなよ。俺はただ、鑑定能力の研究をしているだけだよ」


「鑑定能力? お前、そんなもの研究してどうする気なんだ?」


「決まってるだろう。自分の適性を正しく把握しておきたいんだよ。これから能力を開発するにあたって、自分の性質が分からなければ、どっちへ進めばいいかも分からないだろう?」


デュークは三百年前の学園時代、講師が同じようなことを言っていたのを微かに思い出していた。

「むむ……確かにそれは言えるな。でも、それならヨルダ爺に頼めばいいんじゃないか?」


「チッチッチ! それじゃダメなんだよ、デューク君」

リピウスは人差し指を左右に振り、妙な口調で指摘した。


「お、お前……やっぱり何か企んでるだろ! その口調の時は、必ずろくなことが起こらないんだ。おいらは知ってるんだからな!」


デュークの不信感は募るばかりだったが、リピウスはどこ吹く風。

自慢のコーヒーをゆっくりと味わいながら、獲物を見つけたような楽しげな目でデュークを見つめていた。

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