<霊界は人間界に興味津々>
デュークがやってきた時、リピウスは何やらノートPCに向かって熱心に指を動かしていた。
「よう! 今日は何をやってるんだ?」
「ん? デュークか。ちょっと座って待っててくれ」
リピウスは空間からコーヒーを取り出して手渡した。
デュークも手慣れた様子で受け取ると、そのままテーブルに座ってコーヒーを飲み始めた。
リピウスはしばらくカタカタとタイピングを続けていたが、一区切りついたのか、自分もコーヒーとお茶菓子を持ってデュークの向かいに座った。
「なあ、さっきから何をやってたんだよ」
「ああ。今日は久しぶりに、昔を思い出しながらネットワークの勉強をしてたんだ」
「ネットワークの勉強?」
「そう。ちょっと『霊力』でもネットワークが利用できないかと思ってさ。仕様とかデータ形式を調べていたんだよ」
「ふ〜ん……。なんだか難そうだな」
「まあね。でも、俺はもともとシステムエンジニアだったからさ。ある程度の専門知識は体に染み付いてるんだ。少し確認すれば、概ね思い出せるよ」
「へぇ〜。まあ、リピウスが優秀なのは分かったが……それをどう霊力に利用するんだ?」
「具体的にはまだまとまってないんだけどね。ただ、インフラとして何か使えるんじゃないかなって思ってさ」
すると、デュークが思い出したように言った。
「そういえば、霊界でも人間界のネットワーク網を参考にしてた時期があったな」
「ほう。参考にして何を作ったんだ?」
デュークの話によれば、人間界の通信網の利便性に注目した科学庁が、念話を応用した通信網を霊界に構築したのだという。
元々は通話限定の「念話網」だったが、今では画像情報の伝送や、人間界のWEBサイトを模したシステムまで拡張されているらしい。
「使えるようになったのはここ数年だけどな。霊界の住人からは『めちゃくちゃ便利になった』って高評価なんだぜ」
「……霊界って、そんなに人間界の文明に興味があるのか?」
「『第一人間界』にはかなり興味を持ってるな。というか、今の霊界はほぼ人間界の模倣だといってもいい」
「えっ、そうなの?」
「そうだぜ。知ってるか? 今、霊界は空前のグルメブームなんだぜ」
「嘘だろ! 霊界人に食事なんて必要ないじゃないか」
「必要はないんだけどよ、義体を使えば味覚も再現できるだろう? だから富裕層を中心に『本物の味』を求める風潮が流行ってるんだよ」
「なんだかな……。なんだか今の日本に似てるな」
「そりゃそうだ。霊界は日本の文化に一番影響されてるみたいだからな」
デュークの話では、今の霊界は「日本ブーム」の真っ最中。日本のアニメやアイドルに熱狂する霊界人も多いのだという。さらにはグルメを極めるために、わざわざ日本(第一人間界)へレストラン巡りに来る富裕層までいるらしい。
「うわぁ……なんか、それを聞くと嫌だな。まさかオタクまでいたりして」
「いるぞ。普通に」
「嘘だ! そんな霊界、妄想でもしたくないぞ!」
「結局、霊界ってのは娯楽が少ないんだよ。だから人間界の文化を模倣して、霊界独自のテレビ番組を放映したりしてる。刺激を求めて人間界旅行に行く連中も後を絶たない。ファッション情報や美容情報にも敏感らしいぞ」
「マジかよ。お金はどうするんだ? 両替商とかいたりするのか?」
「いるぞ。霊界銀行で普通に円に両替できる」
「ふ〜ん……。だけどさ、霊界人ってそんなに簡単にこっちに来れるのか? 俺の妄想では、特定の霊界人だけだと思ってたんだけど」
「その妄想はある意味正解だ。本来は研究目的などの公的理由がないと許可は下りない。研究者が来る場合でも、警備隊か警備用ハンターの同伴が必須だからな」
「やっぱりそうか。そうじゃないとトラブルが起きそうだもんな」
「でもよ、富裕層は金の力で自費のハンターを雇って、裏ルートで許可を得て来てるらしいぜ。一般住人には不可能な話だが……主に天界の連中だな」
一般の住人がアニメ映像やグッズを手に入れるには、天界の許可を得た業者が霊界内で制作した「コピー商品」を買うのが通例だという。
「なんだか……霊界人が、めちゃくちゃ俗っぽく感じてきたぞ」
そんな話をしながら、二人は相変わらずまったりとコーヒータイムを過ごすのであった。




