<年齢偽装の結末>
翌日から、リピウスの義体訓練が本格的に始まった。
デュークもいつもより少し早め、午後一時から五時頃まで練習に付き合うことになった。もちろん、三時のコーヒーブレイクは欠かさない。
訓練開始から三日が経過した頃には、リピウスもだいぶ操作に慣れ、ゆっくりとではあるが、デュークのサポートなしで歩行できるようになっていた。昨日は二階のリビングから階段を下り、一階へ移動するまで進歩していた。
今日もいつも通り、デュークがワープゲートを開いて二階のリビングに姿を現した。
普段ならリピウスは、作業デスクの前でネットニュースを見たり、テレビを観たりしているはずだ。そしてデュークが来るとすぐにメインテーブルへと誘い、コーヒータイムに入るのが日課だった。
だが、今日は返事がない。ふとメインテーブルに目を向けると、そこにはぽっちゃり体型のリピウスが座っていた。
が……どうも様子がおかしい。
「ん? 義体か?」
デュークが怪訝そうに近づくが、そのリピウスは黙って座っているだけだ。
(義体をここに座らせているのか? だが……)
確かに義体のようだが、昨日までの姿と微妙に違う。昨日までは、元々の体型に近いとはいえ、顔つきも腹の出方もどこか「惜しい」感じがあった。
しかし、今目の前にいるのは、完全に「最初に出会った頃のリピウス」そのものだった。
体型も、顔つきも。精巧に当時の姿を再現している。
デュークがその再現度の高さに感心していると、
「おや、もう来ていたのか。早いね」
後ろからリピウスの声が聞こえてきた。
振り向くと、そこには若々しい姿の今のリピウスが立っていた。しかも、今の体型にぴったり合った、若々しいデザインの洋服に着替えている。
「あれ? その服は?」
「ああ、これね。ウニクロのネット通販で注文していたのが午前中に届いたんだよ。これでもう、ダブダブの服を着ないで済むからね」
そう言うと、まるでモデルのようにクルリとその場で回転してみせた。
そんなリピウスの姿と、テーブルに座るデブリピウスを交互に見て、デュークはしみじみと呟いた。
「随分と若返ったものだよな……。まるで親子を見ているみたいだぜ」
「まあな。俺もこの義体の姿を見ていると、なんだか泣けてくるぜ。俺ってこんなに不細工な格好をしていたのかって思うとな……」
「ところで、義体の外観を調整したのか?」
「ああ。昨日の夜から真剣に微調整を始めたんだよ。やっと満足できるレベルになった。これなら俺だと言っても、誰も疑わないだろう?」
「そうだな。しかし……ここまで変化する前に、どうにかならなかったのかねぇ」
デュークはやれやれという顔で続けた。
「まったく、リピウスってのは頭はいいんだが、どこか抜けてるよな」
「うん。昔からよく言われるよ」
「まあ、おいらの感じとしては、今の外見の方が雰囲気的にも合ってる気もするけどな」
「うん。精神年齢が低いのも認めるよ」
「とりあえず、義体で年齢は偽装できるようになったんだ。あとはゆっくり考えていけばいいんじゃないか?」
こうしてリピウスの義体訓練は一段落を迎え、デュークはまた週一回の訪問に戻ることになった。
――そして一週間後。
デュークがリビングに入ってくると、テーブルには「二人のリピウス」が向かい合って座っていた。
「おっ! ……なんだ、義体が二体あるのか?」
すると、片方のリピウスが手を振って笑った。
「よう! こっちは義体じゃないぞ」
「え? 体形が戻ったのか?」
「いやいや、霊力で体の周りに『ハリボテの贅肉』を実体化して装着しているんだよ」
リピウスは自慢げに答えた。
「あ〜、なるほどな。実体化を使ったのか。顔なんかもよくできているな……」
「だろう? 結構苦心したんだぜ。でも、これなら普通に出歩けるからな」
言いながらリピウスが立ち上がり、リビング内を歩き回り始めた。義体を使うのがよほど面倒だったのか、その動きには解放感があふれている。
「なんだよ。せっかく義体を使えるようになったのに、もう使わないのかよ」
デュークは少し不満そうだった。自分なりにコーチとしてサポートしてきた自負もあったのだろう。
「うん。何度か買い物で使ってみたんだけどな……やっぱり、いちいち幽体離脱するのも面倒なんだよね。それに、少し遠出しようと思ったら、魂の緒を切って霊体離脱しないと不安だから、なおさら億劫になってしまって」
リピウスは明るい表情で続けた。
「とりあえず、当面はこの『実体化パーツ』で対応できるって分かったから、だいぶ気が楽になったよ」
「なるほどな。でも、義体はどうするんだ? もう使わないのか?」
「いやいや。せっかくヨルダ爺が貸してくれたんだ、有効に使わせてもらうよ。ちょっと『面白い使い方』も思いついたしね。それに、義体があると何かの時には確実に役に立つと思うし」
こうして、リピウスの「若返りすぎ問題」は、斜め上の方向で一応の解決を見たのであった。




