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<原初の霊界人>

リビングに戻ると、リピウスは「今コーヒー淹れるから、ちょっと待っててな」と言って準備を始めた。ヨルダ爺とデュークは既にテーブルに着いている。


「おい、無理しなくてもいいのだぞ」

デュークは少し心配して声をかけたが、リピウスは「大丈夫」と答えてコーヒーを淹れ、お茶菓子を用意した。


「いや〜、めちゃくちゃ神経が疲れるな」

リピウスは肩が凝った様子で、首や腕を回している。


「ほっほっほ。おぬしは力みすぎなんじゃよ。それでは精神がもたぬぞ」

ヨルダ爺は新しく淹れてもらったコーヒーを啜りながら、義体操作の先達として指摘を入れた。


「なあヨルダ爺。義体操作って、めっちゃ霊力使うんじゃないか?」

少し上から目線の指摘に、リピウスは軽くムッとした表情で問い返した。


「まあ最初はしようがないじゃろうな。慣れれば義体操作に霊力などたいして使わんがな」


「デュークも義体は負担にならないんだよな?」

リピウスは矛先をデュークに変えた。


「おう。流石に三百年も使っていれば、霊力なんて意識することも無くなるぞ」

デュークも一息ついたという緩んだ表情で、美味しそうにコーヒーを啜っている。


「え? 三百年……?」

虚を突かれたように、リピウスは驚きの声を上げた。


「あれ、言ってなかったかな。おいらは霊界年齢で三百十八歳だぞ」


「マジで?」


「お前な、そんなことで驚いていたら、ヨルダ爺の年齢を聞いたら卒倒するぞ」

言いながら、デュークは隣でコーヒーを啜るヨルダ爺の方にチラリと目を向けた。


「え……?」

リピウスはまたも虚を突かれ、言葉が出てこない。


「ほっほっほ。長く生きてきたというのは本当じゃがのう」


「まあ、見るからに仙人のような風貌だからな。それなりに年を重ねているとは思っていたよ。でも、霊界人なら若々しい姿でい続けてもおかしくないのに、なんでヨルダ爺はお爺ちゃんの姿をしてるんだ?」


「それはな、わしが既に隠居しておるからじゃよ。見るからに隠居爺と分かった方が、わしも気が楽じゃからな」

ヨルダ爺は愉快そうに笑っている。


「なあヨルダ爺。俺、前から少し気になっていたんだけど……」

突然、リピウスが真顔になって問いかけた。


「うむ。なんじゃろう?」


「……ヨルダ爺って、『原初の霊界人』なんてことはないよな?」


リピウスは、じっとヨルダ爺の目を見つめた。


「ほぉ〜。なぜそう思うんじゃ?」


「ほら、最初に俺の妄想を話した時さ、霊界の創造と原初の霊界人の話もしたじゃん。その時、ヨルダ爺は妙に共感してくれたよな。まるで、その頃を思い出しているように見えたんだよ」


「なるほどの。またまた禁則事項に触れてしまったようじゃが……まあ良いじゃろう。確かにわしは『原初の七人』の霊界人で、最後に残った一人じゃよ」


ヨルダ爺がそれを認めた瞬間、その瞳が一瞬だけ、遠い昔――自然溢れる美しい世界を創り出した女神を懐かしむような、慈愛に満ちた輝きを見せた。だが、すぐにいつもの柔和で悪戯っぽい表情に戻ってしまう。


「えっ!? そうなのか、ヨルダ爺!」

なぜか、リピウス以上にデュークが驚愕の声を上げた。


「なんで長い付き合いのデュークが驚くんだよ。ここは俺が驚くところだろうが」

不満げにリピウスが言う。


「いや、だってよ! おいらもヨルダ爺が昔は偉い人だったってことは知っていたけどよ、まさか『原初の霊界人』だとは思わないじゃん! 伝説だぞ? もし現存していたら、十億歳以上なんだぞ!」


「十億歳!!!」

リピウスは叫んでいた。


「ほっほっほ。何を今更言っておるんじゃ。おぬしも妄想で『原初の霊界人はおよそ十億年前に創られた』と言っておったではないか」


「いやいや、確かに妄想では言っていたけどさ! まさか現実の話だとは思ってないじゃんか。例え思っていても、改めて聞いたら驚くぞ!」


「そりゃそうだよな……。おいらだってリピウスの妄想が現実に近いとは思っていたけど、まさか霊界創造の話まで現実だったなんて」


「ほお、そんなものかのう」


「『ほお』じゃないって! 原初の七人だぞ。……あれ? まさかヨルダ爺って、幽界アストラルワールドと霊界学園の創始者とか……?」


リピウスは口にしてから、自分でもそのとんでもない仮説に驚きの表情になった。


「おいおい嘘だろ……。おいらは、そんな偉人と付き合っていたのかよ」

デュークはそれ以上に驚愕し、もはや引きつった笑いを浮かべている。


「まあ昔の話じゃからな。わしは百万年前には既に隠居しておったしな。デュークと知り合ったのは、隠居の暇つぶしに学園の名誉教授なんて肩書を貰って、お情けで少しだけ授業をしていた時じゃ。それもデュークが卒業した後は勇退して、完全な隠居暮らしになってしまったがな」


リピウスもデュークも驚きすぎて、言葉を失ってしまった。


そんな二人を尻目に、ヨルダ爺はコーヒーを飲み干すと、

「すまんが、もう一杯いただけるかな?」

と空のカップを掲げてリピウスに催促した。


とんでもない事実を聞いた後なので、コーヒーを淹れ直すリピウスの手も、心なしか震えているようだった。

十億年も生きた存在が、自分の淹れたコーヒーを「もう一杯」と言ってくれている。

その事実に、リピウスは背筋が伸びるような思いを抱かずにはいられなかった。

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