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<義体操作は難しい>

『なあヨルダ爺。霊魂は心臓の位置に収めればいいんだな?』


リピウスは義体の中でアレコレと試行錯誤しているようで、時々首がカクンカクンと上下動したり、指先が変な方向に曲がったかと思えば、急にダランと元に戻ったりしている。


「そうじゃ。位置を任意に変えることも可能じゃぞ」


『なるほど。あとは骨格に沿って霊体を広げていって……ふむふむ。それから神経網のように霊糸れいしを伸ばしつつ、操作部位に絡めていく感じか?』


リピウスは独り言のようにゴニョゴニョ言いながら、義体の内部点検を続けていた。それに連れて、あちらこちらのパーツが震えるように不規則に動く。

いきなり支えていた手から力が抜けて突っ伏しそうになり、慌てて支え直したりと、その姿は常に微動し続けていた。


「ほっほっほ。なんじゃ、もう操作方法を理解してしまったようじゃのう」


「マジかよ……。おいらが初めて学園で操作した時なんて、説明を受けても指一本動かせなかったんだぞ」


デュークは霊界学園時代の『ノーマルタイプ義体操作実習』を思い出していた。訓練用なので操作ポイントも少なく、扱いやすいはずのタイプだったが、それでもデュークをはじめ多くの学生は身動きできずに直立不動のまま。いきなり動こうとして顔から床に突っ込み「ギャフン!」と妙な声を上げる者が続出したものである。

最高性能の義体に初めて触れて、これほど早く順応するリピウスのセンスには、驚きを隠せなかった。


『まあ、この辺も妄想で義体構造をシミュレーションしていたからな。概ね俺の設計イメージと同じみたいだ』


「本当、お前の妄想ってのは最強だな。反則だぜ、それは!」


『すまないデューク! 俺の後ろに椅子を差し込んでくれないか? 少し座って作業したいんだ』


その声を聞いて、デュークはすぐに義体の後ろから、膝のあたりに当たるように椅子を差し込んだ。


『おー、サンキュー。これで落ち着いて作業できそうだ』


義体は非常にぎこちない動きを見せながらも、少しずつ腰をかがめて、ようやく椅子に腰を下ろした。


その後、リピウスは外観の調整に入ったようだった。

すると突然、つるっぱげ状態だった頭部から、ボサッと黒い直毛が勢いよく放射状に伸びた。まるで大量の髪の毛が一気に爆発したかのようだった。


「ブッ!!!」

その様子を見ていたデュークは思わず吹き出した。


「お前、何やってんだよ! それじゃまるでコントじゃないか。お笑い芸人でも始める気か!」


「ふぉふぉふぉ。これだからリピウスは面白いのう。わしも学園時代に多くの実習を見てきたが、これほど笑わせてくれた者は初めてじゃて」


ヨルダ爺もデュークも、腹を抱えながらリピウスの奮闘を眺めている。


『う、うるさいな〜! これでも真剣にやってるんだぞ。ただ髪の毛のデフォルト設定が「全開」になっていただけなんだよ。あー! ヨルダ爺まで笑ってる。もう、二人とも酷いぞ!』


リピウスが抗議する間も、頭部では髪が出たり引っ込んだりを高速で繰り返している。そのコミカルな様子に、二人の笑いは止まることを知らなかった。


一時間後。

リピウスが義体の中での調整を続けた結果、ようやくまともな姿に落ち着いてきた。

だが流石に疲労が限界に達したようで、義体からフワァ〜っと幽体が抜け出ると、元の体の中へと戻ってきた。


「ふぅ〜……。やっぱり、自分の体は落ち着くわ」

テーブルに突っ伏していたリピウスが体を起こし、首や肩を回しながら自分の感触を確かめる。


「ん? もういいのか?」

ヨルダ爺は義体が動き回るところまで見たかったようで、少し残念そうだ。


「うん。とりあえず今日はここまで。実際に動かすのは、周りを片付けて倒れても大丈夫なようにしてからだよ。流石にこのままだと危なすぎる」


「まあ、当然だよな。おいらなんて立ち上がろうとしてそのまま転んで、起き上がれなくなって散々もがいてたからな」


「最初はそんなもんじゃろうな。じゃが、リピウスならば……という期待もしておったのじゃが」


「まあまあ、一息入れようよ」

リピウスは手を空中にかざし、開いた穴からコーヒーポットを取り出した。

みんなのカップを満たし、空になっていた菓子皿に新しいお菓子を補充する。


デュークとヨルダ爺の座った間には、先ほどまでリピウスが悪戦苦闘していた義体が、テーブルに突っ伏した状態で鎮座していた。


その姿は、最初に出会った頃のリピウスの面影を色濃く残す、ぽっちゃり……というより「かなりデブっとした」体型のオジサンであった。

ヨルダ爺とデュークは、あの霊体離脱事件の頃を思い出し、妙な懐かしさを感じていたのだが。


よくよく見ると、単に「デブな五十代のオジサンが裸でダウンしている」だけの光景であり、二人の心はすぐさまシュールな現実へと引き戻されるのであった。

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