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<ヨルダ爺からの提案>

翌週。ヨルダ爺を伴って、デュークがやって来た。

待ちかねたようにリピウスは二人をテーブルに招き、空間から淹れたてのコーヒーを三つ取り出して並べた。今日は美味しいケーキも用意してある。


「ほお〜。聞いてはおったが、空間収納ディメンション・ボックスの使い方も手慣れたもんじゃのう」


コーヒーを啜りながら、ヨルダ爺は嬉しそうにリピウスを見つめている。


「これ、便利そうだから絶対使えるようになりたかったんですよ」


あれから一週間。リピウスも少しは落ち着きを取り戻していた。知恵袋であるヨルダ爺なら、何とかしてくれるのではないかという期待感もあった。

ただ、この一週間でさらに体は引き締まり、体重は変わらないものの、見た目は完全に二十代に突入しているようだった。


「確かにな。霊界学園時代も、これを使えるようになるだけで格が上がったからな……」


デュークは昔を思い出しているのか、遠い目をして虚空を見つめている。


「ほっほっほ。デュークは就職が決まらず泣きべそをかいておったが、空間収納を使えるようになって命拾いしたからのう」


「あはは、デューク、泣いてたんだ」

リピウスが愉快そうに笑う。


「い、いや、おいらは泣いてねえよ! まあ、就職先が無くてだいぶ落ち込んではいたけどな」


「それでじゃ、何やらリピウスがまたやらかしたと言うことじゃが?」


「そうなんだよヨルダ爺。まあ、これを見てやってくれよ」


デュークに言われて、リピウスは立ち上がり、全身ブカブカの格好を披露した。

服はダブダブで、ズボンはベルトだけでは足りないのか、縄でキツめに絞ってある。腰から下は太い筒が二本伸びているような有様で、裾が広がらないように靴下の中に押し込んでいた。

見た目はまるでニッカポッカを履いているようだった。


「なんだよその格好! 昔の冒険家か、それとも土木作業員かよ!」


デュークが容赦ないツッコミを入れる。リピウスは、靴下にねじ込まれたズボンの裾を指差して力説した。


「これでも必死に考えた結果なんだよ! こうしないと裾がバサバサ動いて歩きにくいし、あちこち引っかかるんだ。まあ、歩くたびにガサガサ音がするけどな!」


「ほう、これはまた……。少し縮んだかの?」


リピウスの珍妙な格好を見たはずなのに、ヨルダ爺の反応はどこか見当違いなものだった。


「ヨルダ爺、縮んだんじゃなくて痩せて服がブカブカなんだよ。それに顔を見てくれ、肌つやも良くてしわ一つなくなってるだろ!」


「ふむ。そう言われてみれば、そうかもしれんのう」


「いや、一目で分かるだろ!」


「ふぁっふぁっふぁ。わしくらい長く生きておると、その程度の差異では違いもよく分からんのじゃよ」


確かにヨルダ爺にしてみれば、霊界における実年齢と外見などは些細な問題だった。百万歳の霊界人が、二十代の若々しい姿で活動していることなど当たり前の世界なのだ。


また、今まで若者の姿だったものが、一瞬にして自分と同年齢的な老人の姿に変化したりもする世界である。

ヨルダの感性が年齢と外見に無頓着なのも当然なのかもしれない。


しかし、人間との関わりが多いデュークは、より人間的な感覚を持っていた。

「おいおいヨルダ爺、まさか耄碌もうろくしたんじゃねえだろうな? 人間界で言うところの認知症になっちまったとか……」


故かデュークはヨルダ爺の対応に苛立っているようだった。


「はぁ〜? どうもよく聞こえんな。最近耳が遠くなったようじゃわい」


ヨルダ爺はかえって面白がっているようで、わざとボケた調子でデュークを揶揄っている。リピウスは話が進まないのを見かねて割り込んだ。


「なあヨルダ爺。デュークの言う通り、外見が若返りすぎたんだ。たぶんご近所さんなら、一瞬で『別人だ』って分かってしまうくらいにね」


「ふーむ。じゃが、若返ったものを即座に老化させることもできんじゃろう?」


ヨルダ爺は相変わらずのん気にお菓子を食べている。


「そりゃそうだ。ん? 老化……」


「おいおいおい待て! お前、また絶対に変なこと考えただろ。ダメだぞ、よく相談してからにしろ!」


リピウスの「思いつき」の恐ろしさを知るデュークが即座に制止する。


「ああ……大丈夫だよ。霊気で無理やり老化させることを一瞬考えたけど、下手したら取り返しのつかない事態になりかねないからね。何もしないよ」


「やっぱり考えたのかよ! ヨルダ爺、言ってやってくれよ。こいつ、とんでもないことをサクッと始めちゃうんだから!」


「ほっほっほ。リピウスは外見以上に、本質的に若いんじゃろうな。まあ、見ていて飽きんから楽しいがの」


「いやヨルダ爺も楽しんでないでさ、何とか考えてやってくれよ」

デュークはヨルダ爺まで手に負えなくなってきたと頭を抱えてしまった。


「ところでリピウスよ、おぬしはあれ以降、幽体離脱や霊体離脱はしておらんのじゃな?」


「ん。勝手に離脱することはないよ。まあ、やろうと思えばいつでもできるけどな」


「えっ? お前、自由にできるのかよ……」


「うん、二、三度試してみたよ」


「ほう、問題はなさそうかの?」


「最初は怖かったからすぐ戻ったけど、その後は一時間程度フラフラしてから戻ったりしてみた。魂の緒を切って霊体離脱状態にして、また魂の緒を繋いで元に戻る、っていうテストも試したからね」


「よ、よくやるな……。おいらだったら怖くて絶対できないぜ……」


デュークは顔を青くして椅子からずり落ちそうになった。死神ですら慎重に扱う魂の命綱を、実験感覚で扱うリピウスの好奇心に、戦慄を禁じ得なかったのだ。


「まあ、そういう所も実にリピウスらしいのう」


ヨルダ爺は相変わらず呑気な顔をして、コーヒーを啜り、お茶菓子を口に頬張って満足そうに微笑んでいた。が、何やら思い出したかのように、急に空中に手を翳した。


空間収納ディメンション・ボックスを開けようとしているようで、何時ものように空間が少し歪むと、少し大き目の穴が開いた。


「でじゃ、霊体離脱ができるんじゃったら、ほれ、これを使ったらどうじゃ?」


ヨルダ爺が空間から取り出したのは、等身大ほどもある、大きな「人形」だった。

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