<念話って駄々洩れ?>
また一週間が経ち、デュークがリビングに現れた。
「よ! 今日は何をやってるんだ?」
リピウスは椅子に背筋を伸ばして座り、静かに瞑想しているようだった。
デュークの呼びかけに、軽く左手を上げて「待ってくれ」と合図を送る。
「ふむ……。やっぱり、一人じゃ加減が分からんな」
やがてリピウスは独り言を漏らして目を開いた。
「また何かやってたのか?」
「うん。まあ、まずはコーヒーでも飲みながら話そう」
そう言ってデュークをテーブルに着かせた。
いつもなら電気ケトルでお湯を沸かすところだが、今日のリピウスは座ったまま、右手をすっと何もない空間に伸ばした。
すると、そこが陽炎のようにゆらぎ、小さな裂け目が現れた。リピウスは迷わず、その中へと腕を差し込む。
「お、お前……! それって……っ!」
デュークは驚きのあまり言葉を失った。
そんな相棒を他所に、リピウスは空間の裂け目から、湯気の立ったコーヒーカップを次々と取り出していく。
自分とデュークの前に並べ、さらにお茶菓子まで出すと、裂け目はスッと消えてなくなった。
「さあ、温かいうちに召し上がれ」
ニッコリと微笑むリピウス。
対照的に、デュークは目の前のカップを眺めて唖然としている。
「……お前、『空間収納』が使えるようになったのか?」
「うん。いつかは修得したいと思ってたんだけど、意外とあっさり出来たな」
「嘘だろ! 俺なんて霊界学園の卒業間近に、必死になってようやく掴んだ能力だぞ。これが使えないと、死神の仕事にならないからな……」
「そうか。確かに、荷物の持ち運びには必須だものね」
「まあな。……っていうか『あっさり』って、そんなに簡単にできたのかよ」
「そうだね。たぶん、さんざん妄想でイメージトレーニングをしていたからだろうな。ファンタジー物語には欠かせない能力だからさ」
「妄想か……。お前の妄想って、もはや最強じゃないか?」
デュークは遠い目をして呟いた。
「そうだ。それよりさっき『一人じゃ分からん』って言ってたけど、何をしていたんだ?」
「ああ、それそれ。以前、俺が喋っているのと同時に、頭の中に直接響く声(念話)でも話しているって言ってたよね」
「ああ、今でも両方聞こえてくるぞ」
「それなんだけどさ……もしかして、口に出していない『心の声』まで、全部デュークたちに届いてしまってたりしないかな?」
「う〜ん……どうなんだろうな。意識したことはなかったけど」
「例えばさっき、俺が瞑想していた時。何か聞こえてたか?」
「来た時か? いや、何も聞こえなかったぞ。あ、でも手を挙げた時に『ちょっと待って』とは響いてきたな」
「お! やっぱり、言葉にしようと思った心の声は、ちゃんと届いているんだ」
「まあ、念話だからな」
「でも、それってまずくないか? つまり、相手が霊界人だったら、俺の独り言が無差別に届いてしまうってことなのか?」
「ああ、それか。えーと……確か学園の授業で、意思の伝え方について習った気がするな。詳細は忘れちまったけど」
「忘れたんかい!」
リピウスはお約束のずっこけリアクションをしてみせた。
「ちょっと待てよ、今思い出すから……。確か、念話ってのは、伝えたい相手をしっかりと認識して、『届けたい』っていう意思を込めないと伝わらないはずだぞ」
「ん? つまり、自分が『この人に伝えよう』と思った相手にだけ届くってことか?」
「確かそう聞いている」
「じゃあ、勝手に周りに自分の考えが漏れてしまう心配はないんだな?」
「うん、たぶん。ただ、より安全を考えるなら、特定の取り決めをして通話した方が良いとも言っていたような……」
「ん?なんか分かりにくい表現だな……」
「すまん。おいらじゃ上手く説明できねえな。今度ヨルダ爺に頼んでみるよ」
「うん。でも少し分かった気もするな。多分セキュリティを考慮して、特定チャネルでの通話にするとかじゃ無いかな?」
「おいおい、そんな難しい例えをされても、おいらにゃちんぷんかんぷんだぜ」
「あはは。まあ、この話は次回、ヨルダ爺に詳しく聞いてみよう」
そうして二人は、淹れたての香りに包まれながら、穏やかなコーヒータイムを楽しんだ。




