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<死神も講習があるらしい>

あの地獄のような全身筋肉痛から一週間。

再びデュークが訪問してきた。


「よ! 調子は戻ったか?」


いつもの調子でリビングに入って来たデュークは、すぐに息を呑んだ。

テーブルの上に置かれたダンボール箱に向かって、リピウスが大きな金槌を振り上げていたからだ。


「お、おい! お前また変なこと始めたんじゃないだろうな?」


最近は来るたびに騒動が起きるので、思わず叫んでしまった。

しかしリピウスは、デュークの声も耳に入らない様子で、振り上げた金槌をダンボール箱に勢いよく打ち付けた。


『ガキン!』


箱を叩いたとは思えない、硬質な音が響いた。だが、ダンボール箱の形に変化はない。


「よう! デュークか。今コーヒーを淹れるから、ちょっと待っててくれよ」


そう言ってダンボール箱をテーブルから下ろし、リピウスはお湯を沸かす準備をし始めた。


「今度は何を始めたんだよ……」


床に置かれた箱を熱心に観察しながら、気になって仕方がない様子でデュークが聞いてきた。


「まあ、コーヒーを淹れたら説明するからさ」


そう言われては、デュークも椅子に座って待つしかない。

淹れたてのコーヒーとお茶菓子が並んだところで、ようやくリピウスが口を開いた。


「これはな、バリアの具合を確かめていたんだよ」


「バリア?」


「そうだぞ。もし襲われたりしても、これがあれば安心だろ?」


「いや、お前、誰かから狙われてるのかよ」


「それは無いな。ほとんど人付き合いもしていないし、恨まれる覚えもないからね」


「じゃあ何でそんな物騒なことを考えてるんだよ」


「そりゃ分からないじゃないか。世の中には何をしでかすか分からない連中もいるんだからさ」


「まあ、それはそうだろうけどよ……。で、金槌で殴られる前提なのか?」


「いや、本当は拳銃で撃たれても大丈夫なくらいにしたいんだけど、あいにく拳銃なんて触ったこともないからね。適当にバリアを張ってみて、叩いた時の衝撃がどう跳ね返ってくるか、その加減を調べていたんだよ」


「要は、どれくらいの強さで張ればいいか見当がつかない、ってことか?」


「そうそう。だから自分で殴ってみて、手応えを確かめていたのさ」


「ふ~ん……。それなら、おいらは知ってるぞ」


「……えっ。お前、分かるのか?」


「ああ。そういうのも死神の講習でやるからな」


「おぉ……! デューク様!」


デュークの話によれば、死神は人間界で活動することが多いため、人間への対処についても事前にしっかりと教え込まれるのだという。

その中には、拳銃やナイフ、その他の凶器で襲われた場合の防ぎ方も含まれており、バリアを張る際の強さの目安も示されているそうだ。


「まあ、だいたいどれくらいの霊力を使えば防げるかっていうのは、基本として教えてもらってるからな」


そう言ってデュークは、不思議な薄い板状の端末を取り出し、数値のまとまった表を見せてくれた。


「うひょー! これだよ、これが知りたかったんだ!」


リピウスは、デュークの端末に表示された内容にかじりついた。


「なるほど……対拳銃ならこの霊圧、刃物ならこれか。あてずっぽうの実験より、よっぽど確実で無駄がない。さすがはプロの死神だな、デューク様!」


「『様』はやめろって。お前がそう言う口調の時は、また変なことを企んでいるサインだからな。こっちはなんだか寿命が縮まる気がするぜ」


怪訝な目を向けながら頭をかくデュークと、目的の情報が手に入ってニヤけるリピウス。

リビングには、コーヒーの香りが平和に漂っていた。


その後は、いつものように雑談しながらまったりと過ごしていたが、ふとデュークが何かに気づいたようだ。


「なあリピウス、お前……少し痩せたか?」


「まあ、あの地獄のような経験のおかげで、余分なものが削ぎ落とされたのかもな」


苦笑いしながら腹部をさするリピウス。

痛みは引いたが、あの失敗のおかげで自分の力の「引き際」を肌で理解できたのは、怪我の功名といえた。


「大丈夫なのか? また無理してんじゃねえだろうな?」


「いやいや、それは無いよ。流石にあれで懲りたからね。もう大丈夫だ」


「ならいいけどよ……」

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