<おらは死んじまっただ~?>
はじめまして、ゴンベしゃんと申します。
1955年生まれの新米ですが、完結まで書き上げましたので、安心してお付き合いください。
※本作は「カクヨム」にも投稿する予定です。
「天高く馬肥ゆる秋……」
そんな言葉を思い出しながら、秋晴れの澄んだ青空を俺は眺めていた。
「はぁ〜……」
と、何度目かも分からないため息をつく。
「なんでこんなことになってしまったんだろうな……」
俺は現在66歳。憧れの年金生活者になった爺である。
年金額は少なめだが、一戸建ての持ち家に住んでおり、一人暮らしでもあることから、なんとかギリギリ生活ができている。
俺はこの歳まで独身であり、一昨年の末に母が亡くなったため、天涯孤独な身の上になってしまった。
しかし60歳まではちゃんと仕事をしており、システムエンジニアとしてそれなりの年収も得ていたので、当面困らない程度の蓄えもある。
なので今は、のんびりと独り暮らしを楽しんでいる……はずだった。
さて、現在に至る状況であるが、時間は2時間前に遡る。
この日もノートパソコンでネットニュースをぼんやりと眺めていた。
四輪のキャスター付きチェアに座っていたのだが、退屈しのぎに後ろへ体重をかけ、椅子の前側が浮き上がるような体勢でゆらゆらさせていた。
すると体重をかけ過ぎてしまい、接地面のキャスターが回転して一気に倒れ込んでしまったのだ。
「うわっ、あ……!!」
叫ぶ間もなかった。
ドスン、ガチャン! と椅子が倒れる硬い音。
それと同時に、後頭部にズシンと重い衝撃が走り、視界に火花を散らす。
目の前が瞬時に暗くなったと思う間もなく、俺の意識はフッと消えてしまった。
どうやら気絶してしまったようだ。
少しして、俺は意識を取り戻した。
「痛い!……あれ? 痛くはないか……」
俺は無意識に後頭部をさすりながら呟く。
頭を強く打って鈍い痛みを感じたのは覚えている。少しフワフワした感じはあるが、特に痛みは感じなかった。
不思議に思いつつ視線を下に向けると、なぜかそこには倒れている自分の姿が見えた。
「ん? 俺だよな……」
そう思いつつ両手の手のひらを眺める。
そこにはうっすらと青白い、半透明の手のひらがあった。
手のひら越しに、倒れている自分の姿が見える。
しばしフリーズ状態の俺。頭が真っ白になって、何も反応できなくなってしまった。
暫しの間をおいて浮かんだのは、「俺って死んだのか?」ということであった。
どう見ても今意識のある自分は半透明の幽霊である。
足元を覗いてみると足はあるようだが、半透明で不明瞭だ。
慌てて俺は洗面台に向かって移動し、鏡に自分の姿を映してみる。
だが、そこには何も映っていない。
「幽霊って鏡には映らないのか?」などと思いつつ、再び倒れている自分の元へと戻る。
しばらく倒れている自分の姿を見つめていたが、俺は意を決して自分の顔の間近まで接近した。
最初に後頭部を見る。
「うん。血は出ていないな」
もし血が出ていたら、俺は再び失神したであろう。
なにせ人生で2回献血して、2回とも途中で失神し、目覚めたらベッドに寝かされていた男である。
歯医者で親知らずを抜かれた際、その部分を鏡で見せられて、自分の血で速攻失神した経歴の持ち主でもある。
少しホッとして、次に口と鼻に近づく。
よく分からないが、微かに呼吸しているように見える。
半透明の手を口に近づけてみるが、当然触れることはできないから、呼吸は確認できなかった。
しかし、しばらくじっと観察していると、僅かだが瞼や指先がピクッと動くことが確認できた。
「生きている!」
そう思うと、少し気持ちが明るくなった。倒れている俺の本体は生きている。
ただ意識を失っているだけのようだ。
「ん? ということは、この半透明な俺は何なのだ?」
そんな疑問が浮かぶ。
ここでハッと俺は閃いた。
「なるほど。これが幽体離脱ということだな。転倒した衝撃で幽体離脱してしまったということか。ならば、俺が再度体に戻れば……」
早速、体に戻ろうと努力が始まる。
まずは倒れている自分の体と同じ体勢で、完全に重なってみる。
だが、変化なし。
そのまま半透明の上半身を起こしながら、「幽体離脱〜!」と言ってみる。
ふざけている場合ではないと自分を叱りながら、戻る方法を考えて色々試す。
「魂って体のどこに宿っているのかな?」
ふと思った。やはり心臓だろうか?
ならば小さくなって心臓の中に入れば、戻れるかもしれない。
「ん〜〜!!!」
と力みながら、小さくなれと念じた。
すると、胸の奥にある見えない座標に吸い寄せられるように、体の中心がボゥと白く光りだした。
そこへ向かって半透明の体全体がギュッと凝縮されていく。
やがて俺の体は、拳大の人魂状態へとリサイズされた。
「お! これなら心臓に潜り込めるかもしれないな」
そう思いながら俺は、自分の本体の胸へと滑り込むように潜り込んでみた。
しかし、そこには確かな手応えも、意識が再生するような予兆も何もなく、ただ虚しく通り抜けるだけだった。
「それでは脳かな?」
今度は頭の中へと人魂姿で潜り込んでみるが、変化なし。
ならばと口の中へと入り込んで、そのまま食べられるように体内へと突き進んでみたりもした。
結果は、喉からスルリと人魂が抜け出てしまった。
それからもアレコレと考えては試すこと小一時間。
結果はすべて失敗に終わり、生きていると知って明るくなった心が再び沈み込み始めた。
最後は滅茶苦茶に体の中を動き回ってみたが、やはり失敗。
「ヤバイ!」という焦りばかりが募っていく。
「落ち着け! 落ち着け! こういう時こそ落ち着いて考えるのだ」
自分に言い聞かせながら倒れている自分を眺めていたが、結局良い考えは思いつかなかった。
「外の空気でも吸って頭を冷やすか……(空気は吸えないけど)」
そう思って、俺はまた半透明の幽霊姿になって家の中を上昇し、天井を抜け、屋根を抜けて外へ出た。
秋の昼下がり。太陽の光が眩しかった。
このあまりにも平和な景色が、かえって今の俺には空虚な現実感を際立たせ、どこか他人事のような寂寥感を抱かせた。
そしてそのまま、屋根のアンテナに掴まるようにして空を眺めていたのであった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
椅子でゆらゆらして転ぶ……。そんな日常の不運から、リピウスの数奇な運命が動き出します。
次回、第2話は「死神」を名乗るおかしな男が登場します。




