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<前世の記憶の残滓>

しかし、少しの間をおいて、リピウスには別の疑問が浮かび始めた。


「あれ? でもさ。それって第1人間界では『ファンタジー』として色々と語られている内容だけど……。なんでこっちの世界の作者たちが、第4人間界の内容を知っているんだ?」


「ほっほっほ。それを言い出したら、なぜリピウスは誰も知らないはずの霊界や霊力について知っておるのじゃ?」


「あはは、そりゃそうだよな。リピウスが妄想で語ってるんだから、他の人間で第4人間界のことを妄想する奴がいたっておかしくないだろ?」


デュークが愉快そうに割って入ってきた。

リピウスはまだ納得がいかないようで、「そうかな……」としきりに首を傾げている。


「まあ、少し種明かしをしておくかの。これも禁則事項なんじゃがな」


そう言って、ヨルダ爺はこの世界の「絡繰り」について話してくれた。


「実はまだ確証はないそうなのじゃが……。霊魂の大部分は輪廻によって、再度人間界に誕生しておるじゃろ。その際、霊魂は一度分解されて再構成されてから生まれる。じゃが、どうも前世の記憶などが『残滓ざんし』として残ることがあり、時折その影響が強く出る者も現れるそうじゃ。それで、様々な物語の中で語られることもある……ということらしいの」


「……じゃあ、俺の妄想も、前世の記憶の残滓によるものなのかな?」


「確証はないが、その可能性はあるじゃろうのう。わしもリピウスと話をしていると、なぜか昔の友のことを思い出したりするからの。もしかしたら、古い友の残滓が混ざっているのかもしれんな」


ヨルダ爺の視線は、窓の外の暮れゆく空へと向けられていた。

その瞳の奥には、リピウスには計り知れないほど長い年月と、数えきれないほどの別れが積み重なっているのだろう。リピウスの魂の中に、もしヨルダの友人の欠片が混ざっているのだとしたら、この出会いはまさに「数億分の一の再会」なのかもしれない。


「ふ〜ん……そんなこともあるんだ。おいらには前世の記憶なんて欠片も感じないけどな〜」


そう言ってクッキーを頬張るデュークを見て、リピウスは苦笑した。

この相棒は、前世がどうこうよりも、今この瞬間のコーヒーが美味いかどうかのほうが、よっぽど大事らしい。だが、そんな地に足のついたデュークの明るさが、今のリピウスには心地よかった。


「これもごく稀な話なのじゃよ。誰もが記憶を持っているわけではない。まあ、人口が圧倒的に多い第1人間界だからこそ、その稀な現象も目に付く、という感じじゃろうな」


「第4人間界って、人口が少ないのかい?」


「うむ、少ないのう。第4だけではなく、第2も第3も少ない。幽界に来る霊魂の数を見ても、七割以上が第1人間界からじゃからな」


「そうだよな。おいらたち死神の大部分も第1人間界に配置されているしな」


「それは、第1人間界では『迷子』も多いからじゃ。迷子を放置すること自体が問題になる、との判断もある。第2以降なら、多少迷子が存在しても、住人はたいして気にせんからな」


「そう聞くと、結構、第1人間界って特殊な世界なんだね」


「そうじゃな。天界では昔、『稀有な成功事例』と言われておった。……まあ、今では少々『問題児』扱いもされているがの」


「え? 問題児?」


「そのあたりは、また別の機会にさせてくれんか? これ以上禁則事項を並べるのもなんじゃしな」


「わかった。でも『前世の記憶の残滓』っていうのは、面白い話だったよ。説得力もあるし、何よりロマンを感じるからね」


「そうかな? おいらには突拍子もない話としか感じないけどな〜」


「ほっほっほ。デュークに限らず、霊界でもあまり注目されん説ではあるのじゃが。リピウスには興味を惹くに値するものだったようじゃの」


「うん。妄想家としては堪らないネタだよ。これを機に、さらに妄想を掻き立ててみることにするよ」

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