<これって回復傾向か?>
その後もリピウスは、霊気循環による「異常部位の治療イメージ」を続けていた。
最初はかえって違和感が強くなったりして不安にもなったのだが、徐々にその違和感が薄れていくのを感じ始めた。
(ふむ。少しずつ改善してきているような気がするな……)
デュークも週一回のペースで訪問してはリピウスの様子を確認していたが、リピウスが少しずつ元気を取り戻してきたのを見て、ひとまずは見守ることに決めたようだった。
そして、二週間が過ぎた頃。明確な変化が訪れた。
まず、逆流性食道炎の症状が緩和され、あの嫌な胃もたれ感や逆流が劇的に改善したのだ。
さらに、慢性的に喉が荒れて咳き込むことが多かった症状も軽減されてきた。何よりも、便通が目に見えて良くなった。
(やっぱり、治療効果が出ているんじゃないか?)
そう思うと、急に力が湧いてくるような心地だった。
リピウスは、この際、長年の懸案だった「禁煙」にも本格的に取り組んでしまおうと考え始めた。
肺の洗浄を強くイメージし、さらには脳への循環を強化することで、喫煙欲求を極力抑え込むようなイメージを強く描き続けた。
そして、一ヶ月が過ぎた頃。
ヨルダ爺が、デュークと共にやってきた。
ヨルダ爺もデュークから逐次リピウスの状況を聞いて心配していたのだが、久しぶりに会うリピウスが意外なほど元気そうにしているので、胸をなでおろしていた。
「デュークから、リピウスが何やら悩んでおると聞いておったが、どうやら大丈夫そうじゃの」
いつも通りコーヒーを啜りながら、ヨルダ爺はリピウスの顔色をじっくりと眺めて声をかけた。
「うん。最初はちょっと不安になったんだけど、ここに来てグンと体調が良くなったから。今はもう一安心って感じかな」
「いやあ、最初はマジで心配したんだぜ。急に不機嫌そうな顔ばかりしてるんだからな」
「ごめんよ、デューク。でも急に怖くなってしまってね。まあ、最近は気にしていた症状がどんどん改善されているのを実感しているから、また訓練が楽しくなってきたんだ。だからもう大丈夫だよ」
「ならいいけどさ。リピウスが暗い顔してると、こっちまで調子が狂っちまうんだよ」
「ほっほっほ。全くじゃのう。デュークが暗い顔をしてわしの所へ来るものだから、わしまで気分が沈んでしまったわい」
「本当にごめん。ヨルダ爺にも余計な心配をかけちゃったみたいだね」
「なになに、結果良ければ、じゃ。今日は随分と元気そうじゃから安心したぞい」
そんな穏やかなヨルダ爺の様子を見て、リピウスはふと思い立ち、真剣な顔で問いかけた。
「一つ、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「ん? なんじゃろ」
「霊力ってさ、治癒とか回復の効果もあるものなのかい?」
「治癒や回復……。うーむ、それは肉体的なものに対して、という意味かな?」
「そう、肉体的なもの」
リピウスの問いに、デュークが口を挟む。
「リピウスよ、それはおいらたち霊界人には分からねえぞ。なにせ肉体がねえんだからな」
「うん。それは分かってるんだけどさ。でも、何か知っていることでもあればと思って」
ヨルダ爺はしばらく考え込んでいたが、やがてゆっくりと話し出した。
「わしが知っている範囲で言うならば……『第四人間界』では、治癒魔法という形で、霊力による治癒や回復効果が確認されていると思うがの」
「え……? 第四人間界?」
リピウスは、持っていたコーヒーカップを静かにテーブルに置いた。
窓から入る陽射しはいつも通りで、近所からは子供たちが遊ぶ声が聞こえてくる。
そんな「いつもの午後」に、ヨルダ爺の口から出た言葉は、あまりに場違いで、どこかSF映画のセリフのように響いた。




