<次の段階>
「今日も元気だ、ご飯が美味い♪」
リピウスはご機嫌であった。昨日デュークに確認してもらった霊気量は、リピウスの予想を上回る好結果だったのだ。
「俺ってやっぱり、できる子じゃん」などと呟きながら、今日も霊力制御の訓練に取り組んでいた。
今日から再び、横になっての訓練を始めている。だが、あのクッションは使っていない。
床の上にヨガマットを敷き、その上に仰向けで寝ている状態だ。
床が硬いため、これなら眠気も起きにくいだろうという算段である。
横になったのには理由がある。今日からは霊気を体に沿わせるだけでなく、体内を含めて循環させようと考えていたのだ。
そのためには、やはり横になったほうがイメージしやすかった。
リピウスは霊気の流れを感じながら、その流れが体内へと染み込み、全身を巡るようにイメージしていく。
体中の血管から内臓、脳、手足の関節……すべてを意識しながら、霊気を循環させる。
しばらく続けると、全身がじんわりと温かくなってきた。
「おほぉー……! これはなんか、気持ちいいな」
目を閉じると、自分の体が一本の透き通った管になったような気がした。霊気が血の巡りと共鳴し、指先から脳の隅々までを、柔らかな光の帯が洗い流していく。
それは、冬の朝に熱い紅茶を飲んだ時のように、体の芯から『生』の充実感が静かに、じわじわと染み出してくるような至福のひとときだった。
さらに神経を研ぎ澄ませていくと、霊気が細胞の隅々まで行き渡る感覚が伝わってくる。
それとともに、心までもが深い充実感で満たされていく。
「あぁ……。霊力に目覚めて、良かったかもな」
リピウスは満足そうに、微かな微笑みを浮かべた。
こうして、さらに一週間の時が流れた。
既に「霊力循環」は習慣になり、リピウスは毎日、時間のある限り取り組み続けていた。
そして、いつもの午後三時。リビングの空間に穴が開き、デュークが姿を現した。
「おーい! リピウス、居るか〜」
呑気な声が響く。その後ろからは、ヨルダ爺も続いていた。
デュークはリピウスが最近座っていた椅子を見るが、そこに姿はない。リビングを見渡すと、窓際のヨガマットの上で寝ているリピウスを発見した。
「あー! お前、また寝てんのかよ!」
「寝てないぞ。ただ横になって訓練してるだけだ」
リピウスは少しムッとした表情で、寝たまま答えた。だがすぐに笑顔で起き上がると、いつものテーブルへと二人を招いた。
「ヨルダ爺、ちょいと久しぶりだね。忙しかったのかい?」
ヨルダ爺は都合が悪かったようで、二週間ぶりの訪問だった。
「おう、すまんな。ちょっと野暮用が増えてしまってのう。訓練の成果は気になっておったのじゃが、一応デュークからも報告は聞いておったぞ」
ヨルダ爺は椅子に座ると、以前よりも元気そうなリピウスの姿を見て、嬉しそうに目を細めた。
リピウスはいつものようにコーヒーとお菓子で二人を歓待する。
二人も当然のようにコーヒーを啜り、お菓子を口に運ぶ。
リピウスにとって、これは実に楽しいひと時だった。
一段落したところで、ヨルダ爺が切り出した。
「デュークの話では、だいぶ制御できるようになったと聞いておるが、その後も順調かの?」
「おう! 絶好調だぜ。今日あたりは、目標の50を切ってるんじゃないかな?」
「ほぉ〜。それは楽しみじゃ。デュークよ、ちょっと確認してくれるかの」
ヨルダ爺の指示で、デュークがすぐに霊力探知機を取り出し、チェックを始めた。
「おおーー! ヨルダ爺、これ見てくれよ!」
デュークが驚きの声を上げ、画面を差し出す。
「ほぉ……。これは、凄いな」
ヨルダ爺も感嘆の声を漏らした。
画面に映ったリピウスの霊気量は「32」だった。
「お前、凄すぎるだろ! 先週から半分以下になってるじゃないか!」
「ふっふっふ。見たかねデューク君。これが『次の段階』に進んだリピウスの実力ですよ」
胸を張るリピウスの手元では、コーヒーの琥珀色が揺れている。どれほど驚異的な力を操るようになっても、誇らしげに笑い、友人に美味しい菓子を勧める彼の人間らしさが、ヨルダには何よりも尊いものに感じられた。
「ほっほっほ。次の段階、かの。それは面白そうじゃのう」
「なあ、『次の段階』って何なんだよ。もう教えてくれてもいいじゃん!」
デュークが不満げに促すと、リピウスは楽しそうに説明を始めた。それを聞いて、ヨルダ爺もデュークも目を丸くした。
「なるほどのう。霊気を体内へ循環させるとは。なかなか面白いことを考えるものじゃ」
「ふ〜ん。おいらたちが義体の中で霊気を循環させて、再利用してるようなものかな?」
「あ! そうか。霊界人も義体の中でそうやってリサイクルしてるんだったな」
「そうだぞ。でも、それって慣れるまでは結構大変なんだぞ。それを独学で、これほど短期間に要領を掴んでしまうとは……。やっぱりリピウス、お前には驚かされるぜ」
その後も三人はお互いの成果を喜び合い、話は尽きることなく弾んだ。
あたたかな陽射しの中、時間はあっという間に過ぎていくのであった。




