<やればできる子なんです>
コーヒーを飲んで、しばらく雑談をしたり、霊力制御に関する少し真面目な話をしたりして、デュークは夕方には帰っていった。
リピウスも流石に「クッションに寝そべっていては訓練にならない」と反省し、デュークに言われた通り、椅子に姿勢よく座って行うようにした。
それでも、せいぜい一時間もすると飽きてきてしまい、あれこれ雑多なことを始めてしまうのだが。
そんなこんなで、非常に歩みの鈍い訓練ではあったが、二週間も続けるとコツを掴んでくる。
元々リピウスはスロースターターなところがあり、何事も最初はグズグズと進めようとしないのだが、ある瞬間からコツを掴んでしまうと、驚異的なスピードで進めだす。
そうなると、普通の人の倍以上の速さで何でもこなしてしまうのだ。
霊力制御も例外ではなく、一旦コツを掴むと、以降の進捗は早かった。
今日も午前中に買い物を済ませ、昼食後から訓練を開始していた。
先日コツを掴んでからは、霊気の流れは実にスムーズに、イメージ通りに対流し始めた。
そうなると訓練自体も面白くなり、二時間程度ならあっという間に感じるほどだ。
椅子に背を預け、意識を内側へと向ける。
かつては濁流のように溢れ出していた霊気が、今はリピウスの意志に従い、穏やかなせせらぎとなって肌を巡っている。
その静謐な空気は、まるで凪いだ湖面のように、リビングの埃一つ動かさないほど澄み渡っていた。
そして三時前。今日もリビングの空間から、いつものようにデュークが姿を現した。
「お! 今日も真面目にやってるな」
椅子に座って集中している様子のリピウスを見ると、嬉しそうに声をかけ、いつものテーブルに着いた。
「よ! だいぶ上達したと思うぞ」
リピウスは訓練を止めると、電気ケトルに水を汲んでセットし、デュークの向かいに座った。
「やっぱ、クッションをやめて正解だっただろ?」
「まあな。あ、でも今ならクッションでもやれそうだぞ」
「いや、やめとけよ。あのクッションは絶対にお前をダメにするから」
「ところでさ。ちょっと、今の霊気量を測定してくれないか?」
「お! なんか自信がありそうだな。今確認してやるよ」
デュークは空間から霊力測定器を取り出し、チェックを始めた。
「おーー! すげえ!」
画面を見て、デュークが驚きの声を上げた。
「何だよ、俺にも見せてくれよ」
リピウスが身を乗り出して覗き込む。
「見ろよ、お前の霊気量が『83』に下がってるぞ!」
見ると確かに、リピウスを示す点に添えられた数字は「83」になっていた。
「先週は160だったよな。一週間でかなり下げられたな」
リピウスは満足そうに頷く。
「おう、一気に落としたじゃねえか」
「これは……そろそろ、次の段階に進んでもいいかもしれないね」
リピウスが、何やら企んでいるような表情で呟いた。
「ん、次の段階?」
「ふっふっふ。今は秘密だよ、デューク君」
「何だよ、何する気なんだよ」
「まあ見ていなさいって。俺は一旦コツを掴んでしまえば、あとはスーパーカーのように邁進し始めるんだからね」
コーヒーを一口啜り、不敵に微笑む。
その目は、新しい玩具を手に入れた少年のように輝き、確かな自信に満ちていた。
どや顔で言い放つリピウスに、デュークは少し不気味さを感じてしまった。
(こいつ……何か変なこと始める気じゃないだろうな?)
嫌な予感はしたものの、リピウスが淹れたコーヒーを飲みながらいつものように雑談を楽しみ、夕方にデュークは帰っていった。




