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<世界が変わって見える>

騒がしい一晩が明け、訪れたのはいつもの穏やかな朝。……のはずが、リピウスの目に映る景色は、昨日までとは全く違うものに変わっていました。魚の泳ぐ影に、木の葉のざわめきに、かつては気づかなかった「命の音」が混じります。そして始まる、自分自身との静かな対話。リピウスの「霊気制御トレーニング」の初日は……?

リピウスはリビングに置いてある、お気に入りの「人間をダメにするクッション」に寝そべって、ぼんやりと天井を眺めていた。

今日も窓から入る陽射しが暖かい。


朝の用事を済ませたあとの10時頃、一息入れるためにクッションでぼんやり過ごすのが、リピウスの習慣になっていた。


(あれって、夢じゃないんだよな……)


とりとめもなく考えていると、昨日までの事件が夢物語のように感じられてくる。

転倒して頭を打ち、そのショックで霊体離脱。偶然知り合った霊界人のデュークとヨルダ爺のおかげで肉体に戻ることはできたものの、自分が妄想していた世界が実在し、あまつさえその設定がほぼ現実に合致していると知ったのだ。


そして今のリピウスは、霊視ができ、魔法のような「霊力」まで使えるようになってしまった。


(霊力か……。妄想では色々な能力を使って楽しんだりしていたけど……)


妄想の世界の力が現実に使えるというのは、やはり信じがたい。

だが、確実に今のリピウスには、世界が違って見え始めていた。


霊視のせいか、今まで見えなかったものが見えている。聞こえなかった音が聞こえる気がする。匂いまでもが、昨日までとは少し違っている。


部屋の中の植木。二つの水槽で泳ぐ魚たち。

庭の木々や、ときおり通り過ぎる犬や猫、鳥の姿。

それらすべてが、今までとは違う質感を持って迫ってくる。


水槽を泳ぐ魚の影に、淡い光の尾が引いているのが見える。

庭の木々が風に揺れるたび、木の葉がこすれ合う音の合間に、彼らが陽光を喜ぶ「吐息」が混ざっている気がした。

世界が以前よりも、ずっと親密で、温かな場所に感じられた。


それはほんの小さな違いなのだが、生き物たちの呼吸や思考が、微かに感じ取れるのだ。

もちろん、それらに人間のような霊魂があるわけではない。明確な意思疎通ができるわけでもない。

だが、ほんの小さな「魂の欠片」のような意思が、そこには確かに存在していた。


(多分、今までの視覚や聴覚のほかに、霊魂側の能力も同時に使って世界を見ているのだろうな)


そんなことを考えながら、リピウスは昨日のヨルダ爺の話を思い出していた。

当面の課題は、霊力制御を向上させること。


「さて、少し真剣にやってみるか」


リピウスは目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませていく。

まずは、自分の体から発せられる「霊気」を感じ取ることから始めた。


意識するまでは気づかなかったが、その霊気は、凄まじい勢いで体から周囲へと噴き出していた。


「うぉーーー!!!」


昨夜、初めてそれを視覚化したときには、思わず叫んでしまったほどだ。

デュークの探知機が示した「220」という桁違いの数値も納得の、とんでもない量だった。


リピウスは気持ちを落ち着け、制御の修行を始めた。

その方法は、某アニメの「念」を制御するシーンをイメージしたものだ。

要は、放出される霊気を、体表に沿って流れるように導くのである。


溢れ出す光を体に沿わせようとする作業は、手のひらで水を掬い上げようとするのにも似ていた。

指の隙間からさらさらとこぼれ落ちてしまう光の粒を、そっと、愛おしむように引き寄せる。

それは力尽くで押さえ込むことではなく、荒ぶる川の流れを穏やかな水路へと導くような、繊細な対話だった。


当然、最初はうまくいかなかった。

目を閉じて霊気の流れを意識し、それらを対流させようとして……。

気がつくと、そのまま眠ってしまっていた。


ハッとして目覚めたときには、二時間近くも経っていた。

すでに夜の10時を過ぎている。精神的な疲労が凄まじく、昨夜はそのままベッドに入って寝ることにした。


そして、今日である。

今日こそは少しでも制御できるようにと、再び集中を始めた。

二、三十分ほど経っただろうか。霊気の対流をイメージし、念じ続ける。

すると、わずかだが、放射状に拡散していた霊気に「流れ」が感じられ始めた。


(お! 少し進歩したか?)


そう思いつつ、さらに念じ続けたのだが……気がついたら、また深い眠りに落ちていた。

近所の公民館から流れるお昼のチャイムで、目が覚める。


「はぁ〜……。昼飯にするか……」


窓の外では、季節外れの蝶がひらひらと舞っている。

その翅が描く軌跡さえも、今は光の筆で空に線を引いているように美しく見えた。


不意に、腹の虫が鳴る。

こんなにも不思議な力を手にしながら、空腹を感じ、昼飯の献立を気にする自分。

その「生きている」という当たり前の実感が、今のリピウスにはたまらなく愛おしかった。

30年来の妄想を現実に。イメージは完璧、理論もバッチリ!……なのに、いざ実践してみると「睡魔」という強敵が。どれほど強大な霊力を持っていても、お腹は空くし眠くもなる。そんなリピウスの人間臭さが、私は大好きです。次回、デュークが再びやってきます!

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