玉響
それは、偶然と必然の出会い。
『天守物語』
作家、泉鏡花の作品。
詳しい話は、わしの口からはとてもとても!
畏れ多くて話せんわい。
各自、調べなさいな。
……あの作品に出会ったのは、わしの若い頃。
まだ、役者になろうと燃えていた頃じゃった。
難解じゃった。とにかく。
はっきり言うぞ。当時のわしが挑もうとする戯曲は、風車に挑むドン・キホーテのようなものじゃった!
…………例えが古臭いかの? それとも、わかりづらいか? カカッ! そんなもんじゃよ。
はっきり言って、わしは青かった。青二才じゃ。
複雑な考察や戯曲の解釈に、にらめっこどころか、どう上手くやれるかどうかしか考えとらんかった。
そりゃあ、こてんぱんにされるわ。
ああ、あれはな。台本に溺れるというやつじゃったよ。向き合おうとして、遠ざかっているんじゃ。いつの間にかな。
……とにかく、古風な言い回しもさることながら、アクセントにも苦労した。何度も。幾度もやり直した。それでもな。今でもきちんと言えたかどうか、自信を持って言えるぞ、NOとな。
そんな、体たらくでな。
…………千歳百歳にただ一度、たった一度の恋物語をお客さんに届ける事が出来るかの?
だから、辛いんじゃ。
努力と才能の世界でもがいて苦しんで、挙げ句の果てに自分から退いた役者の道を。自分の娘が、スポットライトを目指して追いかける姿を、見るのが。
何よりも、辛いんじゃよ。
…………だがな。
これも、わしの物語なのかもしれん。
こうして、同じ戯曲に向き合おうとする親子の運命を、偶然だと片付けるのは無理があるわい。
ああ、偶然じゃあない!
わしは、舞台の日程を手帳にメモして、しっかりと財布に仕舞い込んだ。
何をって?
…………舞台のチケットじゃよ。恥ずかしいから言わせるんじゃないわ!
ふと、本棚に目を向ける。
そこには昔、捨てられなくて、そのままにしてある戯曲の台本が。
埃を被ってなお、ボロボロになった台本達の生き生きとした姿。
……よう。久しぶりだの。えっと、泉鏡花は……。
それは、偶然と必然の恋物語。




