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そのアルカナは、死神。〜共感不可だらけのデスゲーム〜  作者: 宵月玲


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30/50

風車の理論

電車は混みます。

いつもならホッピーで気持ちよくまどろむところだが、どうやらそれもうまくいかんかった。

銭湯帰りの疲れもあいまって、ビールやら、ワインやらでちゃんぽん。思わず深酒。

目覚めたのは、お昼すぎ。

ふぅ。やれやれ。


冷えた水が頭に響く。歯にしみる。

もう昔のように飲めん。だいぶ衰えた。

これを安上がりでいいじゃないのとのたまう奴は張り飛ばしてやりたいわい。

…………張り飛ばす。ふーむ。

たまには、ええかの。


出かけた先は、格闘技の聖地。

窓口で当日券を買い、いざ出陣。

……高くなったの。しばらくぶりだからか? わしの若い頃はもっと安かったろうに。とほほ。

何を観るかって? 愚問じゃな。

プロレスよ。


ある意味、メインイベントより大切な第一試合の若手同士のプロレスラーのぶつかり合いを観てから、こう、なんというか。

体全体が今にも動かしたくなって抑えるのに必死じゃった。

慌ててビールを追加で買いに行く。

車で来なくて正解じゃ。……まぁ、もう持っとらんがなう。 


その日の興行全体を勢い付ける、第一試合の熱に会場も盛り上がってきおった。

そうそう、やっぱこれじゃの。

こればっかりはTVでも、ネット配信とかでも伝わらんのよ。

と、偉そうにすまんの。え? すでにうるさい? しょうがないんじゃ。許してくれ。

それにしても酒が進むわい。


ベテランレスラー達の8人タッグマッチや、因縁深い両者が率いる6人タッグマッチなど、初めて会場に足を運んだ人でもわかりやすく、楽しめる構成。

こんな試合順一つでも、ものすごく考えられていることがわかるまで……おっと、また説教臭くなったの。

さて、いよいよじゃな。

メインイベントじゃよ。


華やかなコスチュームに身を包んだ両者が、1対1のシングルマッチ。それも、タイトルマッチじゃ。

そう、今日はこれを観にきたんじゃよ。


ーーーー試合は終わった。

一進一退の攻防を見せ、王者を追い詰める挑戦者。

あと少しで3カウント、ギブアップだったんだがのう。そこはあれじゃな。王者の意地よ。

カウントギリギリの2.9秒で返して、切り返しからの必殺技のジャーマンスープレックスで逆転勝利。

観終わってからは、喉も枯れるわ手汗はびっしょりわで疲れ切ったわい!


じゃがな、心地良い疲れじゃ。

ところで、わしが尊敬するプロレスラーの名言なんじゃが……聞きたいかの? ああ良い。今日は気分が良いから教えてやるわい。


『風車の理論』


聞いたことはあるかの? 良く使われる使い方のひとつとしては、『風が強ければ強いほど風車もよく回る。転じて、相手の力を限界以上に引き出した上で、自分がさらにその上の力を出して相手を倒すことで、自分だけでなく相手も輝かせるという理論』


…………わかったかな? わかりやすく言うと、相手の力を9引き出して、自分はそれを上回る10の力で相手に勝つことじゃよ。


プロレスとは何か? 難しさとは? ある意味、この言葉はその真理を突いているようにも思えるのう。


相手の技を受ける、受け入れる。

そして、こちらも返す。

強い奴に立ち向かう勇気をもらったんじゃよ。

わしは。プロレスにな。

そして、何度やられても、くじけない、立ち向かう強さをもらったんじゃよ。

わしは。……プロレスにな。


今のわしは……それが出来ているか?

娘に……向き合えているのか?


ふう。

今日は帰り道がえらく混むのう。


特に帰りの電車は。

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