ライムライト
届くはずの願い。
心地良い風を浴びながら銭湯から帰ると、郵便受けがたまっていた。
それらを取り出し、帰宅する。
ふー、風呂帰りは疲れがどっと出るから嫌なんじゃよ。
郵便物をテーブルにどさりと下ろし、使ったバスタオルなどを洗濯機のカゴへ投げ、どかっとソファーへ腰を下ろす。
ふう。あー、膝がまだ痛むのう。
疲れも痛みも取りづらいのがなぁ。
痛みを紛らわすように、そっと手を伸ばし郵便物を確認していく。
試写会の案内、請求書、雑誌の献本……
その中で、1通の封筒を見つけた。
宛名は……。
ーーーー確認して、思わず息を呑んだ。
そして、重いため息を吐き出す。
…………このまま、捨ててしまおうかと。
だが、駄目だった。この手が開けてしまった。
『お久しぶりです! 今度、端役ですが出演します! 是非、観に来てください! お願いします!』
封筒には1枚の舞台チケットと、可愛らしい字でしたためた手紙が同封されておった。
宛名は、……ふぅ。あまり言いとうない。
わかるじゃろ? わしの娘じゃ。
如月 灯。
きさらぎ あかりと読む。
正確には、別れた女房とのわしの娘よ。
芸名など使わずに、わしが名付けた本名のまま駆け出しの舞台女優として、頑張っておる。
自分が出演する公演のたびに、こうしてチケットを送ってくるんじゃが……正直、行きとうない。
……嫌なんじゃよ。
もがいている娘の姿を見るのが。
冷蔵庫に向かい、冷えたジョッキとホッピーを取り出す。そして乱暴にガチャガチャかき混ぜる。
……スポットライトに憧れてなぁ、憧れるばかりで舞台の才能が無かった、努力する才能が無かった、出涸らしのわしの昔を見ているようで。
…………辛いんじゃよ。
そっと、舞台チケットを掴み取り、タンスにしまう。
積み重なった、娘の舞台チケットの束の上に。
それは、向き直ることから目を背けた、罪状。
会うのが怖い。
大きくなった姿を見るのが怖い。
滑稽かの? わしは。
後悔? なに、今更じゃよ。
あの日から、ずっとな。
ため息をまたひとつ。
ホッピーは、今日は苦いの。
届くことはない想い。




