表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/101

第5話:ごはん戦争と、ぽんこつご主人様

―ここは、都内某所の家賃3万8千円。壁は薄く、床はきしみ、風が吹けばサッシが鳴く、伝説のボロアパートである。


 その一室、布団の上で丸まっているのが我が相棒――捨て猫改め、もち。


 


【みのり視点】



「よし……今日はもちの“初めてのごはん”だね……!」


 わたし――社畜OL、月城みのり(25歳・ボーナス即行消滅型)は、洗面所でドライヤー片手に小さくガッツポーズした。

 そして、キッチンに向かう。ここからが試練だ。


「猫って……何食べるの? ていうか、レンチンでいいの?」


 冷蔵庫にあったのは、パウチの子猫用ウェットフード。昨日、動物病院の帰りに買ってきたのだ。


 封を切ると……。


「くっ、くさ……!」


 ツンとくる香り!にゃんこの香り!

 でも、パッケージには「高栄養」「初乳配合」「嗜好性バツグン」の文字。これは……プロの味!!


「もちー!ごはんよー!」


 お皿に盛りつけて、部屋の隅に置く。


 


【もち視点】


――朝である。吾輩はぬくぬくの布団の中。

 もともと外で寝てた吾輩にとって、布団という文明の利器はまさに神。


「ぬくぬくにゃ~……」


 が、次の瞬間――。


「もちー!ごはんよー!」


 くる……ご主人様の声に混じって、あの香り。

 うまうまの予感ッ!!


 吾輩、ダッシュでお皿の前に急行!


 ぺろ……ぺろぺろ……ぺっ……!??


「これは……!?な、なんという濃さ……!」


 うますぎて、逆にびっくりする吾輩。

 このとろける舌触り、なめるだけでエネルギーが湧くこの味わい……これぞプロの仕事にゃ!


 


【みのり視点】


「た、食べてる……!よかった……!」


 もちが夢中になってお皿をなめてるのを見て、わたしはちょっと感動した。


 だって、昨日までガリガリだった子が、今は“うまい”って顔してるんだよ?


「ううっ……これが……尊いってやつなのね……!」


 でもその感動は、数分後に崩れ去る。


「えっ、全部……ひっくり返した……!?」


 もちのごはん皿、壁の方向へ豪快に飛ばされていた。

 その横で満腹顔のもちが、堂々と香箱座りしている。


 


「……もち、あのさ。食後に蹴り飛ばすのはやめよう? ね?」


「にゃあ?」


「ちがう、あれは“にゃあ”で済まされる問題じゃ……って聞いてないー!!」


 


【もち視点】


――人間の反応、予想以上に面白いにゃ。


 皿をひっくり返しただけで、顔を手で覆ってしゃがみこむご主人様。

 面白いから、もう一回やってみたい。


……なんて思ってたら、ご主人様、急に立ち上がって言った。


「ふっ……よし。もちのために、Amazonで“自動給餌機”をポチる!」


……そのあと、通帳見て青くなってたけどにゃ。


 


◆二人のその夜

 その晩、ボロアパートの狭い部屋の片隅、布団の上でご主人様と吾輩は並んで眠った。


 ご主人様がぽそっと呟く。


「もち……今日もありがとう。元気に食べてくれて、それだけで救われるよ……」


 吾輩は、それに応えるように――


「にゃ……(当然にゃ)」


 小さく鳴いた。


 その夜、吾輩の夢は、巨大なウェットフードの上でダイブする夢だった。

 多分、吾輩はこの先ずっと――ご主人様のために、生きることを選ぶにゃ。



 第6話『ぽんこつご主人、もちの爪切りに挑む』


――ご主人様、未知の領域“爪切り”に挑戦!しかしそれは、想像を絶するバトルの始まりだった!?もち、反撃の一手なるか!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ