第5話:ごはん戦争と、ぽんこつご主人様
―ここは、都内某所の家賃3万8千円。壁は薄く、床はきしみ、風が吹けばサッシが鳴く、伝説のボロアパートである。
その一室、布団の上で丸まっているのが我が相棒――捨て猫改め、もち。
【みのり視点】
「よし……今日はもちの“初めてのごはん”だね……!」
わたし――社畜OL、月城みのり(25歳・ボーナス即行消滅型)は、洗面所でドライヤー片手に小さくガッツポーズした。
そして、キッチンに向かう。ここからが試練だ。
「猫って……何食べるの? ていうか、レンチンでいいの?」
冷蔵庫にあったのは、パウチの子猫用ウェットフード。昨日、動物病院の帰りに買ってきたのだ。
封を切ると……。
「くっ、くさ……!」
ツンとくる香り!にゃんこの香り!
でも、パッケージには「高栄養」「初乳配合」「嗜好性バツグン」の文字。これは……プロの味!!
「もちー!ごはんよー!」
お皿に盛りつけて、部屋の隅に置く。
【もち視点】
――朝である。吾輩はぬくぬくの布団の中。
もともと外で寝てた吾輩にとって、布団という文明の利器はまさに神。
「ぬくぬくにゃ~……」
が、次の瞬間――。
「もちー!ごはんよー!」
くる……ご主人様の声に混じって、あの香り。
うまうまの予感ッ!!
吾輩、ダッシュでお皿の前に急行!
ぺろ……ぺろぺろ……ぺっ……!??
「これは……!?な、なんという濃さ……!」
うますぎて、逆にびっくりする吾輩。
このとろける舌触り、なめるだけでエネルギーが湧くこの味わい……これぞプロの仕事にゃ!
【みのり視点】
「た、食べてる……!よかった……!」
もちが夢中になってお皿をなめてるのを見て、わたしはちょっと感動した。
だって、昨日までガリガリだった子が、今は“うまい”って顔してるんだよ?
「ううっ……これが……尊いってやつなのね……!」
でもその感動は、数分後に崩れ去る。
「えっ、全部……ひっくり返した……!?」
もちのごはん皿、壁の方向へ豪快に飛ばされていた。
その横で満腹顔のもちが、堂々と香箱座りしている。
「……もち、あのさ。食後に蹴り飛ばすのはやめよう? ね?」
「にゃあ?」
「ちがう、あれは“にゃあ”で済まされる問題じゃ……って聞いてないー!!」
【もち視点】
――人間の反応、予想以上に面白いにゃ。
皿をひっくり返しただけで、顔を手で覆ってしゃがみこむご主人様。
面白いから、もう一回やってみたい。
……なんて思ってたら、ご主人様、急に立ち上がって言った。
「ふっ……よし。もちのために、Amazonで“自動給餌機”をポチる!」
……そのあと、通帳見て青くなってたけどにゃ。
◆二人のその夜
その晩、ボロアパートの狭い部屋の片隅、布団の上でご主人様と吾輩は並んで眠った。
ご主人様がぽそっと呟く。
「もち……今日もありがとう。元気に食べてくれて、それだけで救われるよ……」
吾輩は、それに応えるように――
「にゃ……(当然にゃ)」
小さく鳴いた。
その夜、吾輩の夢は、巨大なウェットフードの上でダイブする夢だった。
多分、吾輩はこの先ずっと――ご主人様のために、生きることを選ぶにゃ。
第6話『ぽんこつご主人、もちの爪切りに挑む』
――ご主人様、未知の領域“爪切り”に挑戦!しかしそれは、想像を絶するバトルの始まりだった!?もち、反撃の一手なるか!