第42話:もち、モデルデビューの危機!?
【もち視点】
吾輩は、もちである。
つい先日、商店街で“出演依頼”なるものを受けたばかりなのだが、今度はなんと――
「もちー!おしゃれしてー!ポーズ決めてー!」
……という、ご主人の奇声とともに、吾輩は妙な布を頭に乗せられていた。
「はい、シャッターいきますよー!にゃんモデルさん、カメラ目線お願いしまーす!」
ぱしゃぱしゃぱしゃ!と、ご主人はスマホを連写する。
しかも頭に乗っているのは、どうやら“唐草模様の風呂敷”。泥棒猫スタイルらしい。なぜ今それなのだ。
「これで、商店街のチラシに使えるかも……って!えっ?まさか、もちって“撮られるの苦手”だったりする!?」
当たり前である。
吾輩は慎ましくも自尊心をもつ猫だ。あくまで自然体の魅力で勝負したいのであって、“被り物芸”などで売れるつもりはない。――しかし。
「ねえ、もち……こんなに可愛いのに、この魅力が紙面で伝わらなかったら、ちょっと悲しいでしょ?」
うぅ、そんな目で見ないでくれご主人……。
吾輩はうっすら目を閉じて、撮影に応じることにした。これが吾輩の、芸への“妥協”である。
だが、この日の試練はこれで終わりではなかったのだ。
【みのり視点】
「……あのぉ、まさか本当にチラシに使っていただけるとは思ってませんでした!」
商店街の事務所で、私は店主さんたちに深々と頭を下げた。
撮ったばかりの「もち唐草ショット」が、なんと夏祭りのPRポスターに採用されることが決定したのだ。
「この写真、反応いいよ!通行人が立ち止まって見てくれるんだよね。もちちゃん、表情が絶妙でさ」
――うそぉ。あの表情、たぶん我慢ギリギリの“我慢顔”だと思う。
「ついでに、近所のペットショップさんがね、もちちゃんを“新商品のモデル猫”にって……どうかな?」
「モデル猫!?」
商店街のポスターどころか、モデルの話まできてしまった。
私は帰宅後、もちにその話をそっと切り出した。
「もっち……すごいよ、ついに商品パッケージの猫になるかもよ……!」
――その瞬間。
「……うにゃああああぁぁぁぁぁぁん!!(断固拒否!!)」
もちが全力でごろんと転がり、両前足を交差して抗議のポーズをとった。
耳が寝てる。完全に不服の顔だ。
「も、もしかして……モデルってのがストレスだったの……?」
私はもちの頭をなでながら、深く反省した。
「そっか、ごめん。もちは、ちやほやされたいんじゃなくて、ただ一緒にいたいだけだったのよね……」
【もち視点】
やっとわかってくれたようだな、ご主人よ。
吾輩は“猫らしく”生きたいのだ。モデル? タレント? 見栄えより中身、可愛さより信頼。
――いや、まあ、ちゅ~るのCMくらいなら考えてやらんでもないが(小声)。
【みのり視点】
その夜、私は商店街に丁重にお断りの連絡を入れた。
「もちが疲れちゃってて……。今回はチラシだけでお願いします」
本当はチャンスかもしれなかった。
でも、もちは家族だ。ビジネスより、笑顔で一緒に過ごす時間の方が大事。
テレビも動画投稿も、やりすぎちゃダメだって、もちが教えてくれた気がした。
私は唐草模様の風呂敷を外し、もちにふわふわのブランケットをかけてやった。
「ありがとう、もち。今日もいっぱい頑張ったね」
【もち視点】
吾輩はご主人の腕の中で、そっと目を閉じる。
人気なんてものより、ご主人のぬくもりがいちばんいい。
そして――
「明日からはまた、自然体のもちでいこうね」
うむ。それが、吾輩のポリシーである。




