第37話:「もち、テレビ放送で大バズり!?」
【もち視点】
吾輩の名はもち。白きモフモフ、柔らかきしっぽ、そして何より、テレビという魔法の箱で全人類に“かわいい”をばら撒いた伝説の猫である。
──そして今。
「にゃあ。(ご主人、はじまったぞ)」
目の前のテレビから、見慣れた声が聞こえてくる。
『地方で話題!捨て猫からスターへ!?六畳一間で育った奇跡のアイドル猫・もちちゃん特集!』
ナレーションに合わせて、画面に吾輩のドアップ。にゃ~と鳴いてご主人の腕にすり寄る、我ながら完璧なカメラワークと表情演技である。
「わ、わ……も、もち……映ってるよ!テレビに!うちのアパートが……全国に……!」
ご主人の手が、ぶるぶると震えている。
いや、震えたくなるのも無理はない。だってこれ、ガチで“全日本のお茶の間”デビューだぞ。
『動画投稿サイトで日々配信中、人気急上昇の“もちちゃん”チャンネル。
再生数はすでに●●万回!コメント欄は世界中から寄せられています』
画面には、ちゅ~るをもらってクイっと首をかしげる吾輩の姿、さらには冷蔵庫裏からヌッと出てくる“あの事件”の名場面まで収録されていた。
「にゃああ(よし!ちゅ~るの角度も完璧!)」
それにしても、ご主人の顔が赤い。喜びすぎて鼻の穴がちょっと膨らんでいるぞ……。
【みのり視点】
「はっ……ははは……ほんとに……テレビ出た……」
部屋の中で、小さくテレビが切り替わる。リポーターの締めのコメントが流れ、画面が夕方ニュースに戻ると、私はようやくソファに崩れ落ちた。
「信じられない……夢じゃないよね……?」
隣にいるもちが、ぽふっと私の膝に飛び乗ってくる。
彼の柔らかい毛並みの感触が、現実の手応えをくれた。
テレビで流れたのは、もちと私の「小さな日常」だった。
段ボールの中にいたあの日から始まって、ちゅ~るの取り合い、押し入れに籠城するもち、そして私の笑顔。
「こんな普通の生活を、誰かが見てくれて、笑ってくれて、好きって言ってくれるなんて……」
ぽろりと、涙がこぼれた。
その時だった。
ピコンッ!
スマホが鳴った。YouTubeのアプリを開くと、通知が止まらない。
コメント:
「テレビで見てきました!もちちゃん最高!」
「え、かわいすぎる!登録しました!」
「泣けた……もちとの絆に癒されました」
登録者数、数時間で一気に増えていた。
「う、うそでしょ……!?」
どんどん増えるフォロワー。
再生数が跳ね上がっていくグラフ。
YouTubeの「収益」ページまで目に入ってしまい、思わずむせた。
「し、しょ、初収益が……お、お家の家賃数か月ぶんくらいある……?」
もちを見ると、まるで分かっているかのようにドヤ顔で伸びをしていた。
「え、もしかして君……全部計算してた……?」
【もち視点】
もちろんである。
「吾輩のモフは、世界を救う」
人々は疲れている。
癒しを求めている。
そして、そこにこのモフ。無限の癒し。圧倒的需要と供給が、ここに成り立ったのだ。
とはいえ、あまりの通知の量に、スマホを持つご主人の手が小刻みに震えている。大丈夫か?
「にゃあ(無理すんな、ご主人)」
彼女はスマホをぎゅっと握りしめたまま、深く息を吸い込んだ。
「よし……もち、やろう。次の動画、撮ろっか!」
「にゃあ!(その意気だ!)」
カメラを設置し、背景のカーテンを整え、もち専用の“高級クッション”をセット。
以前は100均だったあのクッションが、今ではブランド物である。生活が……変わった。
でも、何よりも変わったのは、ご主人の笑顔だ。
かつて、仕事で疲れて帰ってきては、暗い部屋にうずくまっていた彼女。
だけど今、レンズの向こうに“誰か”がいて、もちと一緒に過ごす毎日を“楽しみにしてくれる誰か”がいる。
そのことが、ご主人の目をキラキラと輝かせていた。
【みのり視点】
撮影が終わって、編集もして、動画をアップした。
いつものようにアップロードボタンを押すのに、今日は少しだけ、胸の奥が熱くなる。
「私ともちの、小さな物語が……どこかで誰かの心に届いてるんだって、信じてみてもいいかな」
コメントが続々と届く。
「テレビで見ました!これからも楽しみにしてます」
「もちの表情がたまらない!ずっと応援してます!」
「もちとみのりさんの空気感が最高。癒されました」
画面の前で、私は静かに涙をぬぐった。
「ありがとう……もち」
「にゃあ(どいたま)」
私の足の上で、ごろりと丸くなるもち。彼が、私を変えてくれた。小さな命が、世界を広げてくれた。
そう、これはまだ──物語の途中。
次回、第38話「もち、はじめてのファンレターに戸惑う」に続く!




