おまけ 『吾輩、いま天国にて自由満喫中にゃ。ご主人、見てるか?』
――ここは天国。お花畑のまんなか、ふかふかの雲のソファで、吾輩こともち、ただいま“お昼寝4回目”の休憩中である。
「ふぁ~~~。ここのカモミールの花畑、ちゅ~るの香りがするにゃ~……最高か……」
むにゃむにゃと鼻をくすぐる甘い風にくるまれて、吾輩は軽くゴロン。
背中でくるりんと一回転すると、空からふわっとハート型の雲が降ってきた。
どうやら今日の天気も、吾輩のご機嫌に合わせて“ほっこり晴れ”のようである。
「おーい、もち~! かくれんぼしよーにゃ!!」
耳の先で声がした。チラッと見ると、天国猫仲間の“まるちゃん”(元・屋台のたこ焼き屋さんの看板猫)が、しっぽをピンと立てて全速力で駆け寄ってきた。
「今忙しいのにゃ。吾輩、午後のお昼寝タイムに突入中である」
「もう5回目にゃろー? ちょっとくらい遊ぼうにゃ~!」
ぐいぐいと引っ張られながら、吾輩はあえなくお花畑の奥へと連行された。
「にゃっほー!」「こっちにゃ!」「あ、ちゅ~る発見……と思わせてからのハズレにゃ!」
天国では、時間も重力も“ねこ基準”なのである。
今日の遊びは「ちゅ~るカクレシッポごっこ」。
要は、幻のちゅ~るのにおいを頼りにしっぽを探すという実に高度な知能戦。
が、しっぽを振るとちゅ~るのにおいが消えるという謎仕様により、誰も勝てない。
「くぅ……ちゅ~る、幻にゃ……」
その頃、空の上から人間界を見下ろす“もふもふテレビ(仮)”では、あのご主人――みのりの姿が映し出されていた。
「お、ご主人、今日も元気そうにゃな~」
チャンネルは“ご主人ウォッチ24時間”。
どうやら今日も新しい保護猫カフェの取材に行っているらしく、吾輩のもち顔エコバッグをぶら下げていた。うむ、センスが良い。偉い。
「最近、ご主人、涙ぐまないにゃ……。きっと、あの頃より強くなったのにゃ……。よかったにゃ~」
ほっこりしていたその時。
「もーーちーーーー!!!」
ドスン!と空から巨大なセミの精霊(ただし優しい)が落ちてきた。
「また空からかにゃ!セミ先輩、着地ヘタすぎにゃ!」
「うわ~悪い悪い、久しぶりに飛んだら目回してもてな……って、ちゅ~るくれ!」
「まず謝れにゃ」
夜。
天国では“おやすみにゃんルーム”という、全猫が交代で見守り係をするシステムがある。
今夜の見守り係は、もちろん吾輩。
「ん~、ご主人……あっちの世界、だいぶ忙しそうにゃけど、ちゃんと夜ごはん食べてるにゃ?」
みのりの部屋の上空あたりで、雲ソファに寝転びながら、吾輩は目を細める。
机の上には、吾輩の写真。
そしてその横に並ぶ、最近迎えた新しい保護猫たちの写真たち。
「ご主人……たしかに吾輩はいなくなったけどにゃ、でも、ちゃんと前を向いて歩いてるにゃ。だから吾輩、心配してないにゃ」
お花の風にのせて、吾輩はそっと目を閉じる。
「それでも時々……たまに寂しくなったら、空を見上げてほしいにゃ」
ふわり。
みのりの窓辺に、風鈴の音がひとつ、鳴った。
「それ、吾輩のしっぽかもしれないにゃ~~っ!」
そう叫んで、吾輩はまたお花畑の奥へ、仲間たちと駆けてゆくのだった。
――吾輩は、捨て子猫だった。
でも今は、天国の“ご主人見守り係”である。
そしてこれからも、ずっとずっと、ご主人の家族にゃ。
(おしまい)