俺とロリヤンキー
教室に着き、やっと深月から開放された俺だが、きっと授業の休憩時間や昼休憩などの時間を使ってこっちに顔を出しに来るだろう。
そう思うと胃が痛い。
確かにあんな上級国民の美少女に言い寄られて嬉しくないわけが無いのだが、それ以上に普通に怖い。
だって接点とかほとんどなかった娘が突然言い寄ってくるって軽く恐怖。
普通に怖い。
「おい」
なにか接点があった記憶などない。
小中も大して関係を築いてもいなかったし、そもそも話しかけたことすらなかった。
「おいって」
そもそもなんで俺?
こんな年中紙袋顔に被った目つきの悪い男、普通知り合いでも話しかけないだろ。
「お〜い、無視してっと耳に髪の毛突っ込んで蝸牛ズタズタにすんぞ」
「それどこのミスター2(セカン)だよ」
「ブラックペンタゴンだろ」
「やっぱバキネタかよ」
俺が机に座っていても視線を下にしてようやく目線が会う目の前の少女は夏希 美海。
身長は141cmと小柄ながらアホ程強い。
柔道空手両方黒帯、他にも剣道七段など、様々な格闘技や武道に身を置き、そのほとんどで全国優勝を勝ち取り、将来は世界選手として期待されている。
「これ、弁当」
「···············いつも食っといてあれなんだが、なんで俺に弁当を?」
「お前の好きなタコさんウィンナー入ってっから残さず食えよ」
「無視ですか」
「残したら殺す」
「ひぃん」
まぁめちゃくちゃ上手いから残すことは無いのだが、それでもなぜ弁当をいつも作ってくれるのか普通に謎すぎる。
あとよく勉強も教えてくれるし。
「なぁ、昼休み屋上な」
「拒否権は··········」
「どうせ暇だろーが」
あるわけないっすよね。
───なんで姐さんがアイツと?
───付き合ってるとか?
───ないだろ。いつもの姐さんの世話焼き癖だろ。
───あんな変人、さすがに姐さんでも無理だろ。
周りのヤツらのヒソヒソと喋る声がする。
たしかに年中顔に紙袋被った変質者だし、なんで俺に夏希は構うのかずっと謎だったし、周りの言ってる事は全て的を得ている。
でも
───あの紙袋の下って昔火傷して顔の皮膚がドロドロなんだってー
───かわいそー
───親も居なくて、妹には愛想つかされてるらしいしね。
───何でも親を見殺しにしたって···············
憐れみ、恐れ、好奇心、奇異、様々な視線で俺を見てくる。
気持ちが悪いったらありゃしない。
別に俺は気にしない。
この程度のこと、全く気にしない。
興味もない。
どうでもいい、どうでもいい。
そう身体に、頭にいいきかせた。
だって皆からこう言う目で見られるのは慣れたんだ。
だから反論せず、黙って堪えて反応しないように···············。
「合谷って知ってっか?」
「···············確か手の甲あたりのツボだったっけ?」
「そこを刺激すっと気持ちが落ち着くらしいぜ」
そう言って合谷と呼ばれる手のツボを両手でニギニギと触れながら刺激する夏希。
すると突然俺の握っていた右手を持ち上げると
「ちゅッ···············」
身体がビクウゥッ!?と大きく跳ねた。
無理もない、突然手の甲にキスされれば驚きで身体がはねもするだろ。
「どうだ、落ち着いたか?」
「し、心臓がバクバクいってんだが··········」
「ふはっ、そりゃよかった!」
そうニカッと笑うと、そのまま自分の席に戻って行った。
周りの生徒達は驚きと困惑に全員唖然としていた。
夏希が居なくなったあとも、まだ唇の感触が残る手の甲を見つめる。
「··········ッ」
カッと顔が熱くなる。
紙袋を顔に被っていてこれほど良かったと思う日はない。
(あーはっず。流石にキスはやりすぎた···············)
一方夏希は、周りを黙らせるための行為だったとしても、キスはやりすぎたと若干後悔していた。