俺と幼馴染
俺の名前は陽秋 凪
「寝みぃ」
俺の通う高校の校則はだいぶゆるい。
と言うかほぼないと言ってもいい。
制服もないし、髪型の指定もないし、バイトをやってもいいし、髪を染めてもピアスを付けても、タトゥーを入れても基本大丈夫。
守る事と言えば未成年飲酒や喫煙と言った社会的に守る最低限のことだろう。
かく言う俺も高校に許可を貰いバイトをしている。
そのバイトを俺は昨日夜遅くまでシフトに着いていたせいか、あまり寝ていない。
昔から酷い目のクマがさらに酷い。
多分目つきもいつもより酷くなっていると思う。
まぁ顔面紙袋で隠してるから目なんて見えないだろうけど。
「「「キャ〜〜ッ!」」」
「うぉっ、うるっせ」
近くから急に女子達の黄色い声が聞こえる。
寝不足の俺の頭には彼女達の声がおのすごく響く。
ガンガンと響く頭の痛みに耐えながら声のする方を向くと女子に囲まれる一人の女性が居た。
彼女の名前は深月 冬。
女性にしては大柄で、周りの囲んでいる女子達と比べると一目瞭然だ。
顔は整っていて、美青年と言われれば頷いてしまいそうで、また美少女と言われればそちらでも頷いてしまうような、中性的な顔立ちをしている。
そして特に目立つのはそのショートボブの白髪の髪と白い瞳。
聞いた話だと、遺伝的なものらしく、生まれた時から髪と瞳はこの色だったらしい。
そのせいか、どこか存在が浮世離れしている。
実際彼女の両親は様々な美容用品の有名ブランドの社長らしい。
そのため何度かモデルとしてTVで美容用品の宣伝に出演している。
なんと言うか、上級国民と言うやつだろうか。
一応小学校の時から学校は同じで、何度か同じクラスになった事はあるが、それでも俺はいつもこの顔に被った紙袋と、空いた穴から覗かせる凶悪な目付きに加えて大柄な体のせいでいつも周りの奴らから冷たい目で見られ、自分から俺に関わろうとするやつなんて居なかったし、きっと深月は時が経てば頭の片隅にすら残らず、残っても「なんかヤバい奴いたな」て感じでしか残らず、最後には俺の記憶は綺麗さっぱり無くなってしまう、そんな存在でしか無かった。
とか思っていた時期が俺にもありました。
「あ」
「あ、やべ」
突然深月と俺は目が合った。
俺はすぐに目を逸らし、教室に向かう足を早めたが、ガシッと何者かに腕を掴まれる。
「おはよう凪」
そう言って深月はガッシリと俺の腕を掴んでいた。
絶対に話さないとでも言いたげなほど力ずよく俺の手を掴んでおり、俺は抵抗しようとも思ったが、すぐに諦めた。
「なんでしょうか深月様」
「敬語も様付けもいらないよ。気軽に冬ちゃんて呼んでよ」
「ハハハ、面白い冗談ですね」
「本気だよ」
「あ、はい」
何故か高校に入ってから妙に俺に絡んでくる。
そもそもうちの高校は一般の私立よりもだいぶ偏差値が低く、この高校に来るのは私立高校のような高額な授業料などを払えない者や訳アリだったりがほとんどだ。
中学の時も様々な教師から「君ならもっとハイレベルな高校に行ける」と何度も説得していたのを目にした。
正直俺はこの深月と言う女性が何を考えてるか理解できない。
その済ました笑顔の裏で何を考えているのか、俺には理解できなかった。
「ねぇ、一緒に教室まで行こう」
「何故毎回俺に拒否権がないんですか」
「凪は僕のお願いを断らないって信じでるから」
「嫌な信頼だ」
正直彼女のような女性と一緒に歩けるのは嬉しい。
とても嬉しいのだが、周りの女子の嫉妬に狂った目を見ると、ものすごく断りたい。
だって怖いもん。親の仇みたいな目で俺の事見てくるんだもん。
俺は極力面倒事には関わりたくないのだが、きっと彼女は断っても意味が無いと知っている。
「・・・・教室に着いたら離れてくれ」
「うん、わかった」
そう言って彼女は俺の腕に自身の腕を絡めて、手を繋ぐ。
しかも何故か恋人繋ぎ。
周りの女子の嫉妬と殺気の視線がより一層強くなる。
怖い。
「それじゃぁみんな、また後で」
そう言って女子たちに手を振る深月。
この状況は男としてとても嬉しいのだが、やはり女子達の視線が怖すぎて、この幸福を堪能するよりも恐怖が勝つ。
「さ、行こう」
そう言って歩き出す彼女に合わせ、俺も歩き出す。
朝から寝不足で痛い頭がさらに痛くなってくる。