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ふなばし奇譚百景

ふなばし駅、下りホームの忘れ物

作者: どうも元転生者の僕です。

 船橋駅の下りホーム。夜の帳が下り始め、帰宅を急ぐ人々が行き交う時間帯。会社帰りのOL、佐藤優子は、電車を待っていた。少し疲れた表情で、スマートフォンを眺めている。


向かいのホームには、同じように電車を待つ人々の姿が見える。その中に、一人、若い男性が立っていた。ネイビーのリュックサックを背負い、ヘッドホンで音楽を聴いているようだ。ふと、その男性の足元に、何か小さなものが落ちているのに気づいた。


それは、使い込まれた様子の、小さなぬいぐるみだった。少し汚れていて、片方の耳が取れかかっている。子供が大切にしていたような、そんな愛着を感じさせるぬいぐるみだ。


優子は、そのぬいぐるみを拾い上げようか迷った。声をかけて持ち主を探すべきかとも思ったが、男性は音楽に集中しているようだし、声をかけるのも気が引ける。それに、もうすぐ電車が来る時間だ。


結局、優子はそのまま自分の電車に乗り込んだ。座席に座り、窓の外を眺めると、さっきの男性はまだホームに立っていた。そして、彼の足元には、あの小さなぬいぐるみが、ポツンと取り残されている。


電車が動き出し、ホームが遠ざかっていく。優子は、窓に映る自分の顔を見つめた。あのぬいぐるみは、きっと誰かの大切なものだっただろう。もしかしたら、あの男性がうっかり落としてしまったのかもしれない。きっと娘の形見とかで。だから持ち主は、今頃気づいて、必死に探しているかもしれない。


自分は、なぜ声をかけてあげなかったのだろう。

後悔の念が、優子の胸にじんわりと広がっていく。もう電車は次の駅に到着し、さっきのホームの光景は、遠い記憶になりつつある。


明日、あのぬいぐるみは、誰かの手に戻るだろうか。それとも、忘れられたまま、駅の片隅で寂しくしているだろうか。


優子には、もう確かめる術はない。ただ、夜の窓に映る自分の顔を見つめながら、小さな後悔の念が、心の中に小さな雨粒のように降り続けるのを感じていた。


ふなばし駅の下りホーム。今日もまた、誰かの大切なものが、そっと忘れ去られ、そして、誰かの心に、小さな波紋を残していく。日常の喧騒の中で、見過ごされてしまうような、ささやかな切なさ。

ほかにも短編集は上げてます!! 見ていってください!!

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― 新着の感想 ―
誰でも共感できるような日常のある一コマに焦点をあてて 簡潔で良かった!
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