クリスマスには早すぎた…甘いパンと苦い気持ち。
「神崎と付き合わないの?」
彼女が見透かすように私に質問した。
「神崎君…はね…私よりトイレが大事なんだよ。私が大事な話しようとしたら、トイレに行くって私のこと放り出したの。」
私は愚痴るように明日香ちゃんに伝えた。
すると考え込むように眉間に皺寄せして、しばらく黙っていた。
「…それってさ、七瀬と話しててトイレ我慢し過ぎたからじゃない? それだけじゃ、優先順位分からないじゃん。」
もっともである。頷くしかない…私はどれだけ自分勝手か、身に染みる。
「分かってるよ、だけど…一言ぐらい言って欲しい。デートのお誘い…じゃない、ただ遊ぶだけだけど、お誘いも出来なかった。」
松岡君から助けてくれたお礼も出来やしない。
「嫌いなの? 彼の事。」
「嫌いな訳ない。」
「じゃ、神崎のこと尊敬してるって感じかな?」
「ううん、してない。」
「してないのかよ。」
「どっちかというと、私より子供ぽい。とても尊敬は出来ないかな…むしろ変な人だと思う。」
「変な人か…そうなんだ?」
「でもそこがなんというか…可愛いっていうか、惹かれるものがあるんですよ。」
「うわ、それが本音か…遠回しすぎる。」
「神崎が告ってきたら付き合うの?」
「分からないよ、そんなの。仮定の話しじゃん、告ってきたら考える。」
「そうなんだ、変なの。」
私ぐらいアレだよ、有名だと付き合って別れた後のことも考えるんだよ。そう…付き合った後振られるのは嫌だ、絶対別れない。」
けど…自分から振るのはあり。なんか違った、ごめんなさいと告げる。
捨てられるのは、腹立つじゃん?
「変かもね。」
と私は同意しつつ、別のことを考えていた。
「私なら好きな人が告ってきたら、付き合うけどね。」
…この子後先考えずに付き合って痛い目みるパターンだ。男子を見る目がないね…この人と付き合ったらどうなるか、楽しめるのか。
何も考えない彼女のお気楽さに私は優越感を感じて口元が緩む。
…でもそのお気楽さに、羨ましい気持ちもあるのが、無性に悲しくもなる。
「でも付き合ってさ、なんか違う。前の関係が良かったってなったらショックじゃない?」
「アホか…そんなこと言ってたら誰とも付き合えんやろが。」
ごもっともだな明日香ちゃんは。
でも付き合う必要もなくない?
大学生…社会人になってから付き合えば…そりゃ…私は愚痴を言える人と付き合いたいけど…そんな愚痴ったら説教されそう。
説教なんかされたら…頭にきて速攻振ってやる。
でも神崎君の説教は何故か、嫌じゃない。
んー? 彼を特別視してる?
でもそれは絵梨奈ちゃんのことで揉めたことぐらいだから…それだけだ。別に説教されるのが好きではないよ、うん。
でも…神崎君には好きでいてもらいたい…優越感を感じたい。
優等生を演じてみんなを騙してる、私は悪い子なのだ。
「誰とも付き合えないか。別に…彼氏いなくても問題ないよね? 友達が沢山いたらさ。」
明日香ちゃんは、考え込むように目をつぶり、目を開いたと思うと…教室の窓をまた見ながら私に語る。
「…私もそう思ってた時期がありました。でもね、好きになると…むしろ友達要らないってなるぐらい、彼に夢中になるよ。恋すると…全部捨てても良いってなる。」
それよく聞くけど…本当かな? あり得なくない? 全部捨てたら、彼に依存して捨てられて精神やられて…ああ怖すぎる。そんなの嫌すぎる。
「恋する乙女ね。私は無理だよそんな生き方。」
「むしろ、七瀬は何をそんなに心配してるのか、分からない。捨てられたってまた、拾われるのに。」
だって…拾われても…私はその捨てた人が良いのに、拾った人に行けって…理解出来ない。
明日香ちゃんは、矛盾に気がついてないのだろうか? その人が愛してくれても、自分の気持ちを無視するなんて…それなら一生独身のがマシだけど。
「それ明日香ちゃんも捨てられても良いって言ってるよ? 拾った人になびくってそれ、なくないかな?」
私は正直に思ったことを伝えた。
明日香ちゃんはしばらく押し黙った。見るからに不満そうな表情で、お菓子を口に含み飲み込んだ。
まるで誤魔化そうとした子供のように。
図星だったかな? さて…またお腹空いてきた。
そうだ……コッペパン買ってこよう。クリスマスだし、神崎君にプレゼントしたり…うん、それが良い。
「明日香ちゃんコッペパン買ってくるよ。お菓子のお礼ね。」
「何故コッペパンの話? ってか……コッペパン限定何それ? 出来ればメロンパンが良い。」
「うん、なんか急に食べたくなっただけ。メロンパンでも良いよ、買ってくる。」
「謎なんだけど……気になるな、片手で手軽に食えるからとか、そんな理由だよね? まぁ良いや、ゴチ!」
満面の笑みで彼女が言った。
うん、美味しいパンのお店が、コッペパンが美味しいから。全然理由あるんだけど、面倒くさいから説明はせずに私は、彼女に手を振りパン屋に向かった。
お店の人は、常連の私を暖かく迎えてくれた。
いつもにこやかにしてる個人店のおばさんだ。
香ばしい、小麦の匂いが食欲をそそる。
私はコッペパンを自分の分と神崎君の分も買った。そしてメロンパンも。頭を下げてお礼を言い外に出て、学校の門に急いで向かった。
胸が高鳴る。ただパンを渡すだけなのに…何故こんなに緊張するのだろう。
彼の姿を今か今かと待ち焦がれた。来た…私は深呼吸をして神崎君に手を振ろうとして、その手を下げた。
ちょっと早いクリスマス…けど絵梨奈ちゃんとイチャイチャしてる場面に出会して、私は気まずい思いで……その場から逃げ出した。
なんだよ〜。そう言えばあの2人クリスマス過ごす約束してたんだ。
私はむかむかする気持ちを抑えるように、神崎君の分のコッペパンを悔し涙を流しながら食べた。
悔しいと認めよう。でも、美味し過ぎるから泣けてくるのもあるんだよ…何自分で慰めてるんだろ?
お似合いの2人の仲……応援してあげなきゃね。
お正月…2人で過ごす約束してたけど、断らなきゃ。
……このメロンパン渡しに戻らないと。私は2人に鉢合わせしないように学校に戻った。
口の中は甘いのに、喉が苦い。
甘いジュースを買ってこの苦味をなくそうと考えると…胸の奥まで、広がっていった。




