私の恋は、誰にも否定させない
俺は絵梨奈ちゃんのクラスの入り口前に来て、立ち止まった。女子同士で話してるのを見かけ、遠慮したからだ。
「あんた、神崎先輩に惚れてるんだって?」
惚れてる? それって…兄の様に慕ってるとは別…だよな。
「キャハ、神崎先輩、七瀬先輩に夢中なのに、ばーか! そんなお菓子、渡したって無駄だよ。」
いじめっ子が手を振って、絵梨奈ちゃんのお菓子を振って落とした。
俺は、彼女の無神経な行動に怒りに震えて、拳を握った。次の瞬間には、絵梨奈ちゃんを助けようと、意を決して声をかけようとした。
その瞬間、イマジナリー妹の声が耳に響いた。
お兄様、ここは少し冷静になりましょう。この場に出たとしても、いじめた側を責めても無意味。
だとしても、ほっとけるか!
いえ、少し様子見しましょう。プリンセスに暴力を振るったら、行きましょう。そうすれば居直りされることはありません。
ここで介入すると、プリンセスと彼女との間は嫌悪したまま。それなら、お互い言い合いした方が、不満をぶつけられて返って良くなると思います。
絵梨奈ちゃんが、この状況で言い合えるって?
プリンセスを信じましょう…怒りこそ素の自分を曝け出せます。
「知ってるよ…それでも…私先輩のこと好きだから。振られても後悔…しないから。」
お菓子を拾いながら彼女が健気に、そして高貴な佇まいで立ち上がって言う。
「笑いたければ、笑いなさいよ! 私の恋はあなたなんかに、否定されないから!」
俺は絵梨奈ちゃんの、熱い言葉に涙が溢れて、その場に立ちすくした。
他人にどうこう言われる筋合いはないよな…俺も人の恋にとやかく言いたくないし、言われたくない。
でも今回は…俺が当事者だ…他人事ではない。
彼女を応援する気持ちと、それに応えるのが難しい今の状況で、俺はただ見ているだけで、この場から動けないでいた。
絵梨奈ちゃんの言葉を受けて、彼女が青い顔をしていた。
「なんで…あんたはそんな強いのよ…私が…情けないじゃない。」
俯いて彼女が目を抑えていた。
「優奈ちゃん…私そんな強くないよ。」
絵梨奈ちゃんが、健気に優しく言った。
「…絵梨奈の事…嫌いだった…なんでも完璧にできるあんたが! いつも、私より全て上だった。絶対負けたくないって!」
なるほど、嫉妬からいじめてたのか。俺は他人に嫉妬することなんてないから…いやきっとそれは俺が運が良いだけだ。
俺より優れてる男がいて、好きな人も奪っていって、それでもその男がその子を平然と振ったら…きっとツライだろう。
「でも…負けたよ…振られたいいと…そしたら絵梨奈が落ち込むのが…見たかった。けど、ごめん…今は応援するよ。」
彼女が、絵梨奈ちゃんの肩に手を置いて、それに応えて絵梨奈ちゃんが手を重ねて、首を振る。
「優奈ちゃん…うん。私…なんでも出来ないよ、不器用でただ努力だけは、頑張った。それだけだよ。」
「腹立つ…そういう所…やっぱり応援しない。」
「なんで〜して欲しいけどな。」
笑顔で2人が話してるのをみて、良かったと安堵した。
集団で彼女もいれば、こんな風にならず…いじめは続いたのかと思うと、集団心理の恐ろしさを実感する。
2人で話し合いするって、良いことだな。
俺は少し照れ臭くて目を擦りながら、二人のやりとりを静かに見守った。
「私…チョコレート、小学校の時作ったけど、受け取られなかった。
絵梨奈が好きだからって…ごめん、あんたを恨んでた。けど私に言い返してきて、考えが変わった。」
小学生の時に、一生懸命作った物を…いつまでも記憶に残るよな…だからって絵梨奈ちゃんには、なの罪もない。
八つ当たりだ。でもそんな八つ当たりする彼女の内心もきっと…自分を責めてたのではないだろうか?
だから…いじめに加担したのだろう。許せないけど…反省して欲しいな、俺としては。
「そうだったんだ…恋って中々上手くいかないね。好きな人に振り向いてもらうのって、大変だ。」
「そうだね…だから絵梨奈応援する事にした。同じ大変な思いしてる同士だったんだなって。」
良かった…和解したのかな? ユイの言う通りになったな。
絵梨奈ちゃんと目線が合った。油断した!
やばい気が付かれた。
「先輩いつからそこに?」
驚いた絵梨奈ちゃんに苦笑いしながら、手を振って、教室に入った。
「いや、少し前…お菓子貰いに来たのさ。」
「聞いてました?」
絵梨奈ちゃんが青ざめた表情で言う。
「やべっ…チクんなよ。」
彼女が舌打ちしながら睨むが、俺はそれを無視して、絵梨奈ちゃんが大事そうに持っていた、透明な袋を見た。
「美味しそうな、クッキーだね。」
「ごめんなさい、先輩床に落としてしまいました。」
「ああ、そんなの絵梨奈ちゃんの愛情パワーで消えたよ、汚れなんて。ありがとうな。」
俺はクッキーを受け取ると、絵梨奈ちゃんの嗚咽が聞こえた。
「神崎先輩…ぐじゅ…泣かせないでください!」
絵梨奈ちゃんが、抱きついてきた。
突然のことにドキッと戸惑い、一瞬身体が硬直した。
お兄様、只々素敵です…プリンセスも私も、夢中です。
おい、ユイまで…俺は絵梨奈ちゃんの頭を撫でて、さて、どうしようかと考えた。
腕を組んでた、絵梨奈ちゃんの友達を見て、気まずさにハッと我に返る。
この教室、よく見ると他にも数人いた。
その人達の視線を一身に浴びる。
「ごめん、誤解を招くからさ。」
頭を掻いて、俺は言う。
「すみません、神崎先輩。」
絵梨奈ちゃんが、俺から離れてくれた。
満更でもないけど、七瀬に見られたら大変だからな。
「じゃクッキー美味しく頂くね。」
袋を上げて俺は、踵を返す。
「はい、心込めて作りました…もう少しお話ししません?」
名残惜しそうに絵梨奈ちゃんが言うが、俺は後でまた話そうと言って教室を後にしようと、去り際、五味の姿を見た。
あいつ、俺の後をついてきてたのか?
七瀬と絵梨奈ちゃんに抱きつかれてる姿、見られたのは厄介だな。
変な噂流されそうだと、ため息を吐いて自分の教室に戻った。




