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七瀬 vs 絵梨奈、間接キスの攻防戦

図書室に着いてドアを開くと、本のインクの匂いが微かに匂う。


七瀬が何か気まずそうな表情をして、椅子に座って俺を待っていた。



「勉強道具忘れて来ちゃった。」


「勉強しに来たのに、忘れたって話にならないね。」


鼻で俺は笑い、注意した。


「別に良いじゃん、神崎君の貸してくれれば。」



あっ、こいつまた開き直った。やれやれだぜ。



「でも、今回は良いけどまたやるなよ?」



「またやるなよって、それフリですか?」


「フリじゃないが?」


コントじゃないんだから、そんな訳ないだろ。

可愛いけど、ちょっと…天然過ぎるよな。



「私、忘れたくて忘れて来た訳じゃないよ?」


口を尖らせて彼女が不満そうに言う。


「当たり前だ。」



「ぶぅぅ〜。冷たいその言い方。」


七瀬が腕を組んで、横に向いて不機嫌な態度をした。


あれ? これまた俺が悪いってことになりそうな雰囲気。



くぅー上手い反論して来た。だけどそれって忘れ物を正当化している。そんなの間違ってるから、言い返せるはず。


「言い分は一理あるけどな。じゃ忘れ物毎回して来ても、トラウマになるから、良いってことにならないか?」



「一理あるなら、神崎君は納得したって事で。」


「納得したけど、反論する部分もあるってことだぞ?」



「んも〜。忘れ物したぐらいでしつこいよ。神崎君。器が小さいと女子に嫌われるよ? 忘れ物よりそっちのが問題だよ、うん。」


口を膨らませて、ふぅと彼女が息をため息のように吐く。


「話をすり替えるなよ。嫌われたって別に良いよ。」


本当は嫌だけどな。七瀬の為には、これぐらい言ってやらないと、俺って良いやつだな。



「フッ、強がり言っちゃって〜。女子に嫌われても良い男子なんていないよ。余裕がないから、そう思い込んでるんだよ?」


確かに強がりだけど、…にしても結構賢いな。難しい言葉使ってくる。余裕がないから?


「ふん、人のせいにするばっかりの七瀬だって男に嫌われるぞ?」



「私これ以上男子にモテてもしょうがないもん。残念でした!」


目をつぶって舌を出した彼女の可愛いさに、残念どころか、ドキッとさせられたのは、秘密だ。ここは揶揄ってやる。


「残念なのは七瀬の頭だな。」



「うわー。全然私のこと大切にしてくれない!」


俺のノートに影が見えた。思わず顔を向けると、絵梨奈ちゃんが立っていた。


「お、絵梨奈ちゃん来たな。」


「絵梨奈ちゃん、よろしくね。」


「はい、先輩方よろしくお願いします。」



「大切にしてるけどな…あれ? 俺のお茶が消えた!」



「七瀬そのお茶俺が飲んでたやつ。」


「あっ! 本当だ。私のこっちだった。」


こいつ、絵梨奈ちゃんに話しかけられて、気が散って間違えたな…絶対そうだ。


「よく見ろよ、全然違うお茶だぞ。」


「神崎君が紛らわしいとこ、置いたせいでしょ!」



「すぐ人のせいにする。」


「それは神崎君だよ。ははーん、私と間接キスしたいが為にわざと置いたな。」


ジト目で全てお見通しだとでもいうような瞳で、俺を見つめる。


俺は潔癖症ではないが、他人の口つけたやつは、どうも気持ち悪いんだよな。


そりゃ、七瀬のだから汚くはないが…それで拒否反応が起こりそう。


「はっきり言うとしたくないので、お茶弁償して。」


「この私としたくない! ちょっと、それどいうこと! キスしたくないってこんな素敵な子に向かって、信じられないから!」


彼女が立ち上がり机に両手でドンと音を鳴らす。手を胸の間に置き、七瀬の大声が図書室に響き渡る。


その光景に絵梨奈ちゃんは目を丸くしていた。



「おい! 誤解招くだろ…」

俺はソワソワして周りを見回しすと、ヒソヒソといやねぇ〜と話し声が聞こえた。



「落ち着け、俺が悪かった。飲むから。」


「うん、神崎君が悪い! 飲みたくないとか、凄い失礼。」


おい、こいつ何言ってんだ。俺のお茶間違えて飲んだのが悪いだろ! って言ってやりてー。


いや、待てよ? 思いついたから、この正論でねじ伏せてやるか。


「七瀬は。男友達に間接キス手渡されたら拒否しないのか?」



「神崎君に拒否した事ないよね?」



「答えになってない。俺じゃなくてそんなに親しくない相手なら?」


がそんな親しくない相手なの? 私と神崎君は?」



駄目だこいつ! 会話にならない!


「俺基準じゃなくて、他の男友達な。」


「はぁ〜神崎君そんなの人によるよ?」


さて、どうしたもんか? これ追い詰められてないか、俺? 

でしょ? って言ったら、じゃ神崎君は私は嫌ループになってしまう!


「そうですね。人によりますよね。」

俺は諦めて彼女に完全なる白旗を上げた。



「なんで敬語になったの? さては? 

神崎君は欲張りだな。はい、私の飲み掛け分もあげる。これでお得だね!」


机に座り、両手でペットボトルを突き出してきた。


「わーい、嬉しい‥ありがとう。」


「どういたしまして! 特別だよ!」


彼女の微笑む姿で全部忘れようと俺は思った。


「神崎先輩、嫌ならちゃんと断りましょう。かりん先輩はちょっと無神経なんで、ちゃんと言わないと伝わらないんです。」


「嫌じゃないよね? 神崎君。」



「えーと…その。」


イマジナリー妹、なんて答えればいい?


お兄様が私の提案のんでくれるなら、協力しますよ?


じゃあ良い。やりたくないもん。



「はぁ、分かりました、その神崎先輩の飲んでたお茶、私が回収します。」


回収? なんだ回収って。


「新しくお茶買ってくるので、神崎先輩はそれ飲んでください。それと、かりん先輩のは要らないので、自分で飲んでください。」



俺は吹き出しそうになったのを手で堪えた。

かりん先輩のはいらないって…はっきり言う子だな。


「ちょっと、なんで勝手に仕切るの! 神崎君も何か言ってやって!」


えー? ここはイマジナリー妹に頼れば楽なんだけどな…何か言ってやるのか。


「ありがとう。絵梨奈ちゃんの案に乗るよ。」


「そうなんだ…神崎君、絵梨奈ちゃんの味方するんだ?」


「じゃあ七瀬がお茶弁償してよ。それなら君の味方するよ。」


完璧だろ? イマジナリー妹いなくても乗り切ってみせる!


「分かった…その代わり味方してね。」


「かりん先輩、味方とか敵とか、はっきり言うと小さいです。私達、勉強仲間ですよね。なので全員味方です。くだらない事言い合いするのは、辞めましょう。」


「くっっ! 正論だけど腹立つ!」


「ほら正論だって認めたんだから、仲良くしてこうぜ。」


「正論だけどね、言い方に棘があるの。そこは神崎君、分かるよね?」


「まぁそれは思った。ちょっと絵梨奈ちゃん、もう少し棘抜いてやってよ。君は薔薇みたいだから、棘抜いたらもっと素敵になれるって何言ってるんだかな。」


「神崎先輩分かりました。さすがポエマーですね。胸に神崎先輩のキューピットの矢が刺さりました。」


「あはは、面白い返しだね。」


「あの……イチャイチャするなら、私の見えないところでしてもらえますか?」


ピクピクと上唇が動いていた。俺はそれに動揺した。


イマジナリー妹抜きでここは、頑張る。


俺は七瀬を宥めまくる事にして、この場は落ち着いた。


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