三股男とイマジナリー妹、地獄の倫理観バトル
俺は後藤の待っている空教室のドアを開いた。
ドアの音で気づいた後藤が、こちらを向いて手を振った。
「君の妹だが、しっかりした子だな。本当に血が繋がってるのか?」
後藤悟と絵梨奈ちゃん、あまりに出来が違うので、疑いって聞いた。
「ふっ、失礼なやつだ。当たり前だろ。妹は優秀だ。ところで、お前と会ってからなにか…明るくなったんだ。手を出したんじゃないだろうな?」
手を出したか? いじめ問題に手を出したな。
「当たり前だろ。手を出したぞ!」
後藤の身体が硬直していた。表情が口をあんぐりと開けている。
「そんな…お前…正直!」
「それより君の恋愛はどうなった? 結局どっちと付き合ったんだ?
ちょっと気になるからな。結末がどうなったか。」
俺はそれを聞きに来たのだ。それを聞いたらおさらばだ。
「実は、好きな人に一回振られて、告白してきた子と付き合う事にしたんだが、その後好きな人がやっぱり付き合おうって来て、断れずに付き合ってしまった。」
こいつ! 情けないやつ。あれだけ女子が傷つくとか言っておきながら。
「そうか、二股する事にしたんだな?」
「…いや、三股だ。」
「ん? どういうこと…二股になるんじゃないのか?」
「実は本当に好きな子は、その子の妹で、彼氏がいたから諦めてたんだ…でもそうじゃなくて、彼氏じゃなくて付き纏いだった。」
後藤が手に力を込める。静かな教室に後藤の声が響く。
「俺がなんとか話をつけたら、その子にも告白されて断れなかった。」
姉妹と付き合って更に、別の彼女が? こいつ! ヤバい! イマジナリー妹の意見聞きたい!
さすがお兄様のお友達です。これはもう2人で三股ブラザーズ結成ですね。七瀬様とプリンセス様とわ・た・し!
何言ってんの……悪魔の囁きめ。
お兄様、その間は一瞬考えましたね?
…私って入ってるからさ。そういう妹は、リアルで生きてたとして、男取っ替え引っ替えするのか?
私はお兄様一途です。そんな事する訳ないじゃないですか。
お前…一途な癖に、俺に三股勧めるのかよ。
それもそうですね…でもお兄様は、一途じゃないでしょ…おんなじ事あったら、かなり悩みそう…フッ。
いや、同じ事にはならない。何故なら俺は告らないからだ。そして告られたらその子が好きかどうかで決める。
3人同時に告られたら…1番好きなやつと付き合う。
素晴らしい誠実なお兄様…でも待って下さい。1番好きな人ってお兄様がすぐ変わるのかどうか、気になります。
簡単に変わるなら一途ではないでしょ。それとじゃあ同じくらい好きな人なら? 1番ってそもそも優劣付けて女子と、関わってるんですか?
それってどうなんでしょう? 同じくらい好きな人全員振って、その1人がまた告白してきても降るんですか?
なんだよお前は! 哲学弁護士かよ。なら俺も政治家になる…その質問にはお答え出来ません。
それ、反論にもなってませんよ、お兄様。まず哲学弁護士ではないです、私。質問に答えられないなら、お兄様は全部認めたと受け止めるしないですね。
だって政治家が答えたられないという時、その質問の通りだから、答えられないのです。質問が間違っていたら、否定すれば終わる話です。
いやいや、肯定するのまずいとか、説明するのまずい場合もあるだろ。ってかなんの話かな?
完全に政治家の討論番組の政治家ですよ、お兄様。このまま追求しても良いですが、応える気がないなら…これ以上何も言いません。
ただ、一言お兄様…同じ状況になる可能性はありますからね。その時どうするか、明確に答えないなら不誠実と思いませんか?
いや、今は…後藤と話中だから後でな。
お兄様逃げるんですね。そんな三股男より、私の方が大切ですよね?
お兄様のおっしゃる通りです。では保留しておきましょう。
では、メインイベント開催します!
私を甘やかすイベント発生!
なんだよそりゃ! さっきまでのなんだったの?
前座です、お兄様! ふにゃー、頭撫で撫でと、ほっぺツンツンをするのです。
「どうしたんだ? もしかして俺の三股話しに衝撃受けて、気絶してないよな?」
後藤が眉間に皺を寄せて尋ねた。
少し黙ってろ。良いとこなんだ。
良いとこ…うるうる、妹感激と幸せモードに入りました、お兄様。
辞めろ! もうデレるな。撫で撫で、ツンツン…これで良いだろ。じゃあな。
まだ駄目…お兄様、私が何故こんなに甘えるか分かりますか?
なんだその難問は! 分からんよ。揶揄ってるからだろ?
…揶揄ってる…いや…違うよな? 安心感を得たい? なんてな。
私がお兄様に甘える理由、それは…一つじゃないのです。フフ、一つの理由では正解になりませんでした〜。
なんだよ、複数あるのかよ。考えて損した。
ふふ、一つは、寂しいからです。甘えるとそれが消えるのです。2つ目、お兄様がなんだかんだ言っても、優しく接してくれるから、ドキッとやられてしまうのです。そして三つ目は秘密です、えへ。
……照れ臭い…ああ目にゴミが入った。
「おーい、黙ってろって言われて、少し経つがもう良いか?」
後藤の声で雰囲気をぶち壊されてしまった。だが…危ないところだった。後藤に助けられたかもしれない。
さて、三股男の話を聞いてやるか。
しかし…3つ目の答え…他にないよな、参ったな。
「何故こうなったのか自分でも分からないんだ、神崎よ。」
「何故って、お前がYESって答えたからじゃないか。後藤よ、お前の頭は理性が妹に取られたんじゃないか?」
「違う、それは違う! 俺が…モテすぎるのが悪い。そもそも女子と付き合ったら、モテ始めるっていう、この謎理屈。こんなもの争いようがないじゃないか! 」
後藤が首を振って、声を荒げる。
「なんだよお前は卑下したいのか、自慢したいのか、どっちか統一しろ、まず。」
「お前には自慢しかしたくない。だがこの状況だ、卑下もするさ。それより、打破しようと俺は思った。」
「3人全員と付き合って行くつもりはない。2人とは距離を取ってフェードアウト。彼女の妹1人と付き合うつもりだ。」
「何その潔い振りしたクズみたいなやり方。笑わせにきてるのか?」
「クズはないだろう。ちゃんと傷つけないように配慮しまくってる。普通なら1人を選んで、他の彼女を振るんだろうが、それは良くないだろ?」
「いや、全員振るのが普通だと思います、はい。後藤のやってるの、敵の卑怯なキャラが、お前だけは気に入ってるから助けてやる。それを普通って言ってるお前の頭の異常事態だ。」
「ふーん…言うじゃないか。全員振ったら俺は中学ずっと独りだぞ。お前の方がおかしい事言ってる。そんな自分を追い込むのは、それこそ頭イカれてるだろ?」
俺は後藤の謎理論に吹き出した。こいつ自己中過ぎる…とは言え俺も同じ状況になるかもしれないと考え、笑みが消えた。
だけど、後藤の付き合ってる2人って姉妹だろ?
すぐバレるんじゃないか?
修羅場が来ますね! 面白そう。
イマジナリー妹、楽しむな。ちょっと見てみたいが。
「神崎、俺もそこまでバカじゃない。当然そう思った。なので妹の方に姉と付き合ってる事は伝えた…もう1人の方は教えてないが。」
「良くそれで別れなかったな? 相思相愛ってやつか?」
「そうだ俺たちは愛し合ってる。それと妹の方だが、姉にコンプレックスを抱いてる。ふっふ、俺はそこをついた。」
後藤の唇が邪悪な笑みを浮かべていた。表情もいつもの彼とは別の…人物…なにかに取り憑かれたかの様に思えた。
「ここは俺も少し悪い部分があったが、恋愛は少し悪にならなければ実らないって、親戚の従姉妹が言っていた。大変勉強になった。」
おーい! ドン引きだぞそれ。なんか1人で誇らしくしてるけど。
「それで? 俺にその話をしたのは何故だ? 何か狙いがあるんだろ?」
頬を掻いて後藤が首を傾げた。
「いや、お前に話を聞いて欲しかった。それだけ…ではない。この三股だが、デートしたら修羅場になる。そこで、お前がついてくれば、なんと妹の彼女だとか誤魔化せる。」
「どうだ? 俺の明晰な頭脳に恐れ言ったろ?」
「…ある意味な。お前の悪魔的な賢さは大したもんだ。」
お兄様提案があります。その案飲みましょう。それで全部姉にバラしましょう。凄く笑えると思います!
名案だが、さすがに俺はそんな嫌な奴じゃない。
「後藤、俺がその案のむとでも?」
「断る…と思うな。やはり友達を利用するなんて良くないな。すまん今の話は忘れてくれ。」
「いや、待てよ。やはり…いや駄目だ。」
こいつ、独り言が凄いな。何か俺を利用する策思いついたのか?
きっと、話だけでも合わせてくれとか、そんなところですよ、お兄様。この三股男とは縁を切るのがベストと思います。
お兄様を利用することを考える者とは、距離を持つべきです。
イマジナリー妹、確かに!
「神崎、三股を正当化するつもりはないが、スリルは凄いんだ。」
「病みつきになる。正直このままでも良いとさえ思える…そうだ…他にバレようが、好きな子は失うことはないなら、このままでも良くないか? どう思う?」
何故俺に聞く…ちょっと、後藤悟よ…お前はいい奴だったろ? どうしてこうなった?
この問いは喉まででかかったが、飲み込んだ。
イマジナリー神崎はどう思う? 俺は久しぶりにやつを呼んだ。
そうですね、恋愛は個人の自由なので、好きにやれば宜しいかと。ただ真似をせず彼を軽蔑して生きていきましょう。それが1番かと。
なるほど、一理あるな。
でもな、恋愛のクズだからな。別に他の…悪いことしてないしな。俺を信用して、この話したんだろうし。そのうち目を覚ますだろ。
お兄様は、恋愛のクズにならないんですか?
イマジナリー妹よ、将来の事は分からないが、ここまで開き直る男にはならないと誓える。
でもお兄様、彼が3人に三股の許可貰えば、クズじゃないと思います? もしそうなら、お兄様も既にクズの仲間入りしてる…気もします。
えっ? どういう事?
…お兄様が魅力的って事です。
貶して褒める君が分からない、本当不思議なやつ。




