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中学生編の始まり

午後の夕陽が教室の机を包み込み、大理石の輝き…まるで中世の貴族の神秘的なテーブル…現実は、ただの木の机。俺は、貴族でもないが、凡人って訳でもない。


だが、その舞台のど真ん中には…それさえ霞むほど、眩しい子が佇んでいた。


七瀬かりん…クラスで1番の美少女は、本当なら、近寄り難い。が…おっちょこちょいの天然マシーンなので、この子だけは、気さくに呼び捨て出来るほどの仲…もっとも向こうは君付けしてくる…呼び捨てされるのも俺はイラッとくるがな。



彼女の美しい横顔が見え、髪を白く細い指でかきあげる。映画のワンシーンの様だ。



俺は神崎直哉、素直だがへそ曲がりだ。

目指すは人類最高の頭脳を持つ男になること。

学業成績もちろん1位だ。


「七瀬、カラオケ行こうぜ。最近つれない態度だからよ、今日は無理にでも連れてく。」


松岡龍之介がクラスのアイドルを口説いていた。こいつは俺と真逆の存在、学業成績最下位の男。


「あはは、遠慮しておきます。」


七瀬かりん、頭も良くて学業成績万年2位の子。松岡の狙うクラスのアイドルだ。


松岡の瞳孔が七瀬を鋭く捉えた。それを見た俺は恐怖に支配される。狙われたのは彼女なのに、畏怖を感じさせるほどの眼光。


だが、七瀬はそれを笑っていなす。だが頬を軽く掻いく仕草に微かな困惑と戸惑いが滲んでいた。俺はそれを逃さなかった。


クラスの男子達が心配そうにチラ見するが、内心は怯えているのだろう、近寄ろうともせず、むしろ離れていった。


「そう言うなよ。来いよ。」


松岡が七瀬の腕を強引に掴んだ。彼女の制服に指が食い込む。こいつの手は中学生とは思えないほど巨大で、彼女の腕がりんごを潰すほどの握力で、握られると錯覚する。


まるで自分がされたように腕に痛みが走った。


脳が宇宙人に取られた男の暴走は、頭を抱えて見て見ぬふりをさせたくなる。その心理的圧迫感は、まさに怪物だ。



彼女の悲痛な叫び声が俺の耳を支配する。助けろと、脳が指令を出してるかのようだ。



「良いから。楽しもうぜ。」


語気を強めて松岡が口を緩ませながら、外に連れ出そうとする。


心配で俺は彼女の表情を伺うと、七瀬と目があった。


目の輝きが失われていた。いつもの彼女の目ではない。そんな目で俺を見ないでくれと、胸が痛んだ。



俺は目を伏せて、彼女の視線から逃れた。



「おい邪魔。」


松岡とぶつかりそうになって俺は即座に頭を下げて、謝った。


「どうぞ。」俺は道を譲るように横に動いた。


我ながら情けない…が殴られて怪我をするのは嫌だ。


その時、松岡の行方を体を張って止める人が現れた。



「ちょっと待てよ、七瀬さん嫌がってるだろ?」


後藤が松岡に力を込めた口調で、反省を促すように彼を見据えた。



後藤悟、学業成績3位の男。良く知らないので、コメントは差し控える。


まぁ、強いて言うなら、イケてる王子様だ。お姫様である七瀬を、救いに来たか。


さすがに白馬には乗ってないが、正義感は乗っけてる。だが相手が悪い。武器を忘れた裸の王子に俺には見えた。


松岡は彼を殴ってどけよ、と意に返さなかった。



松岡は、後藤悟の声に耳を傾けもせず、彼の胸ぐらを掴み拳を振り下ろした。


まるで子供が邪魔なおもちゃをどかすような態度。

人を傷つけることに罪悪感をまるで感じさせない。


呆気ないものだ。正義感で姫を救えるなら、俺が助けてる。それが無理だから…うん、俺は悪くない!



教室から悲鳴にも似た叫び声が聞こえた。


叫んでないで先生呼んでこいよ。そう思ったが、松岡が叫んだ女子生徒を睨んで何も言えなくした。


松岡の逆恨みが怖いので、当然何も動かない。俺も女子生徒も同じ、助けたくても、恐怖心で身動きが取れない。



彼女は泣きそうな声で助けを求めた。


七瀬が後藤君! と叫んで心配そうな目を向け、すぐ彼の元に向かおうとしたが、松岡の手からは逃げられなかった。


彼女は泣きそうな、儚く消えるような声で俺に助けを求めた。



俺を巻き込むなよ七瀬。俺に何故助けを求める?

そうか、目が合ったからか。無視する訳にはいかない。

しかし勇気だけじゃ、後藤悟の二の舞。


でも俺が見放したら、彼女はどうなる? 今の俺に出来ることは、時間を稼ぐことか。稼いでどうにかなるとも思えないが、勇気ならある。


「松岡!」

俺は叫んで言うと、心臓の鼓動が壊れそうなほど、高鳴った。


「ああ?」


彼のドスの効いた声で小動物の様にビクッと身体が震えた。



「…さん。」

呼び捨てはいけないよな。



「なんだよ、ってか今七瀬お前の名前呼んだよな? 浮気してんなよ、お前。」


「あの…私あなたと付き合ってすらないです。神崎君ごめん、巻き込んで。」



くぅ〜。可愛い…でも謝るぐらいなら呼ぶなよな…それにしても松岡頭おかしいぜ。妄想で付き合ってるとか、俺みたいな妄想癖持ってるのか?


なんか共感できるな。なら恐れることはない。強く言ってやろう。


「おい、松岡、七瀬からその汚い手を退けろよ。」


「なんだと? 今なんて言った?」



松岡が目を見開いて、俺に問いただす様に俺の顔をまじまじと見る。

やばい。妄想で言ったはずが声に出てた…死ぬ! 目に殺気を感じ、殺されると手が小刻みに震えた。


「おい、お前らなにしくれてんだ。」

低い悪魔の呻くようなドスの聞いた声で、デビルが怒りを解き放った。 


松岡が俺の襟首を掴んだ。俺は咄嗟に両手を上に振り上げ、彼の腕の下から叩き上げるように、振り解いた。



舐めるなよ。俺は喧嘩は死ぬほど弱いが、知恵はあるんだ。襟首を掴まれたら、即座に外すテクニックを持っているのだ。



恥をかかせてやった。俺如きに腕を振り払われたんだ。次は、ジャンピング土下座と行こうか。


俺の土下座を見よ! 靴も舐めますって言えば許す…無理だ。目がもう充血して我を忘れてるわ。謝っても仕方ない。


隣にいた七瀬が、俺を庇う様に目の前に立った。


勇気あり過ぎだろ、この子。


駄目だ。七瀬を盾にするなんて、明日から学校来れない。


「退くんだ七瀬。君に怪我なんかさせられない。」


彼女の肩に手を乗せて言うと、顔を俺に向けた。心配そうな表情で彼女が声を発した。


「神崎君、でも…」


「俺の女取るんじゃねーよ!」


「付き合ってもいないのに…辞めて。」

彼女の声が震えていた。

松岡に睨みつけられながらも、俺の袖を掴むようにして、少しだけ近づいてくる。



青ざめて見るクラスメイト、頬に手を当て、傍観して何もしないやつ。見ないように目を避けているが、また気になるのだろう、時折り目を配る奴もいる。


クラスメイトの女子が小刻みに全身が震えていた。過去に松岡に怒鳴れたりしたのだろうか? 目は同情の眼差しをむけているが、諦めたように、視線を外した。



「……七瀬?」


かすかな熱が、俺の袖を通して伝わってきた。


この時、俺は気づいたんだ。

本気で怖がってる。


胸の奥が一気に熱くなって、松岡への怒りが湧き上がった。


松岡の拳が振り上げられた。

その瞬間、教室に響き渡る声が耳に届いた。


「おい、お前らなんの騒ぎだ?」


救いの神現る。助けて先生、いや、助けろ!


「いや、七瀬と痴話喧嘩してただけですよ。」


豹変して松岡は明るく余裕ぶったように、肩を下ろした。


なんて厚顔無恥。来世は良い人間になれよ。


「嘘です! 私、松岡君に勝手に絡まれたんです。」


「おい、俺の言ってること嘘じゃねーよな?」


周りの生徒に松岡が同意を求める。



何故誰も言わない? 普段七瀬好き好き言ってる奴らが。なんてヘタレだこいつら。


俺は思わず舌打ちをする。


「あ?」


松岡は俺の舌打ちが自分に向けられたと誤解したらしい。


「あじゃないよ、こいつは。」


「なんだと! このやろー!」


声に出てた。また…やらかした。先生が来たから安心したせいだ。


しかし、先生という虎を得た俺は虎の威を借る狐だ。最早恐れなどない。


ここはもっと、強く出て松岡様に一目置かれるのが、俺が助かる最良の方法ではないか?


「先生松岡嘘ついてますよ。七瀬にカラオケ行こうって誘われて断ったら無理矢理、連れて行こうとしてました。」

  

我ながら説明が上手い! クラス中の視線を俺は独り占めにしていた。


「止めに入った、後藤を殴って今度は止めた俺に突っかかって来ました。」



これで俺に攻撃したら告げ口される恐怖心を植え付けられたはずだ!


「先生! 神崎君の言う通りです。後藤君も証言してくれるはずです。」


七瀬が同意する様に頷いた。




先生が職員室に来いと怒鳴りながら耳をかいた。


「てめぇ、神崎。覚えてろよ。」


舌打ちをして松岡が、俺を脅す。


ヤバい失敗した。俺は松岡と先生が教室の外に出るのを足を震わせて見つめた。


「神崎君、ありがとう。凄いカッコよかったよ。」


上目遣いで彼女が俺に熱い視線を向ける。

彼女から苺のような良い匂いが、魅力するように俺の鼻を刺激し、胸がドキッと熱くなった。



辞めてくれ! 好きになるだろうが! 俺は恋なんかしてる暇はないんだ。勉強で忙しい。


「それより後藤は大丈夫か?」


照れを隠すように、誤魔化して言う。


「あっ、そうだ。後藤君ごめんね、大丈夫だった。」


七瀬が後藤にかけより声を掛けた。



勿体無いことした。キスぐらいしてもらうんだった。チャンスを不意にした。


それにしても、七瀬を傍観して助けにも入らない奴等と比べて、俺はなんて良いやつだ。







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