真冬の中庭で、イマジナリー妹が仕掛ける恋の方程式
神崎君、どうしたの? お弁当に当たった?
俺の肩に優しくそっと七瀬の手が置かれた。
冷たい風を押し除ける様な温水が伝わる。
「そんな簡単に当たる訳ないですよね。かりん先輩、私に恨みでもあるんですか?」
鋭いナイフのような言葉が、ピシリと凍てつく空気を切り裂く。
その瞬間、七瀬の目が静かに燃える炎のように揺れた。
「なに? 先輩にちょっと失礼だよ。」
おお、これが現実世界! 俺は帰ってきたー! 七瀬の手で呼び戻されたが…修羅場!
お兄様。ここは、お弁当美味しいし、七瀬が側にいるから楽しくて固まってた。これでバッチリです。
おお、天才かよ。最適解じゃないか?
俺はイマジナリー妹の言う通りにした。すると2人に笑顔が戻った。
「神崎先輩ありがとうございます。愛情込めて作りました。喜んでいただけて良かったです。」
両手を合わせ、絵梨奈ちゃんが星の様に目を光らせた。
「神崎君、じゃ私ともっと話そう。何が良いかな〜。」
彼女が上を見つめ人差し指を口に当てる仕草に、一瞬見惚れると、横からトントンと肩を叩かれた。
「神崎先輩あ〜ん。」
俺は、思わず絵梨奈ちゃんの差し出した唐揚げを食べた。しまった! カップルみたいなことして…しまった。
俺は七瀬の方を恐る恐る見た。
体が震えていた。
「そうだ、神崎君私チーズケーキ作って来たんだ。」
バックから小さな箱を取り出し、それを彼女が開けた。袋に入ったフォークを取り出し、チーズケーキをそっと掬う。
「あーん。」
そう言って俺に食べさせるフリして自分で食べるパターンだな?
「あーん。」って普通に食べさせてくれた。
「おいち?」
彼女が頬を赤らめていたが、俺の頬も釣られて熱が伝わる。
「おいち。」
俺は呆然としつつ、七瀬に答えた。
でも弁当食べてる時にチーズケーキ出すなんて天然だな。合わないよ…美味いけどさ。
「神崎先輩がお弁当食べてるのに、途中でそんなの出すとか、気配りが足りてませんね。」
正論だけど、絵梨奈ちゃんは一言多い。もう少しオブラートに包んでくれないかな? 彼女らしいが。
「ん? 何か言ったかな?」
ああ、またピリピリしてる!
イマジナリー妹! 出番ですよ。
ご飯ですよ、みたいに言わないでください、お兄様。えーとまた協力するんですか? はぁ,こう言いましょう。
2人ともそう言えば、知り合いみたいだけど結構仲良かったりする? と話題を変えましょう。
仲良いとは言わないと推察出来るので、じゃあこれから仲良くやってこうと、圧をかけます。
おお、さすがプロ詐欺師ありがとう!
嫌です、そんな褒め方。愛しの妹よ、ありがとうって言いましょう。でないと協力しません。
愛しの妹よありがとう、愛してるよ。
うわっお兄様浮気だ。2人の女の子にあ〜んして貰って私とイチャラブしてる!
なんだよ、手伝いして欲しいだけだそ?
愛してるぞ、まで言えなんて言ってないですけど? お兄様本音が漏れてしまいましたね?
いや、恋愛的な愛してるじゃなくて、ペットを愛でる感じ?
ペット? がお〜。お兄様なら、なでなでして〜。
急にデレるなよ。
普通は怒るよね? ペット扱いされたら。こいつは怒らない、笑ってしまうし、計算高いな、本当。
ペット扱いしたら失礼って自覚があるお兄様、自白して自爆してますね。だってペットならいっぱい甘やかさないと駄目じゃないですか。
そんな小さいことで怒らないです、むしろこのチャンスに乗るしかないって感じです。
…そっか。
さて現実に戻って…俺はイマジナリー妹の助言に従った。
「仲良くは特に、ないかな。友達の友達…でもなんで聞くの?」
七瀬が彼女の顔色を見るように見て、絵梨奈ちゃんが頷く。
おい、イマジナリー妹! ちょっと話が合ってるけど、違うぞ。なんでそんなこと聞くのか聞かれた。どうする?
イマジナリー妹に言われたからって答えてみたら面白そうです、お兄様!
冗談言ってる場合かよ。
だってそうなんですもの…なんで聞いたかってお互い下の名前で呼んでるから、気になった。特に仲良くないなら、これから仲良くやっていこう! と言って下さい。
お兄様、彼女達の言葉に耳を傾けるんです。揚げ足取り得意なお兄様ならやれます。
揚げ足取りか。ならこう言えば良いのか。
「お互い下の名前で呼んでるから、仲良いと思ったからさ。じゃあこれから仲良くしよう!」
お兄様バッチリアドリブきいてますね!
「はい、神崎先輩がそういうなら。あっ、先輩お鼻が赤くなってます。」
絵梨奈ちゃんがポケットからハンカチを取り出し、俺の鼻を優しく拭った。
ハンカチなら柔軟剤のいい香りが鼻に残り、彼女の優しさに少し意識してしまう。
「ありがとう。」
いえいえ、先輩が寒そうにしてるのみて、絵梨奈は辛いです。もうここで食べるのは辞めにしましょう。
「…プクー。なんか除け者…神崎君、私もかまって〜。」
七瀬が顔を膨らませて、袖を摘んだ。
「かまう! チーズケーキ無茶苦茶美味しい。」
「えへへ、ありがと。もっと食べる?」
七瀬の声はやはり甘い。チーズケーキを食べなくても、甘さを感じるなんて、幸せとはこいうものか。
食後に食べるよ。
そっか、ちょっと出すの早かったよね。ごめん、絵梨奈ちゃんの言う通りだね。
七瀬が申し訳なさそうに微笑んだ。
いいえ、神崎先輩が感動してるので、問題ないです。今度私もそのケーキ食べたいです。
絵梨奈ちゃんが優しく笑顔で、少し舌を出す。
さっきまでバチバチだったのに…イマジナリー妹のおかげかな。
違います…彼女達がお兄様の言葉で目が覚めたのです。つまり2人とも一歩大人になったのです。私のお陰ではなく、彼女達が立派なだけです。
えっ? 誰あなた…びっくりしたんだけど。そんな事言うなんて、本当にイマジナリー妹?
お兄様、そんなに驚く事ですか? それより、私と話してないで、2人ときちんと向き合って話してて下さい。後で甘えたいので…クスクス。




