偶然? いや、これは計算だった……らしい。
放課後、俺はいつもの妄想に耽ろうとした。
椅子に寄りかかり、目を瞑るとすぐに聞き覚えのある声に邪魔をされた。
「神崎先輩!」
その声に条件反射で、椅子から立つと目の前に、はにかんだ笑顔の女子が駆け寄って来た。
「おや、絵梨奈ちゃん、勉強会もう少し待っててくれる?」
「その前にお話しできたらと思いまして。
先輩に今度からお弁当作りますので、一緒にご飯を食べませんか?」
「本当? うーん。」
これ浮気ではないか? いや、しかし…2人きり…ええ?
お兄様。浮気ではありません。付き合ってすらいないのですから、ご厚意を受けましょう。ここで拒否したら、可哀想です。救ってくれたお礼ですから、ふふ。
イマジナリー妹、最後の笑みが怪しいんだが? なんか…操り人形になってないか。やれやれ。
ありがとう。そうする。俺の嫌いな物を伝えた。俺は嫌いな物入ってたら、絶対食わない主義だ。
「へー結構2人仲良しなんだね。お弁当作るんだ?」
振り返ると七瀬が両手を組んで、表情を曇らせ、寂しそうな声で見つめていた。
「盗み聞きするなんて趣味が悪いです。聞いてない振りして下さい。」
不機嫌そうに後輩ちゃんが口を尖らす。
教室に漂う空気が一瞬で凍りつく。夕陽の光がより濃くなり、3人の影が床に伸びていく。
うわぁ、おいイマジナリー妹なんとかしろ!
ふっ、ここは七瀬様も誘うんですよ。まったくお兄様は、どうしようもない。
それで断ろうが、参加しようとそれはどうでも良いのです。
ありがとう、マジで天才だな!
お兄様、私しばらく黙ってますね。お兄様が頼り過ぎて、強くてニューゲームさせてる感じがしますので、おやすみなさい。
えー! イマジナリー妹! 無理だよ、俺だけじゃ。
「七瀬もお弁当一緒に食べる?」
「私も? 絵梨奈ちゃんは良いの?」
「神崎先輩が良いなら仕方ありません。」
「仕方ない? やっぱり腹立つ! 神崎君は来て欲しいの?」
えっ…来て欲しいって言われたぞイマジナリー妹!
…
マジかよ! 俺が判断するの? 無理…だがこのままでは…適当で良いか、俺だもん。
しょうがないですね、今回だけですよ? ここは、七瀬も来てくれた方が楽しいから、是非来てよ。これでバッチリです。
ありがとう、妹よ!
ところで、お兄様…不良から助けただけで七瀬様が惚れてると思ってます?
一応彼女の悪口言った子を注意したし、勉強もしてる。
それだけで惚れるなら苦労ないですね。クラスからモテモテ、お兄様を選ぶ理由うっすぅ。
おい、なんで最後だけタメ口?
そこでお兄様に提案があります!
悪い予感しかしねーよ。勘弁してくれ!
七瀬様の…そうですか。なら言いません。
勿体ぶる戦法! 上手いなこいつ!
…
そこまで言って言わないって。俺の負け、聞かせてくれ。
七瀬様の友達と仲良くなります。
仲良くね。俺コミュ力自信ないけど。
そしてその友達にすごく優しくするのです。そうするとこの人、良い人だなと七瀬様に思わせます。
面倒くさい、俺が優しくされたい。でも男子に優しくされると困るな。
そして何かムカムカする感情を、七瀬様に植え付けます。
植え付けるって、畑みたいじゃん。
何かこれって恋? と思わせます。
へー良いじゃん…俺のツッコミ完全無視ね。
そしてそれと同時に友達もお兄様を好きになり、三角関係の完成です。
完成しちゃ駄目だろ!
いえ、成功して良いのです。そうすると友達同士ギクシャクしていきます。そこが狙い目です。仲介しつつ、2人の信頼を高めます。全て演技ですけどね、シシシ。そして、七瀬様を選ぶ。そうするともうこの人しかいないと依存していきます。
恐ろしい、本当に恐ろしい子。
俺そんなこと出来ない! 彼女を故意に傷つけるなんて。
でももう知ってしまいました。最善の方法を! ああいう、モテるタイプって優しい所自分じゃなくて他人にしないと、信じませんからね。そして嫉妬深い。チヤホヤされてるから。
お前…心理戦の魔王だな。
でもお兄様は既にこの状況を無意識で作り出してます。
嘘、じゃないよな、お前が言うなら。
はい、プリンセス絵梨奈様と七瀬様を友達にして、これを完成させようとしてます。恐ろしいのは無意識にやってるお兄様です!
うわぁー!
いや、そんなの偶然…絵梨奈ちゃんだって俺を好きだって言うのは、兄的なだよ。
そうですね、偶然です。ハンカチを届けたのも、いじめを目撃したのも、不良から七瀬様を助けたのも全て…でも偶然も実力がないと偶然にすらなりません。
何が言いたい?
洞察力の高さです。例えばお兄様、先生が来る時間を無意識に読んでたんですよ。ある生徒を見て、こいつは呼んで来ると。あれは偶然でしょうか? いえ、先生が来たタイミングは計算していたのです。
おい、怖いこと言うな。
お兄様は私を作り出した。つまりお兄様は私より賢いんですよ。ハンカチを届けたのも、何かあると洞察。それがいじめだった。
いや、違う違う。違う! ただの偶然だ。
ハンカチなんて後でも良かったですよね? 図書室で渡しても。図書室で絵梨奈様と七瀬様の事注意しても良かったはず。そうしなかったのは、ハンカチの血痕に気がついた。
いやいや、知らないからそんなの。
お兄様は、ご都合主義で助けられたのではありません。天才だから無傷なのです。
…偶然…だよ。
でも俺松岡に殴られる寸前だったぞ。
でも殴られませんでした。それに殴られても死にはしませんからね。先生の足音で近くにいたのはお兄様気がついていました。
それ無意識だろ。俺は知らんよ。
じゃあ女子軍団に叱って成功したのも、偶然じゃないって言うのか?
偶然じゃありません。お兄様はリーダー格の性格を洞察していました。そのリーダーが一番胸に来る事を言ったのです。他の2人は、納得していませんでした。ですが従うしかない。あの場では。
…そんなバカな。俺は驚きのあまり、思わず口に手を添えそうになったが、ギリギリでこらえた。
スタンガン3個買ったのも計算でって言うのか? 偶然だ。怖いから買った。
お兄様、それも偶然ではありません。松岡が2人の仲間を連れてくるのを確信していました。
おそらくですが、お兄様は松岡をまずスタンガンで倒します。そしてスタンガンを捨てて、2人を油断させます。
そしてまたスタンガンを使う。更にもう一度同じ行動。
つまりもうスタンガンは持ってないと油断させる心理を完全に読んでたんですよ。
…そんな…無意識だぞ?
なーんて、お兄様さっきの話信じた?
…嘘かよ?
さぁ?




